延焼
本日3話目です!!
「急ぐよユウ! 1番心配なのはラビだ。この警報、ただ事じゃない!」
「はい!」
今、ボクはラブさんと一緒にアジト内を駆けていた。昨日はアケディアの幻覚魔術のせいで大変だったが、今日はさらに一大事だ。これまでラビがこんな警報を出したことはなかったし、自分より前からアジトに居るラブさんも初めて聞く異常事態である。
向かう先は、ラビの自室だ。アジト内は入り組んだ迷路のようになっているが、リターナーのメンバーは全員通路を把握している。
ラビの部屋に到着すると同時に、勢いよくドアを開く。するとそこには、虚ろな表情で転移魔術を発動させているラビと、その後ろでのんびりとくつろぐ魔族が居た。
その魔族の姿を見た瞬間、ボクの頭をズキンと鋭い痛みが襲う。継ぎ接ぎだらけの記憶の中でもやけに鮮明に覚えているその顔は、いつか会って倒さねばならないと思っていた『色欲魔将』、ルクスリアのものであった。
しかしルクスリアは、こちらの動揺など全く理解していない様子で、友人にでも話しかけるような口調でこう告げた。
「あら。思ったよりここに着くの早かったわね。ただ、この子はもうちょっと借りときたいから⋯⋯別の場所で戦いましょ」
ルクスリアがパチンと指を鳴らすと同時に、ラビが転移魔術を発動させ、ボクとラブさん、そしてルクスリアを転移させる。視界が一瞬にして切り替わり、ラビの自室から訓練場へと場所が変わる。
「うーん、2人相手ってのはちょっと面倒くさいけれど⋯⋯早めに終わらせましょっか」
ボクにとっては最も因縁のある相手との戦いは、こうしていきなり始まったのであった。
〇〇〇〇
「⋯⋯ラビが言っていたな。もし自分やアジトに何か大きな問題が起きた時は、こんな警報を鳴らすと。まさか、この警報を聞くことになる日が来るとは思わなかったよ」
ボスはちょうど、朝食を食べに中央のロビーへと向かおうとしている途中だった。その時に警報が鳴り、慌てて部屋から出たはいいが、そこに待ち受けていたのは大量の魔族であった。
「うっひょー! 早速人間が1人やって来たぜ!」
「待ってるだけで人間が勝手にやって来るとか言ってたの、正直疑ってたけれど本当だったな」
「眼帯なんてしているが女だ! 殺す前にいっぱい楽しんでやろうぜぇ!」
本来アジトに居るはずのない魔族が侵入していることで、何かがあったことが確定する。そして、まともな戦闘力を持たない自分では通路いっぱいにひしめく魔族相手に到底勝ち目はない。
「ただ、君達は運がないね。いや、この場合は私の運がいいと言う方が正しいかな。⋯⋯部屋割を決めた過去の自分に感謝しないとね」
「何をボソボソ言ってんだ! お前はもうすぐ死ぬん⋯⋯ぐへっ!?」
ボスに最も近い位置に居た魔族は、最後まで言い切ることが叶わずどこからか飛んできた銃弾によって頭を破裂させられる。
突然の仲間の死に動揺する魔族達。そんな魔族達にさらに追い打ちをかけるかのように、ボスの部屋の隣から出てきたザキは、寝起きの顔を眠たそうに擦りながら、不機嫌を隠さぬ口調でこう告げた。
「⋯⋯私の眠りを邪魔したの、誰です? 寝不足で死んでしまいます。すいませんが、全員死んでください」
そして、場所は変わり、朝食を取るべく早起きして中央のロビーにやって来ていたドクとエミの2人。彼女たちは、望まぬ再会を果たしている最中であった。
「嗚呼、会いたかったぞ。我が嫁となるべき少女よ。我に食われ、我と共に生きようではないか」
「何それキモ! まさかプロポーズのつもりなわけ? てかなんでアンタがアジトに居るのよ」
軽く毒舌を浴びせるドクであったが、内心冷や汗ダラダラであった。それは、隣で臨戦態勢を取るエミも同じだ。
『暴食魔将』グラルート。九州で遭遇した時は何とか逃げ切ることが出来たが、ここは自分たちの本拠地であるアジト内。逃げ場のない絶望的な戦いが始まろうとしていた。
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ルクスリア、グラルート、そして部下の魔族がそれぞれ既に戦闘を始める中、『嫉妬魔将』インウィディアは未だに誰とも戦ってはいなかった。彼が転移で送られた先は⋯⋯これまで『リターナー』が魔族の支配から救い出した人々が匿われている住居エリア。突然の警報に不安げにうろつく人間たちを前に、インウィディアはくししっと不気味な笑みを浮かべる。
「ああ、いいねいいね。こういう雑魚を見ているとさ、嫉妬心すら沸いてこないから気が楽だよ」
弱者をいたぶる優越感に、ついつい気が高ぶる。指先に軽く魔力を集めて放つと、地面に大きな火柱が立つ。その時ようやくインウィディアの存在に気が付いた人間達は、悲鳴を上げて逃げ始めた。
「くしし! 逃げても無駄なのにさ。まあいいよ。お前達はゆ~っくりいたぶって殺してやるからさ⋯⋯ん?」
逃げ惑う人間達の中でただ1人、インウィディアの方へと向かってくる人間がいる。それは、両目を包帯で巻いた盲目のメイド少女、メイであった。
「この場所の管理者として、誰1人傷つけさせません! 私達を助けてくれたあの人達のご恩に報いるためにも!!」
メイは、スカートに隠していたナイフをインウィディア目掛け素早く投げる。特別な能力を持たない彼女が、護身のため身につけた投擲術による渾身の一投。しかしインウィディアは、飛んできたナイフを尻尾の一振りで軽々とはたき落とし、そのままメイの身体を蛇の尻尾で締め付ける。
「才能ない奴がさぁ~、何をやったって無駄なんだよ~!! 自分の弱さをもっと、自覚しろよなぁ~!?」
「か、かはっ⋯⋯!?」
人外の力で身体を締め付けられ、たまらず吐血するメイ。ミシミシと骨の軋む音が聞こえ、死を確信したその時であった。
「⋯⋯おーっと。可愛い子を痛めつけるのはおじさん、許せないなぁ」
地面から突然生えてきた竹が、インウィディアの尻尾を貫く。その鋭い痛みに尻尾の拘束が緩み、地面に落下するメイ。そんな彼女を優しく受け止めたのは、嫌な予感がして慌ててこの住居エリアへとやって来たトムであった。
「あぁ~!? 何格好つけちゃってくれてんのさお前ぇ!! ムカつく、ムカつくなぁ!!」
「ムカついてんのはこっちの方だ。戦えない奴らに真っ先に手出してるんじゃないよ、クソ魔族め」
苛立ちに尻尾をばたつかせるインウィディアを、冷たい視線で睨み付けるトム。こうしてここに、最後の対戦カードも完成したのであった。




