発火
第五章開始です! ここからラストまで一気に行きたいですね
「ふんふんふふ~ん。いやー、昨日はなんだかんだ大変だったのだ。てかボスは何やってたのだ? 長い付き合いだけれどあれは流石にどん引きだったのだ⋯⋯」
アジト内に設けられた自室でパジャマ姿のままベッドに腰掛け足をぶらつかせるラビ。今日は、アベ以外のメンバーが全員アジトに居る、ここ最近だと珍しい日だ。ユウやエミを誘ってゲームでもしようか⋯⋯などと、そんなことをぼんやり考えていた、その時だった。
「⋯⋯あー、羨ましいなぁ。こんな大規模な異空間をたった1人で管理出来るなんて」
じめっとした聞き覚えのない声に、背中に走る悪寒。その2つに寝起きの頭を覚醒させ、戦闘態勢に入る。
そして、身構えるラビの目の前に黒い渦のようなものが出現し、そこからぬるっと姿を現したのは、下半身が蛇の魔族、蛇人族だ。
「羨ましい、妬ましいなぁ。嫉妬しちゃうよなぁ。お前みたいな才能ある奴を見てるとさぁ」
「吾輩は魔王の娘だから当然なのだ。それよりお前、どうやってここを見つけたのだ?」
「そ、それをぼくがお前に教えると思ってるの? 馬鹿なのかな」
くひっと気味の悪い笑みを浮かべる目の前の魔族に、ラビは警戒をさらに強めた。アジトには通常、ラビが許可した人物しか入れないようセキュリティロックがかけられている。仮に場所を特定されることがあったとしても、侵入すること自体が非常に困難なのだ。
それを、どういう手段か無理矢理突破してやって来たこの魔族はただものではない。きっと、大罪七将の1人である。
「むむむ⋯⋯お前、たぶん『嫉妬魔将』インウィディアなのだ。ねちっこい感じがそれっぽいのだ」
「く、くしし!! 当たりだよ。ぼくは『嫉妬魔将』インウィディア。そして⋯⋯いいのかな? ぼくだけに気を取られてて」
そう忠告され、はっとラビが気付いた時には既に、ラビの頭の真横に黒い渦が出現し、そこから飛び出た腕がラビのこめかみに突き刺さっていた。
「うふ~ん♡ ねえ、この子でいいのよね。アジトの管理しているっていう重要人物。私はどんな感じでこの子の精神を支配すればいいかしら?」
「くしし⋯⋯! とりあえず、前情報である程度能力が分かっている奴らから始末していこう。ぼくは勝手に殺せそうな奴らを殺していくことにするよ」
「⋯⋯我は、毒使いの美少女の元へと連れて行け。嫁にするのだ」
ルクスリアの次に姿を現したのは、『暴食魔将』グラルートだ。武人気質な彼が発した「嫁にする」宣言に、何とも言えぬ微妙な表情になるインウィディアとルクスリア。とりあえず発言の意図を深くは尋ねず、作戦を推し進めることにする。
「⋯⋯そろそろ支配完了させないと他の奴が来るぞ。何とかしろよ、オカマエルフ」
「分かってるわよ! ただこの子、意志がなかなか強くて⋯⋯って、あ」
ルクスリアの魔術で直接脳に催眠支配をかけられたラビだったが、何とか最後の意地でアジト全体に警報を発令することに成功した。瞬間、アジト全体に響き渡るサイレンに、慌てた様子でインウィディアがルクスリアを急かす。
「くしし!? おい、早くしろよ。ぼくが嫉妬してもこいつの能力は上手く真似出来ないんだ。早く支配を完了させてぼくたちとついでに部下もアジト内に転移させろよ!」
「だから急かすんじゃ無いわよ! もう少しで完了するわ」
その言葉通り、ルクスリアはラビの精神支配を完全に完了させた。精神を犯され虚ろな表情を浮かべるラビに、ルクスリアは早速こう命令した。
「よーし、良い子ね。じゃあ⋯⋯早速、私たちをあなたの仲間のところに案内して頂戴?」
「我は毒娘のところに頼むぞ」
ルクスリアの言葉に、こくりと頷いたラビは、権能を発動させ、アジト内に居る仲間の元へとルクスリア以外の大罪七将を転移させる。グラルートの願いが叶えられたかどうかは、転移されてみないと分からない。
そして、インウィディアが開けた穴から、3人の大罪七将の部下である魔族も続々アジトへと侵入してくる。ラビはそれら魔族全てを、ルクスリアの命令通りにアジト内に転移させていく。
――この日、『リターナー』のアジトは魔族の急襲により崩壊。1名が死亡、2名が消息不明となる。




