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『防人、そしてアマビエ』 その1

今回から九州パート突入! エミちゃんとドクの二人が任務にあたります!

「ドクさん、今日はよろしくお願いします!」


 ぺこり、と頭を下げると耳が大きく揺れる。もう身体の一部となってだいぶ経つから、対面に居る先輩⋯⋯ドクさんに耳が当たったはずはないのだけれど、ドクさんは渋い顔でこちらを睨み付けていた。


「はぁ⋯⋯。ったく、なんでドクちゃんが新人教育担当なのよ。こういうのはお人好しのユウ辺りに任せておけばいいじゃない」


「え、えっと⋯⋯そのユウお姉ちゃん、じゃなくてユウさんが、『ドクさんは親切だからエミちゃんの教育係にぴったりだと思います!』とボスに進言したみたいです」


「はぁ!? あんのうすらトンカチぃ⋯⋯! 面倒を他人に押しつけてるんじゃないわよ! ⋯⋯いや、あいつのことだから本気で言ったのよね、たぶん。それが余計タチが悪いわ!!」


 ユウお姉ちゃん⋯⋯まるで私のお兄ちゃんみたいに優しくて親切なあの人が推薦した人だというから、よっぽど親切な人なのだろうと思っていたら、全然そうではなかった。不機嫌な態度を隠そうともしないその様子は、あまり好ましくは思えない。


 こんな人とこれから九州で初めての任務を一緒にすることになるのは、正直不安だ。本音を言えばユウお姉ちゃんと一緒が良かった。でも、我が儘を言える立場ではないことは知っている。新人っていうのはそういうものだ。


「そういえば、目的地は九州と聞きましたが、どうやって行くんですか? まさか電車とか⋯⋯?」


「んなわけないでしょ、馬鹿。うちには便利な運び屋がいるのよ」


 運び屋とは一体誰のことなんだろう。アジトにいるメンバーには一通り挨拶したけれど、該当する人物が思い浮かばない。色々と脳内で予想を立てながら先を歩くドクの後ろをついていく。


「お? ドクに⋯⋯エミ! 二人が一緒に居るということは、これから初任務なのだ?」


「そーよ。いいからさっさと九州まで飛ばしてちょーだい」


 どうやら、ラビさんが私達を九州まで運んでくれるみたいだ。ラビさんは、魔族ということで最初はかなり警戒していたけれど、話してみるととてもいい人で、しかも小さくてとても可愛らしい。


この前もユウお姉ちゃんとラビさんとの3人で一緒にお菓子を食べながらお喋りしたりと、アジトではユウお姉ちゃんに次いで仲良くして貰っている人だ。


「エミ、ドクは口は悪いけれど嫌な奴じゃないのだ。だから安心して大丈夫なのだ」


「何本人の目の前でそんなこと言ってるの? しばかれたいわけ?」


「わー、こわいのだー。怖いからさっさと九州まで飛ばすのだー。エミ、初任務しっかり頑張るのだ!!」


「ちょ、まだ話は終わってないわよ!」


 ドクはラビに掴みかかろうと手を伸ばすが、その時には既に周りの景色は土肌丸出しのアジト内部から解放感溢れる外の景色へと変化していた。


 ドクは行き場のなくなった手を使い、ぴっと親指で首をかっ切るジェスチャーをする。そして相変わらず不機嫌な様子のまま、こちらへと振り向いた。


「⋯⋯はぁ。気が乗らないけれど、任務はしっかりこなすわ。アンタ、今日の任務が何か、ちゃんと覚えているでしょうね?」


「はい。えーっと、九州に本拠地を構えていると言われている『防人(さきもり)』の皆さんとの接触、そして妖怪『アマビエ』の協力を得ること⋯⋯ですよね?」


「ふーん。そこら辺はユウの奴よりしっかりしてるじゃないの。妹の方がしっかりしてるみたいね。⋯⋯あ、本当の姉妹じゃないんだっけ?」


「あ、はい。そうです。お姉ちゃんって呼んでるのは私が勝手にそうしているだけで、本当の姉妹じゃありません」


「ふーん⋯⋯。まあ、アイツの本当の妹もいつかは見つかるでしょ。アンタ、アイツと仲いいみたいだし、色々と協力してあげなさいね?」


 先程はあんなにボロクソ言っていたにも関わらず、なんだかんだ仲間のことは気に懸けているみたいだ。ラビが言っていた、『口は悪いけれど嫌な奴ではない』という意味が、何となく分かった気がする。


「ほら、何ぼけっとしてんのよ。あんまりトロいと置いていくわよ?」


「大丈夫です。私、兎なんで足は速いですから!」


「いや、そういう意味じゃなくて⋯⋯。うーん、こういうちょっとずれてるところはアイツに似てるのよねぇ。本当に姉妹じゃないのかしら」


 先をテクテクと進むドクの歩みには、一切の迷いはない。それもそのはず、私達が進む道路は、きっちりと舗装されていて、目的地もしっかりと見えているのだ。


「さあ、あれが最初の目的地⋯⋯現在の日本で唯一、人間が自由に生活することが許されている場所、『デジマ』よ。そして、そこに『防人』の本拠地もあるわ」


 事前に話は聞いて居たが、実際に目にすると驚くものがある。そこには、人間が自由に店などを行き来する光景が広がっていた。しかも、その表情に暗いものは見られない。皆、まるで魔族に支配される前のように普通に生活を送っているのだ。


「⋯⋯支配する魔族が違うと、こうも違うものなんですね。正直、薄気味悪さすら感じます」


「あー、あの場所にずっと居たアンタにとっては、そう見えてもおかしくないかもね。ドクちゃんも初めて見たときは自分の目を疑ったし。でも、これが現実。この地方を支配する『暴食魔将』グラルート⋯⋯奴は、九州にやって来た際に命を投げ捨てて向かってくる人間達の姿勢に感動し、この『デジマ』を設けたと聞くわ。月一で自らに挑戦すること、そして一定量の米を献上することを条件に、自由を許している。そして、グラルートに月一で挑戦する権利を得た戦士たちこそ、『防人』と呼ばれているっていうわけ」


「防人⋯⋯」


 今から私達が会おうとしている、防人という存在。私は、そんな彼らにかつての自分を重ねていたのであった。


次回、防人との接触。そして⋯⋯

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