絶望に立ち向かう策
1日空きましたが更新! ついにイライザ戦決着です。
「うがぁぁぁぁぁ!!!」
イライザは、上半身と下半身を切り離されてもなお、うなり声を上げ続けていた。驚くべき生命力だ。しかも、傷口から筋肉が盛り上がって、切り離された胴体を繋ごうとしている。
「させませんわ!」
全力を出し切った様子のリズは流石に息切れしていたが、再生を行おうとしているイライザを見てすかさず追撃しようとする。
「おい、あの人間イライザ様を殺す気だぞ!」
「俺たちがそんなことさせると思ってるのか、バーカ!」
しかし、死にかけのイライザを見て危機感を抱いた観客席の魔族が、手当たり次第に物を投げてリズを妨害してくる。一部は火の魔術で焼き切ることが出来たが、四方を囲まれている状態では全ては対処しきれず、リズはイライザに近づくことを阻まれてしまった。
「ガルルルゥ⋯⋯! そうだ、お前ら弱者は、それでいい。あたいのような強者の、糧となれぇ!!」
白目を剥き、一際大きな声で雄叫びを上げたイライザは、何を思ったか自分の爪で首を切り飛ばした。切り飛ばされた首は、髪を振り乱しながら空高く舞い上がる。ボクも、リズも、そして観客席の魔族も、意識のある者は全員空に浮かぶイライザの生首を見つめた。
――そして、悪夢が始まった。
「ぎゃー!? い、イライザ様何を⋯⋯」
「ひぃ、助けて⋯⋯ぐへぇ!?」
イライザの生首は、自分の髪の毛をまるで触手のように伸ばし、観客席に居る魔族の心臓を貫いていく。魔族の悲鳴が響き渡る闘技場内は、いつの間にか網のように張り巡らされたイライザの髪の毛で埋め尽くされそうになっていた。
「ハア、ハア⋯⋯『剣の舞』! くっ、数が多いですわね」
「リズはもうあまり無茶しないでください! これくらいの攻撃ならばボクでも防げます!」
当然、イライザの髪の毛が襲うのは魔族だけではない。ボク達のことも執拗に狙ってくる。体力も魔力も限界が近いリズを庇うためにも、ボクは全力で魔術を行使した。
未だに意識を失ったままのドクとエミも守る必要があるので、リズにはあのように言ったが実際かなりギリギリだ。それに、お腹の傷も宝石で塞がれただけなので、徐々に痛みを感じ始めている。
それでも何とか、向かい来る髪の毛を全て防ぎきったところで、ボクはある異変に気が付いた。あれだけ聞こえてきた魔族の悲鳴が全く聞こえなくなったのだ。まさかと思い観客席の方を見ると、観客席いっぱいに居た魔族は1人残らず殺され、その心臓にはイライザの髪の毛が突き刺さっていた。
そして、魔族に突き刺さった髪の毛は、ドクンドクンとまるで生きているかのように脈動していた。脈動する髪の毛は血管のように魔族から抜き取った魔力を本体であるイライザの元へと送り届ける。髪の毛が突き刺さった魔族がみるみる干からびていくのを見て、もし防ぎきれなかったら自分もああなっていたのかとゾッとした。
「うぅ⋯⋯まさか尻尾で攻撃してくるなんて。気を失うとは一生の不覚だわ。⋯⋯って、何よアレぇ!?」
何とも最悪なタイミングで目覚めたドクが、空中に浮かぶイライザの生首を見て悲鳴を上げた。
大量の魔族から魔力を吸収したイライザの首は、今や太陽と見間違う程巨大化していた。溢れんばかりの魔力のせいか、髪の毛の1本1本が巨大な炎の蛇と化し、シュルシュルと舌なめずりしながらこちらを睨み付けている。ドクは、これを見て再び気を失わなかったことを褒められていいくらいの迫力、そして威圧感だ。
「こ、こんなの、一体どうやって倒せって言うんですか⋯⋯」
ただでさえもう全員満身創痍なのに、イライザは完全復活を果たしたどころか、むしろより凶悪になってしまった。唯一付けいる隙があるとすれば、最早知性はほとんど残っていないと思われる点であろうか。先程から声にならないうなり声をずっと上げているところから察するに、言語能力は失われたらしい。しかし、知性などなくともこのあふれ出る魔力と、信じられない大きさである。
感じたのは、とてつもない絶望。そして、追い打ちとばかりに、更なる絶望がボク達に襲い来る。
「⋯⋯ユウ、前方を見てください」
リズが指さす方を見ると、首の無くなったイライザの胴体がひとりでに歩き出していた。しかも、それだけではない。上空のイライザの生首から滴る血が集まり、同じような首無しの胴体がいくつも産み出されていた。
見上げれば地獄。そして目線を下ろしても地獄。まさに悪夢のような状況である。絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになったボクを、またしても支えてくれたのはリズだった。
「ユウ、どんな状況でも決して諦めてはいけませんわ。諦めたら、そこで勝負は終わりです。わたくしは最期の時まで、輝きを止めるつもりはありません」
「リズはいいこと言うよね~! でもこの状況、実際どうするわけ? ドクちゃんも諦めは悪い方だけれど、正直対策何も思いつかないわよ」
リズに応じるドクも、こんな状況でも普段通りの口調である。これが、以前から魔族と戦ってきた2人と自分との精神力の差なのか。勝手に諦めていた自分が恥ずかしい。ボクは、気合いを入れ直すため自分の頬を思いっきり叩いた。すると何故か、ドクもボクの頬をビンタしてくる。
「⋯⋯え、なんでビンタしたんですか?」
「何となく!」
ニッコリと可愛らしい笑顔でそう答えられたら、それ以上文句は言えなかった。少し不満は残るが、ドクのビンタもプラスされたことで完全に気合いは入った。幸い、知性を失ったイライザはまだ攻撃をしてくる様子はない。再び暴れ出す前に何とか対処法を考えるべく、3人で輪になって作戦タイムだ。
「ドクちゃんはさっきも言ったけれど策は全くなし! リズ、アンタ何か思いついた?」
「⋯⋯ええ、わたくしは1つ、とっておきの策を思いつきましたわ」
「え!? さ、流石リズですね。ところでその策って、一体何ですか?」
果たして、リズが思いついた策とは何か。ドクと一緒に、期待の眼差しで見つめる中、リズは優雅な手つきで闘技場の出口を指さした。
「とっておきの策、それは⋯⋯逃げることですわ!!」
「だよね、ドクちゃん知ってた! あんなバケモン相手するの無理無理!」
「りょ、了解しました!!」
いざ逃げると決めれば、行動は速い。この中で1番疲労の少ないドクがエミを抱きかかえ、3人で出口目掛け猛ダッシュする。
この時になり、イライザはボク達が逃げようとしていることに気が付いたのか、炎の蛇と化した髪の毛を一斉にこちらへ向かわせてきた。
「やっぱり簡単には逃がしてくれませんよね⋯⋯。ドク、後はお願いします!」
「え、どゆこと!?」
ドクはまだ理解出来ていないみたいだが、説明する暇はない。ボクは、残っている魔力を全て放出し、巨大な結界を造り上げた。これで、数秒は時間が稼げるはずだ。
そして、魔力がゼロになったせいで全く身体が動かない。ふにゃりと力なく倒れたボクを見て察してくれたドクは、悪態をつきつつもボクを抱えてくれた。
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
「無駄に喋って体力削るなボケ! ドクちゃんに肉体労働させた罪は償ってもらうからね!!」
「さあ、お二人とも早くこちらに!!」
先に出口へと到着していたリズが、扉を開けて待ってくれていた。ドクがボクとエミ、2人を両肩に抱え、必死の形相で扉をくぐる。その瞬間、背後でパリィンと結界が砕ける音がした。
「ぜえ、ぜえ⋯⋯。早くしないと追ってくるわ。リズ、アンタも早く来なさい!!」
まだ扉をくぐっていないリズをドクが急かす。しかし、リズは扉をくぐる代わりに、ドクの背中をぽんっと軽く押し出した。
「おいリズ、何やってんのよ。アンタ、まさか⋯⋯!!」
「すいません、ドク、ユウ。わたくしの策では、わたくしが逃げることは考慮されていませんの」
背中を押すときに魔術を発動させたのか、ドクは猛スピードで吹き飛んでいく。そしてそれは、ドクに抱えられているボクも同様だ。必死にリズの名前を叫ぼうとするも、魔力が切れた身体では声すら出すことが出来ない。
次第に遠ざかる視界の中で、リズが笑顔でこちらに手を振っている姿が見えた。そして、その姿も、扉を塞ぐように生じた宝石の壁によって見えなくなる。
「さようなら。アジトの皆に、今までありがとうと、そう伝えてくださいまし」
その声を最後に、ボクはもう2度とリズの声を聞くことはなかった。気付いた時には視界は慣れ親しんだアジトの土壁へと変わり、ほっとした様子のラビがボク達を出迎えてくれた。
――後日、『ヒューマン・ズー』は跡形もなく消滅したことが確認された。そこには、イライザの焼け焦げた頭部はあったもののルクスリアの遺体は見つからず、恐らくルクスリアは逃亡したと予想された。
そして、イライザの頭部のそばには、ひび割れた宝石が1個落ちているのも発見される。これにより、『リズ』は死亡したと判断されたのであった。
戦いの後、皆は何を思うのか。次回もお楽しみに!




