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僕らの日常を取り戻せ!~元転生者たちは世界を救う~  作者: 赤葉忍
第三章:『忍』の心、ここにあり
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宝石を握り締めて

第三部後半戦開始です。

「ドク、ラビ、そしてユウ。皆よく頑張ってくれた。『ヒューマン・ズー』に囚われていた100万人の人間は全員救出に成功、任務は大成功だ。⋯⋯しかし、任務成功の代償に掛け替えのない仲間の命が失われた。我々に協力してくれた甲賀の忍者、23名。伊賀の忍者27名。そして⋯⋯リズ。彼ら、彼女らの尊い犠牲なくして作戦成功はなかっただろう。彼らの冥福を祈り、黙祷を捧げよう」


 『ヒューマン・ズー』から帰還して、3日ほど経過し、ようやく傷も癒え魔力も回復した頃、ボクはリズが死亡したという事実を知った。そして今ここには、リズを除いた『リターナー』のメンバーと、生き残りの忍者全員が集まっている。


 ボスは「任務は成功した」と言ったが、それを喜ぶ気分にはとてもじゃないがなれない。きっと、ここに居る全員が同じ気持ちだと思う。忍者達は、強くて頼れる長をどちらの里も失い、ボク達もまたリズという大切な仲間を失った。


 しかし、不思議と涙は出てこない。一体どうしてだろうか。自分の感情に答えが出ないまま、黙祷を捧げる前にちらりと皆の様子を見てみることにした。


 ドクは、怒りと悲しみの混ざった複雑な表情で俯き、ラビは純粋に仲間の死に悲しみ、涙を流している。他のメンバーもそれぞれ、形は違えど皆仲間の死を悲しみ、黙祷を捧げていた。


 そんな中で唯一、じっとボクの方に視線を向けているのはザキだ。ボクは何故か、ザキにそれ以上見られたくないと感じて、慌てて目を伏せたのであった。


 黙祷を終えると、ザキはボクの方へと足早に近づいて来た。そして、そのままボクの手を引っ張ると、無理矢理自分の部屋へと連れて行こうとする。


「ざ、ザキ? なんでわざわざ部屋に連れ込んで⋯⋯きゃっ!?」


 突然の行為に、抵抗する暇すら与えられず、ボクはそのままザキの部屋のベッドの上に放り投げられた。そして、そのまま馬乗りに跨がられる。果たしてザキはボクに何をするつもりだというのか。


 しばらく馬乗りになったまま、ボクの顔をじっと見つめていたザキだったが、ふいにその顔を悲しげに歪ませた。


「⋯⋯ごめんなさい、ユウ。私は本当に最低な人間です。⋯⋯リズが死んだと聞いた時、私は死んだのがユウじゃなくて良かったと思ってしまった。そして今も、弱っているユウの心につけこんでこんな酷いことをしている。⋯⋯でも、あなたの目を見て、考えが変わりました。たぶん、ここで私が自分の欲望をぶつければ、あなたはあなたでなくなってしまう。あなたは、その悲しみを自分で乗り越えて強くならないといけないんです⋯⋯。そんなあなただからこそ、私は好きになったのだから」


 そう言って、ザキはボクの上から下り、ポケットから何かを取り出した。それを見たボクは、思わず叫んでしまう。


「そ、それは、リズの宝石⋯⋯!?」


「⋯⋯はい。ユウ達が傷を癒やしている間、私は『ヒューマン・ズー』の跡地に行って事後調査を行っていました。その時に見つけたのが、これです。⋯⋯ホントは、遺品の持ち出しは禁止されているんですが、きっとこれは、今のあなたにとって必要なものだから」


 ザキは、ボクの手の上に手を重ね、そっと宝石を渡してくれた。リズのものと思われるそのひび割れた宝石は、不思議と温かく感じる。ボクは、その宝石をぎゅっと握り締めた。


「ありがとうございます、ザキ。やっぱり、あなたは優しいですね」


「⋯⋯その言葉は、今は全然嬉しくないです。私は、あなたに褒められるような立派な人間じゃない。私はただ、あなたに私みたいにはなってほしくないだけだから」


 ザキはそんなことを言うが、ボクはそうは思わない。実際、ザキのおかげでボクは今からやるべきことが分かったのだから。


 ボクは、ザキのおでこにそっと口づけをする。途端に真っ赤になって顔を上げるザキに、今できる精一杯の笑顔を浮かべて手を振った。


「それじゃあザキ⋯⋯いってきます」


「あうう⋯⋯。い、いってらっしゃい」


 ザキに見送られ、ボクが向かう先は、ラビの部屋だ。ノックもせずにいきなり部屋に入ってきたボクに目を丸くするラビに、ボクはこんなことをお願いした。


「お願いです、ラビ。⋯⋯ボクを、今から『ヒューマン・ズー』の跡地に連れて行ってください!」



〇〇〇〇



「さあ、到着したのだ。⋯⋯ユウの頼みだから聞いたけれど、ホントはこんなことしちゃいけないのだ。危ないと思ったら、すぐ戻ってくるのだ」


「分かりました。ここまで送ってくれてありがとうございます」


 特に理由も聞かず、この場所まで連れてきてくれたラビには感謝しかない。ボクは、本当に仲間に恵まれている。そんな仲間にこれ以上迷惑をかけないためにも、ボクはこの地で自分の気持ちに答えを出さなければならない。


「ここが、『ヒューマン・ズー』があった場所⋯⋯」


 『ヒューマン・ズー』があった場所は、瓦礫と焦げ跡だけが残る荒れ地へと変わり果てていた。話には聞いていたが、実際に見ると衝撃が大きい。


 ボクは、瓦礫を掻き分けながら、中心部⋯⋯闘技場があった場所まで向かって行く。しばらく歩くと、見覚えのある観客席の残骸が見えた。きっとここが、3日前にリズと一緒にイライザと戦った場所だ。


「⋯⋯この場所で、リズはボク達を庇って死んだ。リズ、貴女は初めて出会った時から、キラキラと輝く、宝石のような人でした。⋯⋯出来れば、もう少しだけお喋りがしたかった。一緒に、色んなところに行きたかった」


 思えば、『リターナー』に所属することになったのも、リズがボクを助けてくれたおかげだ。常に優雅で優しく、そして強かったリズのことを思い、ボクは持ってきた宝石をギュッと胸に押し当てた。


 すると、その瞬間、持っていた宝石が虹色に輝き出す。宝石の光は瞬く間に身体全体を

包み込み、あまりのまぶしさに目を閉じてしまう。


 やがて、光は収まり、ボクはゆっくりと目を開いた。しかし、目の前に飛び込んできた光景が信じられず、再び目を閉じ、そして開く。それでもその光景は変わらず、ボクは呆然と立ち尽くした。


「こ、ここ、どこ⋯⋯?」


 そこには、先程までの瓦礫の山はどこにもなく、どこか中性的な町並みが延々と続いている光景があった。しかも、それだけではない。何故か、魔族に支配されているはずの人間が普通に道を歩いているのだ。


 思わず漏れたのは、困惑の声。そしてその声に反応するのは、決して聞こえるはずのない懐かしい声だった。


『ここは、わたくしの記憶の中⋯⋯。わたくしが転生した世界の光景ですわ』


 いつの間にか隣に立っていたのは、死んだはずのリズ。半透明なその身体で、リズはぽかんと口を開けるボクに向かってニッコリと微笑んだのであった。


次回、リズの記憶の中を巡る旅。リズの過去、そしてその強さの理由が明らかとなります。

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