表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/84

『防人、そしてアマビエ』 その5

お待たせしました。最新話投稿です。最近なかなか執筆の時間取れずにしんどいですが、11月になれば少しは更新頻度も上がるかと思います。

「あー、しんど⋯⋯。なんで山なんか登らないといけないのよ。エミ~、あんたちょっとおぶってくれない?」


「嫌ですよ。重いですし」


「⋯⋯可愛い女の子に向かって重いとか、酷くな~い? それに、ドクちゃんそんな重くないんだけれど」


「いやいや、足音から体重はだいたい分かりますよ。昨日の暴食で2キロ体重増えてますし、今の体重はおそらくごじゅ⋯⋯」


 最後まで言い切る前に、ドクの肘がエミの鳩尾に思いっきり入り、たまらず悶絶する。どの時代でも、女性に対し体重と年齢を口にすることは厳禁なのである。正確にはドクは女性ではないが、細かいことを気にしてはいけない。


 エミとドクは現在、アマビエが居るという情報があった阿蘇山の山頂近くまで登ってきていた。


 阿蘇山とは、熊本県の阿蘇地方に位置する火山であり、『カルデラ』と呼ばれる火山特有のくぼ池で有名である。かつてはきちんと登山道が舗装されていたが、人間が手入れすることが無くなって久しい現在では、草木が生い茂り登山道を覆い、なかなかに登りにくい。


「ところで、あんたの耳を信じて山頂近くまで来たけれど、ホントにここまでの道中でアマビエっぽい気配はなかったわけ? これでもし途中に居たとかだったらとんだ骨折り損よ?」


「そこは信頼してください。少なくともここに来るまで、動物の気配は全く感じませんでした。⋯⋯ちょっと止まってください。何か、上の方から声が聞こえました」


 常人よりも優れた聴覚を持つ耳は、誰かの話す声を捉えた。しかも、声は2人分ある。ドクさんにそのことを指文字で伝え、一旦道から外れて山頂へと近づいていく。


 山頂に居る何者かに気付かれないよう、ゆっくりと登っていくと、次第に声は大きくなっていく。この頃になると、ドクさんも声が聞こえたようで、少し離れた場所でいつでも飛び出せるよう身構えていた。


「ガ⋯⋯!? ちょ、ちょちょ、このアマビエ様に対してこの暴挙、マジ許すまじだよ、君ぃ⋯⋯!! ボクの美しいボディとフェイスに、傷が付いてしまうじゃないかぁ!!」


「五月蠅い。黙れ。弱者の言葉には何の価値も無し。そもそも貴様はどの口で自らを美しいと称することが出来るのだ。美しさとはかけ離れたような古くさい魔族もどきが⋯⋯」


 もう会話どころか、姿がはっきりと見える場所まで近づいた。だが、この状況は非常に不味い。


 私達が探していたアマビエと思わしき妖怪⋯⋯やたらと派手な色をした鱗をまとったナルシスチックな男性の見た目をしているため、ぱっと見だけでは確証が持てなかったが、自分で『アマビエ』だと名乗っているので恐らく間違いはないだろう。ただ、問題はそのアマビエが謎の魔族によって首根っこを掴まれ、今にも握り潰されそうになっているということだ。


 そして、アマビエ以上に問題なのは、その魔族だ。茂みから眺めているだけでも分かる巨躯に、担ぐ大剣は身体よりも大きい。何より、直接向けられている訳でもないのに、この殺気だ。全身の毛が逆立つのを感じる。あの魔族は⋯⋯ただ者ではない。かつて戦った『憤怒魔将』イライザを思い出すような、圧倒的な存在感だった。


「あああああ!? 痛い痛い痛いぃぃ!! 貴様、このアマビエ様をこれ以上傷つけると天罰が下るよ!? ボクは妖怪でありながら多くの人間に信仰された存在、いわば神なんだ! 神殺しは魔族といえども恐ろしいことだろう!?」


「神か。本当にそんなモノが存在するならば、いつか食ってみたいものだ。我が信じ、崇める存在は魔王様ただ1人。そもそも、貴様のような汚らわしい存在が神であるものか。神ならば、奇跡の1つでも起こしてみたらどうだ?」


 アマビエの脅しにも動じることはなく、ますます締め付ける力を強める魔族。このままではアマビエは殺されてしまうだろう。慌てて飛び出ようとした私に、ドクさんが指を口に当て、『静かに』と合図を送ってきた。どうやら、もう少し様子を見るようだ。私より経験豊富なドクさんがそう指示を出したからには、何か理由があるのだろう。大人しく従うことを決め、再び茂みに隠れる。


「い、言ったな!? ならば、神の裁きを受けるといい! カーッッ!!」


 アマビエは苦しげにもがきつつも、急に奇声を発し、目を白く輝かせる。するとその直後、私達の見ている前で、魔族の胸の辺りに黒いモヤのようが浮かび上がった。


「⋯⋯成程。やはり、我の目に狂いはなかった。貴様があの病の元凶か。神は神でも、どうやら疫病神の方であったらしいな」


「カーカッカ! お前、人間達の病のことを知っているのか? ならばこれが不治の病であることも分かるだろう! ボクは昔からこうやって、自ら病を広め、それを治すことで信仰を集めてきたんだ!! 人間たちは頃合いを見て里に下りて、ボクの絵を描かせることで病を治そうと考えていたが、お前は例外だ! 今すぐ死ね、この罰当たりめがぁーー!!」


 ⋯⋯何だか、あまり知りたくない事実を知ってしまった。防人の人達の病気を治して貰うためにアマビエに会いに来たが、その病の元凶こそアマビエだったとは、とんだマッチポンプだ。ちらっとドクさんの方を見ると、もの凄い冷え切った目でアマビエを見ていた。


 そして、私達から冷えた視線を送られているということも知らずに、カッカッカと高笑いをしていたアマビエだったが、病を送りつけられた魔族は一向に弱る気配はない。それどころか、胸の辺りに見えていた黒いモヤは、次第に小さくなってきていた。


 ようやくそのことに気が付いたアマビエは、信じられないといった風に目を丸くしていた。


「ば、馬鹿な! 何故病が消えていくんだ!?」


「⋯⋯我は『暴食魔将』グラルート。あらゆるモノを喰らい、支配する者。これしきの病の種など、簡単に消化出来る。不味かったがな」


 やはり、先程の感覚は間違いではなかった。『大罪魔将』の1人、『暴食魔将』グラルート。いつかは倒さなければならない相手とはいえ、こんな場所でお目にかかることになるとは正直予想外だ。


 そして、何事か喚くアマビエの首を無感情にもぎ取り、がばっと口を大きく開けて丸呑みにしたグラルートは、残ったアマビエの胴体を力強く蹴り飛ばした。


「⋯⋯さあ、そこに隠れている者よ。我の前に姿を現せ」


 胴体が飛んできた方向は、私が隠れている茂みその場所だった。とうの昔に、ここに潜んでいたことはバレていたらしい。とっさに飛んできたアマビエの胴体をかわし、くるくると空中で回転してから着地する。


 充分距離は取って着地したが、正面に立つと迫力が段違いだ。グラルートの重圧を受けながら、私は隠れているドクさんが無事この場所から逃げ切れることだけを祈った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ