火葬
「焦るんじゃねぇ! 敵はたったの女2人だ。俺達全員でかかれば絶対に倒せる!」
ボスとザキ、その2人が相対するのは、アジトの通路を埋め尽くさんばかりにひしめく魔族たち。魔将クラスは1人も居ないが、今誰かが言ったようにこの人数差は圧倒的であり、通常なら勝ち目は無かった。
しかし、あくまでもそれは常識に当てはめたらの話。この場には、常識など一切通用しないバケモノが1人居た。
「⋯⋯大物がいないなら、弾を使うのは勿体ないですね」
ザキはぼそっと隣に居るボスにだけ聞こえるくらいの小声で呟くと、素早く拳銃から弾丸を抜き取った。そしてそのまま流れるような動作で、天井に銃口を突きつける。
――パン、パン、パァン!
乾いた銃声が3回響く。その音に先程仲間が撃たれた瞬間を想起したのか、数人の魔族がビクッと身体を震わせるが、何もないと分かるとすかさず調子を取り戻し威勢良く騒ぎ始める。
「なんだぁ!? 空砲なんかで俺らがビビると思ったのかよ! そんなんじゃネズミ一匹殺すことは出来ねぇぜ!!」
ザキは、そんな魔族に対し冷たい眼差しを向ける。拳銃は既に下ろしており、もう全てが終わったことを言外に告げていた。
「⋯⋯いいえ、死にますよ。今のは弔いの空砲。そして、あなた達の恐怖を想起させる死の音色。死の恐怖は広がり、伝染する。これが⋯⋯『弔銃偽銃』」
直後、ザキの近くに居た魔族数人が、身体の内側から黒い棘のようなもので貫かれ一瞬で絶命する。そして、その異様な死に様を見た魔族は恐怖し、さらに死は広がっていく。
「ひぃっ!? なんでいきなり死んで⋯⋯こ、この黒い模様は何だぁ?」
「兎と蛙の絵がどんどん広がって⋯⋯ぎゃぁー!?」
倒れた魔族を中心に、死の恐怖は呪いとなって広がる。兎と蛙が踊りながら行進していく様子が、魔族の身体をキャンバスに描かれる光景は、まるであの鳥獣戯画のようであった。
そしてよく見ると、その兎と蛙は、文字が重なって描かれたものであることが分かる。それは、ザキの身体に刻まれた、彼女が殺してしまった人間たちの名前であるのだが、そのことを知るのは本人のみである。
魔族は皆、何が起こったのかも分からないまま死んでいく。結果、通路を埋め尽くさんばかりに居た魔族は、銃弾1発と空砲3発のみで、全滅することになったのであった。
「いやー、相変わらず凄いね、ザキは。危なそうだったら部屋に戻ってアケディアの力借りようかとも思ったけれど⋯⋯杞憂だったね」
「あれの力は極力借りないでください。最悪死んでしまいます。⋯⋯それより、ボスの勘でどこか助太刀に行った方が良い場所を教えてください。速効向かいます」
「おや、意外だね。君は真っ先にユウのところに助太刀に行くと思っていたんだけれど」
「ユウの元へ行きたいのは確かです。ただ、今は私情を挟む暇はないでしょう? 私も⋯⋯この場所は居心地が良いと思っています。出来れば誰も、死なせたくありません」
ザキの言葉を聞いて、ボスはちょっぴり感動した。ここに来たばかりのザキは、いつも死に怯えて震え、まともに会話も出来なかった。そんな子が今、率先して仲間の命を救おうとしている。
「これも、愛の力ってやつかなぁ」
「どういう意味です?」
「いや、なんでもないさ。じゃあ、住居エリアに向かってくれ。何となくあの場所が危ないって胸騒ぎがするんだ」
「分かりました。⋯⋯行ってきます。気をつけて」
そう言うと、ザキは光のような速さで通路を駆けていった。ボスは、そんなザキを見送りながら、今もなおどこかで戦っているであろう他の仲間の無事を祈るのであった
〇〇〇〇
「さあ、蛇野郎。お前の相手はこの俺だ。他の奴らには手を出させないぜ」
一方、こちらはザキが助太刀に向かっている住居エリア。そこで対峙しているのは、『リターナー』の食糧管理・厨房担当のトムと、『嫉妬魔将』インウィディアだ。
「⋯⋯あー、ムカつくなぁ。お前みたいなおっさんは地味にモテるんだよ。冴えない容姿な癖に不思議だよなぁ。ああ、ムカつくなぁ!!」
「俺がモテるかはさておき、お前は確実にモテないな。ねちっこい男は嫌われるぞ?」
軽口を叩きながら、トムは戦闘態勢を整える。先程先制攻撃のために生やした竹を1本引き抜き、竹竿として構えると、竹のしなりを活かしてインウィディアに打撃を与えた。
「おらぁ!」
しかし、その一撃はインウィディアの巨大な蛇の尻尾によってあっさりと受け止められてしまう。さらにトムは回転を加え一撃。これもまたあっさりと防がれる。
「くししっ! そんな攻撃、ぼくの鱗を傷つけることも出来ないよ!」
「なぁに、そんなこと分かってたさ。これはあくまでも、時間稼ぎだよっと!」
そう言って、一歩後ろに跳びはねるトム。その姿を目で追ったインウィディアは、いつの間にか巨大な木が生えて視界を遮っていることに気が付いた。
「くそぉ! お、お前、戦えない奴らを守るために木の壁を作る時間を稼いでいたのか。味な真似してるんじゃないよ!!」
「さっき言ったろ? 他の奴らには手を出させないって。そしてこれは⋯⋯ただ壁になるだけじゃない」
トムは、自分の後方に生えた大木を竹竿で軽く叩く。すると、その大木はたちまち巨大なブドウの実を実らせ、その実の1つ1つがインウィディアへと発射される。
「な、なんだこれぇぇ!? お前、なんだよこの変な攻撃はぁ!?」
「これぞ男のロマン、『大幹巨峰主義』!! でっかいことはいいことだ!!」
インウィディアはとっさに尻尾に魔力を纏わせ巨峰の砲弾を防ごうとするが、巨峰はインウィディアに触れた瞬間皮を弾けさせ、フレッシュな果汁と共に中の種を吐き出す。その巨大な種は、インウィディアの鱗を破壊する程の威力があった。
「ま、まさかこんな巫山戯た攻撃でダメージを受けるなんて⋯⋯」
「俺はいつでも本気だぞ? さあ、まだ攻撃は続くぜ。その鱗ボロボロにしてやるから、覚悟しとけよ?」
予想外の攻撃にショックを受けるインウィディアに、追い打ちをかけるべく気合いをいれるトム。
「よくもやってくれたな。ああ、狡い狡い。妬ましい妬ましい。お前のその力⋯⋯『嫉妬』したくなってきたなぁ」
しかし、『嫉妬魔将』インウィディアの真の実力が発揮されるのは、まだこれからであったのだった。




