『大罪七将定例会議』
大罪七将勢ぞろい回です。お楽しみに!
「それでは、今から第13回、大罪七将定例会議を始めようと思います」
会議の始まりの音頭を取るのは、『傲慢魔将』スペルビア。緑色の髪を腰まで伸ばした、見た目だけなら天使と見間違う美貌を持った悪魔族の長だ。そして、この場に居るのは彼女だけではない。円形の机を囲むように、さらに4人の魔族が集まっていた。
スペルビアの隣の席に座るのは、ペストマスクを被り、長い尻尾をゆらゆらと揺らす龍人族の長、『強欲魔将』アワリティア。彼の表情はマスクに隠れてよく分からないが、ふるふると揺れる尻尾は彼が上機嫌な様子を示していた。
そんな彼の隣の席に座るのは、3メートルは優に越すであろう巨躯の持ち主、大鬼族の長、『暴食魔将』グラルートだ。その巨躯に負けず劣らずの大きさの大剣を背中に背負い、静かに目を瞑っている様子からは感情を読み取ることは出来ない。
グラルートの隣の席は空席となっており、そのさらに隣に座るのが、蛇人族の長、『嫉妬魔将』インウィディアだ。1人だけ椅子の上に体操座りをして、シュルシュルと舌を出し入れする彼の視線は、ねっとりとすぐ隣に座る人物へと向けられていた。
そして、インウィディアが視線を向ける相手こそ、今回会議を開く原因とも呼べる人物、『色欲魔将』ルクスリアだ。その右腕は機械式の義手へと変わっており、また右目も真っ赤な宝石のようなものを埋め込んだ義眼へと変わっている。ルクスリアは、居心地が悪そうに隣の空席にちらちらと視線を向けていた。
「えーっと⋯⋯すいません。私の目がおかしいのでしょうか。『大罪七将定例会議』だというのに、この場には5人しか居ないように見えるのですが⋯⋯。何か知りませんか、ルクスリアさん?」
この会議の場において怪我を負った様子のルクスリア以上に目立つ存在である空席。それについて最初に疑問を呈したのは、会議の主催者でもあるスペルビアだった。
(こいつ、よく言うわ。アケディアを殺したのは自分で、私達に何が起こったのかも既に把握しているくせに。こいつのこういうとこ、ホント嫌いなのよねぇ⋯⋯)
ルクスリアは心の中でスペルビアへの悪態をつきつつも、笑顔で答えることにした。
「やーっだ、スペルビアちゃん。貴女なら既に知っているはずでしょ~? わざわざ私に言わせないでよ。ただでさえ怪我したばっかでしんどいんだから、無駄に労力使わせないでよね~」
「え、それはもしかして、その無駄な労力とやらをこの私に使えと言っているのですか? ⋯⋯いやいや、聞き間違いですよね? 何故私が人間如きにそんな傷を負わせられた貴女に遠慮してそんなことを?」
スペルビアとルクスリア。お互いに表情こそ笑顔だが、心は全く笑っていない。一気に場の空気が冷え込む中、くしし⋯⋯というねちっこい笑い声が二人の会話に割って入ってきた。
「い、いい気味だ。お前は前から気に入らなかったんだよ、オカマエルフ。あんなでっかい施設作って、その上ぼ、ぼくのイライザと一緒に色々やっちゃってさぁ」
「あら、相変わらずねちっこいわねぇ。インウィディアちゃん。そういう男は嫌われるわよ? それにあんた、『ぼくの』とか言うけれど、イライザに相手にもされてなかったじゃないの」
「く、くしし! あ、あいつがぼくの魅力に気づかなかっただけだ。そ、それに人間なんかに殺されるような奴、こっちから願い下げだね。あー、死んでせいせいした!」
インウィディアは口でこそそう言うが、ルクスリアから指摘されたことを随分気にしている様子で、怒りからか顔を真っ赤にしていた。そんなインウィディアを見て、思わずといった様子で噴き出したのはアワリティアだ。
「お、おい。マスク野郎、何笑ってんだよ。殺すよ⋯⋯?」
「いやー、インウィディア殿、ごめんごめん。笑うつもりはなかったんだけれど、すごく面白くてさぁ! 相変わらず皆さん仲が大変よろしい様子で、ホント見ていて飽きないよ。ねえ、グラルート殿! 貴殿もそう思われるだろう?」
『強欲魔将』アワリティアは、隣に座る『暴食魔将』グラルートに声をかける。それまで会話に一切参加せず、ずっと目を瞑ったままだったグラルートはここにきて初めて目を開き、一言こう答えた。
「否」
「お~、久々にグラルート殿の声聞いたけれど相変わらず渋い声してるね~! 無口な男、カッコいい~! スペルビア殿は見た目美人だし、ルクスリア殿はオカマだし、インウィディア殿はねちねちしてるし、このメンバーの中に自分なんかが入っていることが改めて光栄ですぞ!!」
「五月蠅いですよ、アワリティアさん。もしかして貴方、何らかの病を患っていらっしゃいます? 例えば、空気読めない病とか。もしそうなら早めに通院した方がいいと思いますよ?」
「たっはー! 相変わらずスペルビア殿は厳しいなぁ! 拙者もこれ以上怒られたくないからしばらく黙ろっかな。お口チャックっと」
そう言うと、アワリティアはペストマスクにチャックを取り付け、それを物理的に閉じてみせた。この中で最も騒々しい問題児が口を閉じたのを見て、スペルビアはようやく今回の会議の議題について語りだした。
「無能な方々のおかげで随分と時間が経ってしまいましたが、今回会議を開いた目的は、最近魔族を殺しまくっていると噂の人間どもについてです。先日もアケディアのアジトが彼らの手に落ち、そして今回は『ヒューマン・ズー』内の捕虜が全員解放されてしまいました。これ以上人間に好き勝手させるわけにはいかないでしょう。そこでどなたか、その礼儀知らずな連中を殺していただけません?」
「あら、貴女は動かないの? 他人任せとか、ちょっと無責任すぎるんじゃない?」
「逆になぜ私が動く必要があるのです? 私の最優先任務は魔王様の身辺管理。人間の駆除など、貴方たちが勝手にやれば⋯⋯。あ、すいません。忘れていました。その人間に負けてのこのこと帰ってきた人がいましたね。ごめんなさい、あなた達の弱さへの配慮を忘れていました⋯⋯」
「く、くしし! ぼ、ぼくらを巻き込まないでほしいなぁ。負けたのはそこのオカマだけ。ぼくたちは関係ない」
「そういう態度はいただけませんなぁ、インウィディア殿。我ら大罪七将は一蓮托生。一人は皆のために、皆は一人のために! ああなんて素晴らしい友情、愛、コンビネーション! 拙者たちが一つになれば怖いモノなど一つも⋯⋯あ、そんな睨まないでよスペルビア殿。分かりました。グラルート殿を見習って黙りますよ。もう一回チャーック」
今回で13回目になる『大罪七将定例会議』だが、個々人の個性が強すぎて今回みたく全くまとまりがない。ただ、これでも毎回寝ているアケディアや些細なことで怒りだすイライザが居なくなった分まだ会議の体を保っているというのだから恐ろしい。
「とりあえず、どなたか希望される方が邪魔な人間を排除してください。あ、私の協力は期待しないでくださいね?」
「あんたの協力なんか誰も期待してないわよ。⋯⋯ここは私がイクわ。やられっぱなしは性に合わないもの」
「お、お前なんかに任せられるかよ。ここはぼくがいくね」
「もごー、もごもごー!」
各々が好き勝手に自分の主張をはじめ、またしても混沌とした状態に陥るかと思われたその時、それまでほとんど口を開かなかったグラルートがおもむろに手を挙げた。その予想外の行動に、皆の視線が一斉に集まる中、グラルートはある提案をした。
「⋯⋯これ以上、魔王様に心労をかけるわけにはいかない。我とインウィディア、そしてルクスリア。3人で敵の本拠地に攻め込み、一網打尽にしてくれよう。インウィディア、貴様の力なら奴らの本拠地を探り出せるな?」
「お、お前何急にしゃべりだして勝手に仕切ってるんだよ。そ、そりゃあぼくの力使えばたぶんできるけれどさぁ。ぼくはこのオカマと協力するなんて御免だよ」
「あら、奇遇ね。私もよ」
ルクスリアとインウィディアはお互いににらみ合い、またしても言い争いが始まるかと思われたが、それを止めるようにグラルートが机を拳で殴る。その轟音は、二人の視線をグラルートへと再び向けるには十分だった。
「⋯⋯私情など、任務において挟む余地なし。我らの存在意義は、魔王様の役に立つこと⋯⋯。違うか?」
「⋯⋯そう言われたら、その通りだけれどさぁ」
「ちっ、仕方ないわね。ここはグラルートちゃんの顔を立ててこいつと協力することにするわぁ」
「あ、話はまとまりましたか? それなら私もう帰りますね? 負け犬と同じ空気をこれ以上吸うのは耐えられないので⋯⋯」
そう言って、主催者なはずのスペルビアは真っ先に会場から去ってしまった。しかし、スペルビアのこの感じはいつものことなので気にする者は誰もいない。そして、まだ口チャックを続けていたアワリティアはようやくチャックを開き、ぷはぁと大きく息を吐いた。
「いやぁ、苦しかったな~! ところでグラルート殿、拙者はなぜ加えてくださらなかったので?」
「⋯⋯貴様は、信用できん」
「おーう、シンプルながら分かりやすい回答、感謝でござる~! それじゃあ、嫌われ者はこれにて退散しますかね。それじゃあまたお会いしましょう!」
こうして、アワリティアも会場を後にし、残ったのはグラルート、インウィディア、ルクスリアの3人だ。3人はその後しばらく、どのようにして敵本拠地を突き止め、そして攻め込むかを決め、最終的な結論を出した。
「⋯⋯それでは、敵本拠地に攻め込むのは1か月後ということで、間違いないな」
「そ、そうだね。ぼくの能力でも本拠地を探知して侵入できるようになるまで、それくらいの時間はかかるかな⋯⋯」
「1か月かぁ。随分長いわね。まあ、それまでにこの機械の身体に慣れておくことにしましょう」
「「「それでは、1か月後に。魔王様の敵を排除しよう」」」
こうして、3人も会場を後にし、残ったのは机と椅子のみになった。そんな会場の中心に、音もなく現れた謎の人物が一人。その人物は、うっとりとした表情で天井を見上げると、こう呟いた。
「ああ、私の可愛い下僕たち。もっともっと勇者を苦しめて、そして強くしてちょうだい。そして⋯⋯早く私に会わせてね」
その謎の人物は、現れた時と同じように、音もなく姿を消した。そして今度こそ、会場には誰も居なくなったのであった。
これにて第三章は終了です。数日間お休みをいただいた後、第四章に入りたいと思います。
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