『防人、そしてアマビエ』 その3
お待たせしました! 深夜ですが最新話更新です!!
「そこまで! 勝者、兎耳の少女、エミ!!」
審判の合図で、私は蹴り上げていた足をゆっくりと下ろす。目の前には、大の字になって地面に倒れる大男がいた。
決着は、思っていたよりも呆気なくついた。棍棒を軽々と振り回す男のパワーは恐ろしいものがあったが、当たらなければなんともない。それに、試合中やけに息を荒げている場面が多かった。
もしかしてと思い、倒れた男の額に手を当ててみると、明らかに熱を帯びていた。きっと、この人も部屋の奥で倒れていた病人達と同じ病気にかかっていたのだ。
「よーし、よくやったわエミ。まずは一勝ね。後はこのドクちゃんがあの頑固親父に毒を盛って⋯⋯」
「待ってください! この決闘、中止すべきです!!」
「はぁ!? ちょ、それどういうことよ!!」
ドクさんが事情を尋ねてくるが、説明している暇はない。私は、防人陣営に控えているハカタさんに近づき、その額に手を当てた。
「おい、何しよっとねお前さん! 女子がみだりに男に触れるもんじゃなか!」
「⋯⋯やっぱり。ハカタさん、あなたも凄い熱があるじゃないですか。もしかして⋯⋯いや、あなた達防人全員、病気にかかっているんですね!?」
私がそう指摘すると、ハカタさんは顔をそっと逸らした。恐らく図星だ。きっと、この人達は自分が病気にかかっていることは自覚しつつも、今まで気合いだけで耐えてきたのだろう。
なんて根性なのだろうか。そして⋯⋯なんて馬鹿な人達だろうか。気合いで病気が克服できるならば、医者なんていらない。このまま放置していたら、間違いなく死人が出ていただろう。
「はぁ!? エミ、あんたそれ本当なの!? あんたら全員病人だったってわけ!? 馬鹿でしょ、ほんっと馬鹿!!」
「しゃーしぃ!! 自分のことは自分がいっちゃん良く分かるったい! これまでも気合いで耐えてきたんやけん、これからも平気なはずったい!! そういやお前との決闘がまだやったな⋯⋯おい審判、始めるぞ!!」
「病人なんかと戦えるわけないでしょうが! あー、話し合いじゃ埒があかないから力尽くで話聞かせようと思ってたのに、これじゃあその方法も取れないじゃないの!! ⋯⋯もういい。エミ、ここを出るわよ!!」
ドクは、怒りで顔を真っ赤にしながら、審判を押しのけ決闘会場を出て行こうとする。慌ててその後ろを追いかけると、背後からハカタのがなり声が聞こえてきた。
「おい、待たんか貴様んら! 逃げる気か、卑怯者め!!」
しかし、ドクはハカタを無視して歩き続ける。その瞳は、怒りでギラギラと燃え上がっていた。
会場を出た後もドクはしばらく無言で歩いていたが、不意に立ち止まり、地面にカチューシャを思いっきりぶん投げた。
「あーもう! 何のよアイツら!! なんでドクちゃんがあんな馬鹿共のためにむかっ腹立てないといけないわけ!? ねえ!?」
「え、えーっと⋯⋯まあ、一旦落ち着きましょう。ところで、今私達はどこに向かっているのですか?」
「あの馬鹿な連中は頼りにならないってことがはっっっきりと分かったからね!! もうひとつの目的を果たしに行くのよ!!」
「もうひとつの目的⋯⋯確か、アマビエとかいう妖怪さんの協力を得ることでしたっけ?」
「そうよ! ドクちゃん的にはそんな頼りになるかすら分からない妖怪を探すより防人連中と話を付けた方が簡単だと思っていたけれど、とんだ誤算だったわ! ちゃっちゃと協力取り付けて、アジトに戻りましょう!!」
『アマビエ』⋯⋯この地、九州に行く前に、アベさんから話を聞いてどんな妖怪かは知っている。今の熊本県にあたる肥後国の役人がその妖怪の姿を瓦版に記したとされる妖怪だ。
見た目の特徴は、長い髪に鱗、そしてくちばしのような部位を持つ奇妙な生物だ。そして、その見た目以上に奇妙なのはアマビエにまつわる伝承の方だろう。
アマビエは、自分の姿を見た役人に対し、「疫病が発生するから、その時は私の姿を書き写した絵を人々に見せよ」とそう告げたそうだ。
「アマビエ⋯⋯もしかして、あの防人の人達の病気も治してくれますかね?」
「どーだか。そもそもその伝承とやらも、ただ『絵を見せろ』って言っただけで、『私が治してやる』とは言わなかったんでしょ? なんか現代でも病気が流行った時にアマビエの絵を描いたりしたことがあったみたいだけれど、それで流行が収まったわけじゃないしぃ? 結局のところ自分たちで何とかするしかないのよ。他人任せなんて弱い奴のやることだわ」
「確かに⋯⋯ドクさんの言うとおりですね。でも、一応お願いしてみようと思います。このままあの人達を病気で死なせるのは、なんか嫌ですし」
「あんたもお人好しねぇ⋯⋯。やっぱり、アンタとユウ、結構似てるわよ」
ユウお姉ちゃんに似ていると言われると、少し嬉しい。そして、なんだかんだ言ってドクさんもいざとなれば防人の人達の病気を治すことに反対はしないだろう。協力を得るため⋯⋯そして、防人の人達の病気を治すため、私達は再び動き出したのであった。




