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『幻惑に囚われて』 その3

お待たせしました!!

「よし、これでしばらくは大丈夫か⋯⋯? しかし、こんなことになるんならケチらずに新しいライターを買っておけばよかったね」


「しょうが無いですよ。こんな状況になるなんて想像していませんでしたし⋯⋯。小さくても熱源があるというだけで、だいぶ助かります」


 ボクたちは今、即興で作ったかまくらの中で、何とか暖をとっていた。幻覚で出来た雪だというのにかまくらが作れるのは不思議な話だが、それほどアケディアの幻覚魔術が強力だということなのだろう。


「それにしても、魔術が使えないとは予想外だったね。こんな時、陰陽術を使うアベが居てくれたら楽なんだろうがね」

 

「アベは確か、スクナさんに呼ばれて岐阜に行っているはずです。助けを期待するのは難しいでしょうね⋯⋯」


 それにしても、何故魔術が発動しないのだろうか。以前アケディアの幻覚魔術を受けた時は、このようなことはなかったはずだ。考えられる原因とすれば、もしかして⋯⋯。


 そう思い、かまくらの外の雪景色に向けて『検索(サーチ)』の能力を使ってみる。すると、この幻覚魔術にはザキの魔術無効化能力が混じっていることが分かった。


 そのことをラブに伝えると、訳が分からないという顔をして天を仰いだ。


「⋯⋯なんでザキの能力が混じってるのさ。あー、もういい。分からないことを考えたって仕方ない。とりあえず今は生き残ることだけ考えよう」


 確かに、ラブの言うとおりだ。あとどのくらいこの状態が続くか分からないけれど、もしアジト内で凍死なんてことになったら洒落にならない。


「ライターのオイルは⋯⋯ちっ、もうこれだけかい。これじゃあもってあと1時間程度ってところかね」


「たき火をしようにも、枝なんて見当たりませんしね⋯⋯。下手に動いて体力を消耗する方が危なそうです」


 かまくらの外をちらりと見ると、相変わらず1メートル先すらろくに見えないような猛吹雪だった。今は何とか寒さを凌ぐことが出来ているが、所詮即興で作ったかまくら。防寒機能はそれほど高くない。


 このままじっと動かず助けが来るのを待つか、それとも何らかの行動を起こすか。選択の時は刻一刻と迫っていた。


「うう、寒い。分かっちゃいたことだけれど、ライターの火じゃ満足に暖は取れないね。⋯⋯いっそ、身体に火でも付けてみるかい?」


「冗談止めてくださいよ。魔術使えない状態じゃラブさんの回復魔術も意味ないでしょ?」


「冗談じゃないさ。実際昔はそうやって暖を取ったこともあったしねぇ。ま、今はユウが言うとおり無理なんだけれどね」


「そういえば、ラブさんって昔聖女だったんですよね。じっとしていると寒さで余計なこと考えちゃいそうですし、ラブさんの昔話、聞いてみたいです」


 ラブさんは、「別にたいした過去は無いけどねぇ」と前置きしつつも、嫌がることなく昔話をしてくれた。きっと、ラブさんもボク同様にただ黙ってじっといているだけじゃ良くないと思ったんだろう。


 それにしても、興味本位で聞いてみたけれど、ラブさんの過去は予想以上に壮絶だった。これまでにザキやリズ、ドクの過去は教えて貰ったことがあるけれど、その3人にも負けないうらい凄い過去だ。特に、返り血を洗うのが面倒くさくて髪を真っ赤に染めたというエピソードなど、なかなかにヤバいと思う。


「⋯⋯とまあ、そんなわけで、あたしは聖女なんて言われていたけれどさ。実際やってたことは蛮族と変わらないわけよ。当時は若かったから、ノリノリで聖女名乗って無茶苦茶やってたけれどね。今思うと、自分でもちょっと恥ずかしいよ」


「そんなことないですよ。ラブさんに助けられた人達にとって、間違いなくラブさんは聖女だったと思います。それに、皆の治療をしている時のラブさんって、凄く優しそうな顔しているじゃないですか。あなたは間違いなく聖女ですよ」


「んんっ⋯⋯!? ユウ、あんたねぇ、そんなんだからザキみたいな厄介な奴に惚れられるんだよ! ったく、いつか刺される羽目になっても治療してやらないからね」


 顔が真っ赤になっているのは、たぶん寒さのせいじゃないだろう。普段は男っぽい言動が目立つラブさんだけれど、結構感情が表情に出やすいし、こういうところはとても可愛いと思う。


「ふふ、ラブさん、顔が髪の毛みたいに真っ赤ですよ。可愛いですね」


「だーかーらー!! ⋯⋯もういい。これ以上反応しても疲れるだけだ。それよりも、さっき昔話したおかげでこの事態を打破する方法を1つ思いついたよ」


「え!? ほ、本当ですか? 一体どんな方法なんです?」


 もしかしたら、聖女として戦っている時に雪国でサバイバルをした経験でもあったのだろうか。もしそうだとすれば、この状況を打破するきっかけになるかもしれない。


 そう思いずいっと距離を詰めると、何故かラブさんは顔を赤く染めたまま、らしくない小さな声でこう言った。


「⋯⋯『奇跡』を起こせば何とかなるかもしれない。だから、ユウ。ちょっと裸になってくれ」


 一瞬、ラブさんの言ったことが理解出来ず、沈黙が辺りを包む。そして、その沈黙に耐えきれなくなったのか、ラブさんがボクの服を無理矢理脱がせようと襲いかかってきた。


「ちょ、ちょっと! いきなり何やってるんですか!! せめてちゃんと説明してくださいよ!!」


「うるせぇ! あたしは聖女として1日1回だけ『奇跡』を起こせる力を持ってるんだよ!! ただ、聖女の奇跡を起こすには一切の穢れを払わなければならない⋯⋯つまり、服を脱いで全裸にならないといけないんだ。でも、1人で全裸になるのは恥ずかしいだろ? だから、あんたも観念して全裸になりな!!」


「あ、そういうことならいいですよ」


「納得するのかい!? そこは普通拒否するだろ!!」


 さっきは無理矢理脱がせようとしたのに、こちらが受け入れても怒られるというのは流石に理不尽じゃないだろうか。


「いや、だってちゃんとした理由があるんですよね? だったら拒否する理由ないじゃないですか。ボクが脱いでラブさんの羞恥が薄れるなら、喜んで脱ぎますよ。別に減るもんじゃないですしね」


 ラブさんが恥ずかしくないよう、ボクは先に服を脱ぐことにした。流石にちょっと寒い⋯⋯いや、かなり寒いけれど、これで助かるというならば、裸なんてやすいもんだ。


「あ、アンタ⋯⋯。東北の時も思ったけれど、結構スタイルいいよね。あと、腰のところに何か文字みたいなホクロが⋯⋯これってアルファベットかい?」


「あの⋯⋯流石に恥ずかしいし寒いので、脱ぐなら早くしてください」


「あ、ああ。すまないね。アンタの覚悟にこたえるためにも、あたしも本気を出すよ」


 そう言って、ラブもするするっとシスター服を脱ぎ始める。何だか、目の前で服を脱いでいる姿を見るのは、同性同士でもよくないものを見ているような気分になるから不思議だ。東北で温泉に入った時に裸は見ているはずなのだが、こんな特殊な状況だからか、無駄にドキドキしてくる。


「⋯⋯さっきあたしも似たようなことしたから他人のこととやかく言えないけどさ。あんまりじろじろ見ないでくれるかい?」


「あ、すいません、つい。ラブも凄い綺麗な身体していますよね」


 お互い一糸まとわぬ姿になったことで、恥ずかしさより寒さが勝る。今度はラブも特に赤面することはなく、暖を取るために互いに身体をぎゅっと寄せ合った。


 そして、ラブは両手を組み、天に祈りを捧げる。その姿は神々しく、まさに『奇跡』を呼ぶ聖女に相応しい姿であった。


次回で第四章は終了します!

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