『リョウメンスクナ』 その1
お待たせしました~! 今日から第四章開始です。第四章では日本各地を巡り、様々な妖怪や都市伝説と対峙することになります。さらに、第四章では初めてユウ以外の視点メインで送る話も出てくる予定です。是非お楽しみに!!
「久方ぶりじゃなぁ、ユウよ。元気にしておったか?」
「はい。色々ありましたが、今は元気です」
「ちょっとご隠居~、うちも居るんだから無視しないでよね!」
「アベは身内じゃから別にいいじゃろ」
ご隠居の答えにむくれるのは、ギャルファッションで着飾った現代に生きる陰陽師、アベだ。ボクは今、この3人と一緒に、岐阜県を訪れている。
何故アジトを離れて岐阜県までやって来たかというと、リズが抜けてしまった穴を埋めるためである。しかし、『リターナー』の面々のように普通の人間で魔族に対抗できる能力を持っている者は滅多に現れない。そこで、各地に残る伝承を頼りに、協力してくれそうな人材を探すことになったのだ。ボク以外のメンバーも、今頃色々な場所に行っていることだろう。
「しかし、よりにもよって奴に会いに行くとは⋯⋯ユウよ、お主も貧乏くじを引いたのう」
「え、ご隠居さん、今から会う人のこと知っているんですか?」
「ああ、知っているとも。奴はどちらかと言えば儂らと同じ存在じゃからなぁ。だからこそ、わざわざ東北から来たわけじゃ」
「まあ、ご隠居がいるなら、誰が来ても安心だよね! うちも会うのは初めてだから楽しみなんだ~。あー、早く会いたいな。スクナン!」
「⋯⋯絶対本人の前でその呼び名を使うでないぞ? そもそも、協力を得られるかどうかも怪しいからのう。なかなか厄介な奴じゃぞ。あやつ⋯⋯『両面宿儺』は」
両面宿儺。それは、2つの顔と4本の手足を持つとされる、鬼神もしくは妖怪の類いである。古くには『日本書紀』にもその存在が記述されており、飛騨地方⋯⋯つまり現在の岐阜県では、仏教を伝えた開基とも伝承されている。
そんな両面宿儺の名は、都市伝説という形で日本全体に広まることとなった。そのため、恐ろしい存在であるというイメージが付いてしまっているが、土着神として崇拝される一面も持っているのだ。
「それ故に、お主のところのボスも協力を得られるのではないかと考えたのであろうな。確か、他にも似たような奴らのところに人員を派遣しているのじゃろ?」
「はい。えーっと、確か聞いたところでは、九州と北海道にも行くらしいです」
「それはまた両極端じゃのう。北海道なら、確かアイヌの妖怪が何人かおったはずじゃな。九州は⋯⋯うーん、たぶんあいつかのう」
「えー、なになに、妖怪の話してるの~? うちも入れてよ!!」
両面宿儺が祀られているという寺まで、ご隠居やアベと他愛もない会話をしながら歩いて行く。この2人とこうしてゆっくり話すのは東北で会った時以来だが、妖怪の話など自分が全く知らない知識をすらすらと話してくれるためとても面白い。特に、ご隠居の知識の豊富さには驚かされるばかりだ。
「そういえば、まだちゃんと聞いたことはありませんでしたが、ご隠居とアベはどういう関係なんですか? ご隠居は一応、その⋯⋯妖怪なんですよね?」
「ああ、そうじゃな。こう見えても儂は、平安時代から生きておる大妖怪じゃ。お主、『安倍晴明』という名は聞いたことあるか?」
「はい。確か、有名な陰陽師ですよね。⋯⋯あれ、そういえば安倍晴明の名字って」
「そう、うちはその安倍晴明の子孫なのだ! 名前も受け継いでるから、本名も安倍晴明。そしてご隠居と先代安倍晴明の間に産まれた1人娘! 凄いっしょ!?」
「ああ、やっぱりそうだったんですね。⋯⋯って、娘? 娘ぇぇぇぇ!?」
アベがあの安倍晴明と何かしらの関わりがあることは何となく想像出来ていたが、その後にさらっと付け足された事実の方がかなり衝撃的だった。ご隠居が結婚してることも予想外だし、まさかこの2人が血の繋がった親子だとは思いもしなかった。確かに、ご隠居は初めて会ったとき『アベの保護者みたいなものだ』と名乗っていたけれど⋯⋯。
「あー、そういえばまだ言っておらんかったのう。特に話す必要も無かったから、言うのを忘れておったわ。驚かせて悪かったな、ユウよ」
「い、いえ。驚いたのは事実ですが、なんだかしっくりきました。お二人、凄い息が合ってますし。⋯⋯血のつながりって、やっぱり強いですね」
二人をうらやむ訳ではないが、どうしても思い浮かぶのは自分の家族のことだ。妹かと思っていたエミは、同姓同名の別人の可能性が高いし、母親に関しては手がかりすらない。今頃どこで何をしているのだろうかと考えると、胸がきゅっと締め付けられる。
「―お前、迷っているな?」
その時、不意にどこからか声が聞こえてきた。ご隠居とも、アベのものとも違う声だ。家族のことを考えていたせいでぼんやりしていたボクはその声ではっと我に返り、そして目の前に現れた何かに激突した。
「い、いたた⋯⋯。ご、ごめんなさい。少しぼーっとしてて。⋯⋯ところで、さっき話しかけてきたは貴女ですか?」
そこに居たのは、水場でもないというのにスクール水着を身につけた幼女だった。しかも、水抜きと呼ばれる部位の存在する古いタイプのスクール水着だ。そのお腹に縫い付けられた名札には、マジックで大きく『さとり』と書かれていた。
「マヨは迷わず使え。そして、話しかけたのが誰かと尋ねられれば、それはサトリだとそう答える。お前達、この先にいるスクナに会いに来たのだろ? やめておいた方がいい。十中八九、死人が出るぞ」
片足立ちで状態を斜めに傾けた妙な体勢で、『サトリ』と名乗った妙な幼女はそう告げた。
「これは驚いた。まさか、サトリがまだ生きておったとは。確かに、岐阜県に居るという伝承は聞いたことがあったが、既に滅んだものと思っておったがな」
「人はいつ死ぬと思う? それは朝ご飯を食べ忘れた時だ。そしてサトリは毎日朝ご飯を食べている。だから死なない。簡単な理屈だ。悟るまでもないことだ」
「この独特な喋り口調、間違いない。やはりサトリか。おいユウよ。こやつも連れて行こう。先程の予言じみたものも気になるし、こやつは基本人間に害は加えん。連れて行って損はないだろう」
「うちもさんせーい! こんな可愛い子が一緒だとちょーテン上げだしぃ!!」
「テン上げ。略さず言うとテンション上げ上げ。しかしサトリはテンションよりはバターを揚げたい。カロリーも揚げれば0になる。カラっとしているからね」
⋯⋯何だか妙な仲間も加わることになったが、人数が増える分は心強い。ボクらはサトリを加え、再び両面宿儺の元へと歩き始めたのであった。




