不滅の宝石と不可視の毒
ちょっと最近忙しくて更新が途切れる日が多いですが、頑張って更新していきますよ~! 感想も貰って元気百倍なのです。
「ユウ、これを持っていてください。わたくしの目はサファイア。この宝石があれば、わたくしの視界を共有できますわ」
リズはそう言って、自分の目を抉り取りボクへと渡してくれた。行為だけで見ると完全に異常だが、実際に取り出された時にはサファイアへと変わっているから不思議だ。それに、取り出された目も数秒後には再生している。
そんなボクたちの様子を、イライザはじっと見つめている。いや、正確にはリズの一挙手一投足を見逃さまいとしていた。完全に、ボクのことは眼中にないみたいだが、先程までの醜態を思えばそれも仕方ない。
「⋯⋯なるほどなぁ。お前、肉体は既に死んでいるな? 魔力と宝石で、自分の身体を構成しているんだ。だから、あたいが頭をつぶしても死ななかった」
「流石の洞察力といったところでしょうか。ええ、その通り。わたくしはこの世界に戻ってきた直後、一度死にました。しかし、魂だけは死なず残っていたのです。偶然にも、近くに落ちていた宝石の中に魂が入ったことで、この不滅の身体を手に入れたというわけですわ」
「え、そうなんですか!? で、でも、リズの身体に触ったことは何度かありますが、普通に柔らかかったし体温もありましたよね?」
思い返すのは、初めての出会いの時。あの時リズはボクを抱きかかえてくれたが、特に違和感は覚えなかった。それに、抱き着かれた時などに何度か感じた胸の感触はすごく柔らかかった。
「ああ、それは、普段は魔力でちゃんと人間の肉体を作っているからですわ。人間の皮膚も脂肪も、魔術による再現はなかなか大変でしたけれど、頑張りましたわ。骨格は宝石のままなので、裸足でもヒールみたいな足音を立ててしまうことくらいが難点でしょうか」
リズは、ひらりとスカートを捲り、足元を見せてくれる。確かに、リズは靴を履いていなかった。いつも丈の長いスカートを履いているせいで分からなかった。
「そんなどうでもいいことはいいんだよ! さっき魂が宝石に閉じ込められたって言ってたよなぁ? つまりその宝石さえ破壊すれば、お前は死ぬってことだろぉ!?」
「あら、これは失言でしたかしら。ええ、その通りですわ。ただ⋯⋯あなたに、それが出来ますでしょうか?」
「誰に物言ってんだ、あぁん!? ぶっ殺すぞこの宝石ゾンビ!!」
しびれを切らしたイライザが、ついに再び動きだした。しかし、リズに瞳を渡されたおかげで、今回はその動きをちゃんと捉えることが出来る。
「そして、さっきはただリズとお喋りしていただけじゃない! リズ、奴は水の魔術に弱いです。体毛が少ない顔を中心に狙って、水の魔術を!!」
「心得ましたわ!」
ボクは既に、『サーチ』を使ってイライザの弱点を探っていた。サーチの発動条件は、相手を一定時間視界に収めること。先程リズと話している時はイライザもこちらの様子をうかがって止まっていたので、十分にサーチを使う時間があった。
イライザの体毛は魔術をはじくが、ザキほど完全に防げるわけではない。水の魔術なら通りやすいし、顔なら十分にダメージは入る。そのことをリズに伝えると、リズは即座に足をサファイアへと変化させて顔面目掛け蹴りかかった。
「さあ、わたくしから貴女へ⋯⋯『愛をこめて』!!」
リズの足の周りを高速で水の刃が回転し、まるでチェーンソーのように見える。その一撃を、イライザは爪を前に突きだして受け止め、はじき返す。
勢いはほぼ拮抗、ややイライザが押している感じだ。単純な力ではやはりイライザの方が上回っているらしい。しかし、足りない力は足せばいい話だ。
「はあぁぁぁぁ!!」
気合い一閃、土の魔術で作った剣を、リズとは別方向から叩き込む。リズの攻撃の対処で手一杯のイライザには、これを防ぐ手段はないはずだ。
「甘ぇ!!」
しかし、イライザは尻尾を動かしてボクの攻撃に対応してみせた。そして、剣を受け止めると同時に身体を回転させ、ボクとリズに同時に回し蹴りを放つ。お互いにガードは間に合ったが、折角詰めた距離をまた離されてしまった。
さらに、追撃とばかりにイライザが爪を振るい、風の刃を飛ばしてくる。風の刃は、こちらに近づく程にどんどん巨大化していき、最終的には獅子の形となった。
その刃を受け止めたリズの足が、すっぱりと両断されるのを見て、ボクは正面からこれを受け止めるのは危険だと判断した。風の刃の下に剣をくぐらせ、後方へ逸らすことでなんとか回避する。
後ろで壁が破壊される音と観客の悲鳴が聞こえたが、こんな趣味の悪い場所に来たことに対する罰だと思って欲しい。
リズの足は既に再生を始めているが、その再生の隙を狙ってイライザが迫っている。このままではリズが危ない。ボクは咄嗟に、オサから貰った道具のうちの1つをイライザへと投げつけた。
「ゲホッゲホッ! なんだこの粉ぁ。目と鼻が痛ぇ!?」
咄嗟に取り出したせいで何を投げたか自分でも分からなかったが、どうやら痺れ粉入りの爆弾を投げたみたいだ。人間より五感が鋭い獣人族のイライザにはよく効くだろう。これはついてる。
「ユウ! わたくしはイライザを一撃で倒す技の準備を致します。その準備が終わるまで、奴を引きつけてくれませんか?」
「わ、分かりました!」
足の再生が無事終わったリズは、大技の準備のためにくるくるとその場で回転を始める。準備が終わるまでどれくらいの時間がかかるのだろうか。正直あまり自信はないが、頼まれたからにはやり遂げるしかない!
ひとまず、イライザの視界を遮るために、煙玉を投げつけて煙幕をはる。先程の痺れ粉でしばらくは鼻も効かないと思うから、これでなんとか時間を稼がなくては。
「今度は煙幕かぁ!? 小細工ばっかり使いやがってよぉ⋯⋯。そんなの、あたいには意味なんてねぇんだよぉ!!」
ガルルルぅ! と一声吠えただけで、イライザは煙幕を消し飛ばしてしまった。そして、すっかり晴れた視界の中、ボクとイライザの視線がばっちりと合う。
「ガルルル!! これでもう時間稼ぎは出来ないなぁ!? まずはウザいお前を殺して、次にあそこで回っている宝石女を殺してやる!! あたいの怒りを思う存分ぶつけてやるから、覚悟しとけよぉ!? ⋯⋯あ?」
それは、突然の出来事だった。歯を剥き出しにして殺意をこちらに向けていたイライザが、自分の脇腹に感じた違和感にそっと手を運ぶと、べったりと血が手に貼り付いた。
そこに刺さっていたのは、1本のナイフ。そして、それを刺したのは、これまで完全に気配を消し、チャンスをうかがっていたもう1人の仲間。
「ドク!? いつの間にそこに!?」
「メイクで風景に紛れて隠れてたのよ。アンタ1人でこいつ相手に時間稼ぎするのはしんどいでしょ? ドクちゃんも手伝うわ」
なんと頼もしい援軍だろうか。先程までの不安が一気に吹き飛んだ。ドクと2人なら、イライザ相手にも時間稼ぎが出来る。そして最後は、きっとリズがトドメを刺してくれるはずだ。ボクはそれを信じて、全力で戦うのみである。
「やっぱりドクは優しくて頼りになります! もっと好きになりました!!」
「⋯⋯うっ、ちょっと罪悪感。ホントは最初のイライザの雄叫びで気絶しててさっき目覚めたばかりとか言わないほうがいいわね」
「え、何か言いましたか?」
「何でも無いわ! さあ、死ぬ気で時間稼ぐわよ。さっきナイフを刺した時に毒も流し込んだから、少しは動きも鈍るはずだわ」
距離が離れているせいで、小声で呟いた言葉は聞こえなかったが、ドクの激励はしっかりと届いた。
毒のせいか傷の治りは遅いものの、先程よりもさらに怒りを瞳に宿し、低い声で唸るイライザ。そんなイライザを足止めすべくドクも新たにステージに加え、今まさに第3ラウンドが始まろうとしていた。
次回は、少し時を戻してルクスリアvs忍者を。こちらも熱いのです。




