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『幻惑に囚われて』 その2

お待たせしました。ちょっと最近稲作にはまってまして⋯⋯。また落ち着いたら更新すると思います。

「ちょっと⋯⋯これ一体どういうことよ?」


 ドクは苛立たしげにそう口にした。しかし、たまたま一緒に居たエミもドクの疑問に答えることは出来ない。むしろ、この予期せぬ事態に若干パニックになっているくらいだった。


「わ、私も何がなにやら⋯⋯。さっきまでここアジト内でしたよね? もしかして、ここのアジトって定期的に内装がリニューアルする仕組みになっているんですか?」


「なわけないでしょ。もしそうだとしてももう少しマシな内装にするわよ。てか砂漠ってどういうわけ!? 馬鹿なの!?」


 そう、ドクとエミの2人は、アケディアの幻覚魔術によって砂漠へと変えられた空間の中に閉じ込められてしまっていた。もしこのまま何も対策をしなければ、本来空はないはずのアジト内部において、燃えさかる真っ赤な太陽の熱に照りつけられ脱水症状で死んでしまうであろう。


「と、とりあえず水を⋯⋯ああ、私水持ってません!! どどど、どうしましょう。最悪小水を⋯⋯いや、流石にそれはキツいですし⋯⋯」


「慌てるんじゃないわよ馬鹿。無駄に慌ててもどうにもならないわ。何があったかは分からないけれど、時間が経てばザキかラビかがこの手の問題は解決してくれるでしょ。その間、ドクちゃんは自分が出来ることをするわ」


 そう言うと、ドクは化粧ポーチの中から、ピンク色のパフを取りだした。そして、2つのパフをポンポン叩いて白い粉をパパパッと地面に降り積もらせる。


「女の子にとって化粧は魔法のようなモノ。ドクちゃんの化粧は、さらに特別な魔法をかけることが出来るの。『化粧美術師(コスメスタイラー)』ドクちゃんのとっておきのマジカルパフ。その白い粉で砂漠を冬に変えなさい!!」


 すると、ドクが粉を振らせた場所にたちまち雪が積もり、一気に気温が下がっていく。砂漠の中にポツンと雪が積もっている光景は、何とも不思議であった。


「これがドクちゃんオリジナル、『雪化粧』よ。まあ、あくまでも化粧で雪が積もっているように見せているだけなんだけれど⋯⋯この砂漠も幻覚っぽいし、これで対策は充分みたいね。そして、あの見ているだけでクソ暑い太陽は、こうしてマスカラでマツゲを濃くしてっと。⋯⋯エミ、アンタにもメイクしてあげるからもう少しこっちに来なさい」


 ちょいちょいっと手招きするドクに素直に従い、アイメイクを施して貰ったエミ。すると、粉がかかっていた場所のみ降り積もっていた雪が砂漠全体を覆い、あんなに眩しかった太陽の熱も弱くなったように見えるではないか。


「⋯⋯ドクさん、これ凄いですね。メイクってこんなことも出来るんですか」


「こっちはおまけの効果みたいなものだけれどね。ただ、こういう幻覚系には相性がいいのよ。さあ、これで時間は充分過ぎるほど稼げるでしょうし、アンタはドクちゃんのためにかまくらでも作ってちょうだい」



〇〇〇〇



「え、えへへ⋯⋯。ここの湯に入ると、東北の時のことを思い出しますね⋯⋯。でも、あんまり入りすぎるとのぼせて死んでしまうので、これくらいで上がることにします⋯⋯」


 幸せそうな表情で、温泉の中で1人呟くのは、先日ラブと共に任務から戻って来たばかりのザキであった。本当は、このまま湯に浸かってユウが入るのを待とうかとも考えたが、彼女の異常なまでの生存本能は長時間の入浴を許すことが出来なかった。


 そして、温泉から上がったザキは、すぐにアジトに起こっている異変に勘づいた。


「ん⋯⋯。な、なんか肌がピリピリします。これ、魔術ですか? 見えないけれど、感覚と臭いでアケディアの幻覚魔術ってことが分かりますね⋯⋯。はっ!? もしかして、ユウが危ない!?」


 自らの最愛の人物の危機。それを察したザキは、湯に浸かっている間も傍に置いていた拳銃を握り締め、下着とホルスターだけ装着すると全速力で走り始めた。


「⋯⋯後で謝りますので、すいません!!」


 ザキが放った銃弾は、本来のアジトの壁を破壊し、幻覚も無視して強引に道をこじ開けていく。目指すは、本能が指し示すユウの居場所。


「待っててください、ユウ。わ、私が今、迎えにいきます⋯⋯!」



〇〇〇〇〇



『ビエエエエエエエーーーーー!!!!!』


 一方その頃、今回の騒動の元凶であるアケディアの居る地下農場では、この事態を何とか収めるべくトムとボスがわたわたと議論を繰り返していた。


「うーん、やっぱダメだ。魔術使えないわこれ。こいつ封じるのにザキの髪の毛使ってたからその副作用ですかね。とりあえず、ラビに連絡しましょう。あいつなら何とか出来るんじゃないですかい?」


「無理だな。この時間はアイツはお昼寝中。連絡が通じたためしがない」


「それじゃあどうするっていうんです。これ放っておくと冗談抜きで不味いよ。⋯⋯殺す?」


 トムの目は本気でアケディアを殺すべきだと訴えている。しかしボスは、どうもこのアケディアを殺す気にはなれなかった。泣きわめくアケディアが、まるで人間の赤子のように見えたからだ。


「⋯⋯そうだ。赤子と同じと思えば対処は出来る。しかし、私に出来るかどうか」


「何か思いついたんです!? 殺すのがダメっていうなら、ダメ元でいいから試してみてくださいよ!」


 トムに急かされたことで、ボスは自分の中で覚悟を決めた。⋯⋯いや、実際とっさの事態に頭が混乱してろくな思考が出来ていなかったのだろう。そうでなければ、このような行動をとろうとは思わなかったはずだ。


 ボスはこの時のことを思い出して、赤面し数日部屋から出なくなる程落ち込むのだが、それは後日の話。今この時は、真剣に考えて上着を力強く捲り上げた。


「アケディアの精神レベルは今赤子とほぼ同じ⋯⋯ならば、私が母乳を飲ませて落ち着かせてみせる!!」


「⋯⋯は? え、ボスって妊娠とかしてました?」


「いや、結婚もまだだし彼氏居ない歴32年だ。しかし、私とて女の端くれ。母乳くらい、気合いで出してみせる!!」


「いやいや、気合いとかそういう問題じゃないでしょうに⋯⋯。え、アケディア抱えてどこに行くんです。まさか、マジで言ってましたそれ!?」


「ああ、大マジだ。そして、流石にお前相手とはいえ授乳している姿を見られると恥ずかしいからな。どこか身を隠せる場所があれば⋯⋯お、ちょうどいい幻覚が出たな。どれ、入らせて貰うとするか」


 ボスの声に反応したかのように、アケディアの幻覚で産み出された小屋。その中に入っていったボスは、母乳をひねり出すべく気合いの雄叫びを上げるのであった。


「うおおおお!! 待っていろ皆!! 私が母乳を出して、助けてみせるからなぁぁ!!」


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