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僕らの日常を取り戻せ!~元転生者たちは世界を救う~  作者: 赤葉忍
第三章:『忍』の心、ここにあり
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エメラルド色の人生

お待たせしました。最新話投稿です。

「り、リズ!? なんでここに⋯⋯じゃなくて、生きていたんですか!?」


『この姿は、あくまでも魂の残滓を掻き集めて造りだしたもの。わたくしの肉体は既に死んでいます。そして、この宝石に残った魂の残滓も、あと少しで完全に消えてしまうでしょう。⋯⋯その前に、ユウの意識と共鳴出来たのは、奇跡としかいいようがありませんね』


「それじゃあ、さっき言っていた記憶の中というのは⋯⋯」


『察しがよいですわね。ユウとわたくしの魂が閉じ込められていた宝石が共鳴することで、今ユウはわたくしの記憶を夢として見ているのです。本体は、闘技場の跡地で眠りについていますわ。ああ、安心してくださいまし。ユウの魔力をちょっぴり使って簡易的な結界を貼っているから、本体が襲われることはありませんわ』


 リズが大丈夫というなら、問題ないのだろう。それよりも、夢の中とはいえ、リズにもう一度会うことが出来たのだ。その事実が、凄く嬉しい。そして、こうして再び会えたのならば言っておきたい言葉がある。


「あ、あの、リズ。ボクが弱いばかりにこんなことになってしまって⋯⋯」


『⋯⋯すいません、ユウ。それは後にして頂けませんか? わたくしがこうして話せる時間は、もうあまり長くはありません。わたくしが完全に消えてしまう前に、わたくしの全てを、あなたに伝えたいと思いますの』


 リズがパチンと指を鳴らすと、目の前の景色が一瞬にして変化する。そこは、とある屋敷の一室。そのベッドの上で、幼い少女が1人、腕組みをして何やら1人でぶつぶつと呟いていた。


「不味いのう。この身体にこの名前⋯⋯うちの組の頭の娘が最近はまってるっちゅう『乙女ゲーム』の悪役令嬢そのままじゃ。組の鉄砲玉として命を落としたこのわしがまさかこんな形で第2の人生を迎えるとはのう⋯⋯。しかし、これも運命じゃ。生まれ変わったからにはこの人生、最期まで悔いのないよう生きてみせるしかないじゃろ」


 可愛らしい外見とは似合わない厳つい広島弁で話す少女は、どこか見覚えのある顔をしている。⋯⋯いや、リズがあんなことを言っていたのでこの少女が誰なのか、既に見当はついているが、なかなか信じられない。だって、ボクが知っている彼女とのギャップが激しすぎる。


「えーっと⋯⋯もしかして、これってリズの幼少期ですか?」


『お恥ずかしながら、その通りですわ。この頃はまだ転生したばかりで、前世の口調が残っており、大変聞き苦しいかと思いますが、お許しくださいませ』


「いや、聞き苦しいとかそういう問題じゃなくて⋯⋯え、鉄砲玉? リズの前世ってもしかして、そっち系の人だったんですか?」


『それはまあ、ユウの想像に任せますわ。ただ、1つ言えることがあるとすれば、わたくしは仁義のために生き、仁義のために死んだということ。仁義に背くような外道な真似は、一切してきませんでした。それだけは誇りを持って言えますわ』


「そ、そうですか⋯⋯。ちなみに、性別はどっちだったんです?」


『ふふふ、やっぱり気になりますか? そうですわね⋯⋯それも、ご想像に任せますわ』


 思わず形でリズの前世について明らかになったが、むしろ謎が増えた気がするのは何故だろうか。そして、目の前の光景は高速で流れていき、数分も経たないうちに幼い少女は成長し、今のリズにだいぶ近い姿になっていた。


「お父様。我が家がこれまで働いてきた悪事についての証拠は、全て掴ませて貰いました。奴隷売買に敵国への武器の横流し⋯⋯我が父ながら、あまりにも真っ黒過ぎて驚きました。既に証拠は王家へと送っています。我がエメラルド家は貴族権を剥奪、取り潰しとなることでしょうね」


「リズ、貴様ぁ⋯⋯! こんなことをしてただで済むと思っているのか! それに、我が家が取り潰されるということは、貴様も貴族ではなくなるのだぞ!?」


「あら、ただ人の上で威張り散らすだけの豚が、貴族と呼べまして? そんなモノが貴族だというのならば、わたくし、そんなのまっぴらご免ですわ。わたくしは、自分の誇りを守るために行動しただけのこと。後悔など、しようはずがありません。⋯⋯皆さん、後はお任せしました」


 そう言って立ち去るリズは、もう父親の顔を振り返ることはなかった。未だにリズに向かい罵声を浴びせる父親を、鎧を纏った騎士数人が拘束し、どこかへと連れて行く。


『ちなみに、あの騎士は皆我が家の護衛騎士です。彼らの顔を見るのも久しぶりですわね⋯⋯。皆わたくしに忠誠を誓ってくれた、大切な部下ですわ』


「この時には既に今のリズがほぼ完成していたんですね⋯⋯。でも、自分の家を取り潰して平気だったんですか?」


『まあ、わたくしは元々前世でも贅沢な暮らしとは縁遠い生活を送っていましたし、この頃も平民に紛れて冒険者⋯⋯ええっと、そうですわね。傭兵稼業のようなことをしてましたから、平民になっても普通にやっていけると思っていたのです。ただ、そんなわたくしをメイドとして雇ってくださるという奇特な方がいらっしゃいまして。その方の元にお世話になることになったのですわ』


 再び、目の前の景色が変わる。そしてそこには、メイド服を纏い優雅な姿勢で掃除をてきぱきとこなすリズと、そんなリズを複雑そうな表情で見つめる、同年代くらいの青年がいた。


「リズ・エメラルド。確かに私は、貴女をメイドとして雇うと言った。しかしそれは、あくまで罪人の家族である君を匿うための建前であり、実際に君がメイドの真似事をする必要はない。それに私たち王家は、たった1人で動き、証拠を掴んでくれた君に感謝してるくらいなんだ」


「あら、わたくしは当然のことをしたまでですわ。感謝されることではありません。それに、今のわたくしはただのメイドの『リズ』ですわ。与えられた職務を全うするのは当然のことです」


「⋯⋯君がそれでいいと言うなら、これ以上は何も言わない。しかし、ただのメイドだと言うには、君は品格がありすぎるな」


「あら、ありがとうございます。お世辞だとしても嬉しいですわ、オパール王子」


 ニッコリと笑うリズを見て、慌てて顔を背ける王子の頬は、赤く染まっていた。そんな2人の様子を見て、懐かしげに目を細めるのは、隣に立つ幻影のリズだ。


『オパール王子⋯⋯。懐かしいですわね。わたくしはまだ、この時は彼の好意には気付いておりませんでしたの。わたくしが彼の思いに気付き、そしてわたくしも彼に惹かれ始めるのは、もう少し後のことですわ』


 またしても視界は切り替わり、魔術が飛び交う中、最前線で肩を並べて立つリズと王子が居た。2人とも鎧を身に纏い険しい目つきで前方を見つめている。その光景はまさに、戦場の一ページを切り取ったといった様子だ。


「え、なんでメイドが王子と肩を並べて鎧なんか着てるんですか? これ一体どういう状況なんです?」


『あれから色々とありまして、わたくし、王家の副騎士団長に就任したのです。あ、ちなみに王子が騎士団長ですわね。あの国は王家が最前線に立つのは当たり前でしたから。流石元々ゲームの世界なだけありますよね』


「その色々が凄く気になるんですけれど⋯⋯。まあ、リズならそうなってもおかしくないかなぁとは思いますけれど」


 目の前では、王子を庇って攻撃を受けたリズを、王子が泣きながら抱きしめていた。幸いリズはこの傷で命を落とすことはなく、そしてこの時に王子がリズに愛していると告げたことで2人は結ばれたらしい。


『その後の人生は、特に語るところはありません。結婚し、子供も産み⋯⋯時折隣国からの侵略者や自分のことをゲームのヒロインと嘯く頭のおかしい方が来られたこともありましたが、わたくしは幸せな人生を送り、そして死にました』


「何というか⋯⋯凄い波瀾万丈な人生ですね」


 まるで1つの物語を聞いているかのような、とても濃厚な一生だった。こんな波瀾万丈な人生を送ってきたからこそ、リズはあんなにも強く、そして美しいのだろう。


 そして、別の世界で死んだリズは再びこの地にて何の因果か生を受け⋯⋯そして、ボク達を守るためにまた死んだ。まさに、波瀾万丈という言葉が相応しいだろう。


『そういえば、ユウ。先程、わたくしに対して謝罪しようとしてましたよね? わたくしは謝罪など望んでいません。わたくしは自分の選択に後悔などしていませんし、するつもりもありません。あなた達を助けることが出来たのは、わたくしにとって誇りですわ。それに対し謝罪をされても困ります』


 どうやら、リズにはこちらの考えていることなどお見通しらしい。ボクは確かに、リズに謝罪しようとしていた。しかし、それを望んでいないと言うならば、ボクが彼女に言えることばは決まっている。


「⋯⋯分かりました。リズ、ボク達を助けてくれて⋯⋯本当にありがとうございます!」


『ふふ、こちらこそ、感謝しますわ。ユウがこうしてここに来てくれたおかげで、わたくしは記憶の全てをあなたに見せることが出来た。あの素晴らしき日々を誰とも共有できないことだけが唯一の心残りでしたが⋯⋯これで、この世に思い残すことはありません』


 リズの身体が、ボクの目の前でますます透明に近くなっていく。それに伴うように、周りの風景も薄れ始めていた。


「そ、そんな! リズ、まだ行かないでください!! 貴女がいないと、ボク達は⋯⋯」


『いいえ。わたくしがいなくても、あなた達は大丈夫ですわ。途中で投げ出すような形になってしまったことは悔やまれますが、わたくしは、あなた方ならば必ずやり遂げることが出来ると信じています』


 リズの姿は、もうほとんど見えない。本当のお別れの時が、近づいていた。


「リズ、あなたの意志は、ボク達が受け継ぎます!! だから⋯⋯天国で、見守っていてください」


 リズを安心して旅立たせるためにも、もう弱音は吐かないと決めた。視界がぼやけるのは、きっとこの夢が覚めようとしているからだ。


『ありがとうございます、ユウ。わたくしはいつでも、あなたの心の中に⋯⋯』


 その言葉を最期に、リズの姿は完全に消え去った。景色もいつの間にか、元の瓦礫の山へと戻っている。


 ボクの手の中では、ひび割れたエメラルドがキラキラと輝きを放っていた。ボクは、その宝石を胸に押し当て、空を仰ぎ見る。


 見上げた空は、どこまでも青く透き通っていた。


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