『リョウメンスクナ』 その2
お待たせしました! ちょっと間空いちゃったのは作者が自動車学校に通い出して昼間忙しかったせいですね。早く免許を取りたい。これからはなるべく毎日、もしくは隔日投稿で頑張りたいと思います。
「一歩進んで二歩下がる。目的地に近づいていると思っていても、逆に遠ざかっていることもある。だから逆に考えるんだ。下がってもいいさと。そうすれば合計3歩下がって振り出しに戻る」
「なるほど。おいユウよ。どうやら目的地は近いようじゃぞ」
サトリの意味不明なメッセージを読み取ったご隠居は、目的地が迫っていることをボク達に告げた。サトリが実際にその事実を伝えていてかは正直怪しいところだが、目を凝らすと確かに寺のようなものが見えた。
「ねえねえご隠居~。何だかすっごい禍々しい気配するんだけれど、これだいじょーぶ?」
「むむ⋯⋯。確かに凄い妖気じゃな。あまり近寄りたくないのう」
そして、ボクは何も感じないが、陰陽師のアベと、妖怪であるご隠居はあの寺から発せられる妖気とやらを感じ取っているようだ。いつも明るいアベが珍しく弱気な様子でご隠居の袖を掴んでいることから、あそこに居るのが相当ヤバい存在だということが分かる。
それでも、今回の目的はあそこに居るであろう両面宿儺の協力を得ることだ。ヤバい雰囲気だからといってこのまま何もせず帰るというわけにはいかない。
「⋯⋯ここは、ボクが先頭になって寺の中に入ります。お二人より妖気とやらを感じない分恐怖は少ないですから。何かあっても、ある程度の自衛は出来ますし」
「マヨネーズ少年少女よ。そういう台詞は真っ先に死ぬ奴が吐くものだ。サメ映画でもそう言っていた。我らは先人の知恵に学ぶ必要があるのだ。⋯⋯こんなところに居られるか。帰らせてもらうぞ」
スク水の食い込みを直しながら、サトリはそんなことを言ってくる。相変わらず意味は良く分からないが、何となくこちらに警告をしてくれているのだろうと感じた。
「えっと⋯⋯マヨネーズなんちゃらって、ボクのことですかね? ご心配ありがとうございます。でも、ボクは行かなきゃいけないんです」
「死亡フラグはサトリが水着の食い込みと一緒に直しておいた。それが運命だというのならば、君は従うべきだ。そして、アイスバーの当たりが出た時は、洗ってから店に持っていくべきだ。べたつきは禁物。対人コミュニケーションで最も大切なのは、サラサラしていることだというわけだな」
「なるほど。勉強になります!」
何だか凄く深いことを言われている感じがして、つい礼を言ったが、別にたいしたことは言われてない気もする。これ以上サトリと会話していると変な空間に迷い込みそうなので、気持ちを切り替えて目的地に集中することにした。
「よいか、ユウよ。お主が先頭で行くことは別に反対せん。ただ、1つだけ忠告しておこう。リョウメンスクナを見ても、決して恐怖に飲み込まれぬことじゃ。恐怖に呑まれてしまえば、死ぬことになるぞ」
「え、ユウっち死んじゃうの!? そんなの嫌だよ。死んだらマジぴえんだから、気をつけてね!」
ご隠居の忠告を背に受けて、ボクは寺の内部へと足を踏み入れた。すると、一瞬にして空気が変わったことが分かった。ひんやりじめっとした嫌な空気だ。そして、その空気と同時に、どこからか艶っぽい声が聞こえてくる。
「⋯⋯おや? この場所に人間が来るのは、随分久しぶりでありんすなぁ。もう少し、こちらへ⋯⋯わっちの方へ、近づいて来なんし」
「惑わされるでないぞ、ユウよ。気をしっかりともつのじゃ!」
その声に呼ばれるようにふらふら~っと動き出していたボクは、ご隠居のおかげではっと我に返ることが出来た。
「ちっ。どうやら野暮なのも一緒についてきているみたいでありんすな。⋯⋯まあ、別に気にしないでありんす。わっちは兎に角、ここから解放してくれればそれで充分。猫でも豚でもいいから、早くこちに来てくんなまし」
今度は、ご隠居も止める様子はなかったので、その声が聞こえる方へとゆっくりと近づいていく。どうやら、声は本堂の中から聞こえてくるようだ。1度全員と顔を見合わせ、そして覚悟を決めて一気に戸を開く。
その中に居たリョウメンスクナは、イメージした姿とは随分と異なる姿をしていた。正面から見ているせいで顔が1つしか見えないのも理由の1つかもしれないが、思っていたほど禍々しい雰囲気はなく、細かいことを気にしなければただの着物美人に見える。
しかし、細かいことを気にすればやはり人間ではないことは分かる。まずは、身体の大きさだ。座った姿勢でお堂の天井に頭が付く程の巨躯は、彼女が人間でない何よりの証だろう。
そして、伝承通り着物から伸びる腕は4本ある。そのうち3本は勾玉を模した錠によって壁に固定され、唯一自由な1本の腕で、煙管を口元へ運び、こちらへ向けてふぅーっと煙を吐き出した。
「まこと⋯⋯不思議な気持ちでありんす。わっちをこのお堂に閉じ込めたのは人間。その人間に、こうして助けを求めることになるとは。主さんら、わっちの力が必要なんざんしょ? なら、この拘束を解いておくんなんし」
リョウメンスクナがこちらに吐きかけてきた煙は、とても不思議な匂いがした。嗅ぐだけで意識が朦朧としてくるような、そんな感じだ。きっとこれは、あまり吸いすぎるのはよくない。そう思い、慌ててハンカチを取り出して口に当てる。
後ろを見ると、アベもまたボクと同じように手ぬぐいで口元を覆っていた。ご隠居は、普通に煙の中でも平気そうな感じで、サトリは⋯⋯よく分からない。何故か踊っていた。
「リョウメンスクナよ。儂はどうもお主のことが信用出来ぬ。この煙も、術の一種であろう? 人に頼み事をするならばそれなりの態度を取る必要があると思うのじゃが」
「もうひとつの顔を出してないだけ、丁寧な対応をしていると思いんすけれど⋯⋯。まことに、どの時代も塩次郎はいるもんでござんすなぁ。⋯⋯よたろう、死んでみんすか?」
ご隠居とリョウメンスクナ、向かい合う二人の妖怪の髪が、ぶわっと風が巻き起こったかのように膨れあがる。先程のじめっとした空気の中に、ピリピリと痺れるような感覚が混ざり始め、ボクはぼんやりとこれが妖気なのかな? などと考えていた。
⋯⋯とりあえず、最初の交渉は失敗したみたいだ。既に戦闘態勢に入った二人を前にして、ボク達は邪魔にならない場所へとこっそり避難することにしたのであった。




