その心、不滅の宝石
今回もユウ視点でイライザ戦をお届け。次回もおそらくイライザ戦です。忍者たちが気になっている方は少しだけお待ちください。
「や、やった⋯⋯! やりましたね、リズ!」
「いいえ、まだですわ。思ったほど手ごたえがありませんでした。おそらく、傷は表皮だけ⋯⋯予想以上に固いですわね」
リズのその言葉通り、あれだけの攻撃を喰らったにも関わらず、イライザは普通に立っていた。先程リズに切り裂かれた傷口を触り、指に付いた血をぺろりと舐め、額に青筋を浮かべる。
「おいおいおい⋯⋯。やってくれるじゃねぇか。まさか、このあたいに傷をつけるなんてよぉ。どうやら、本気で怒らせたいみたいだな、あぁん!? 後悔して泣きべそかいても知らねぇぞ、石っころがぁ!! ガルルルルァァ!!」
イライザは、怒りの咆哮を放った。咄嗟に耳を塞いだが、それでも脳が揺さぶられるほどの破壊力だ。観客席に居た魔族の一部は、その破壊力に耐えきれず耳から血を流し倒れている。獅子吼ゆれば野干脳裂くとはまさにこのことか。
そして、長い長い咆哮を終えたイライザの身体は、大きな変化を遂げていた。全身をまんべんなく黄金色の体毛が覆い、傷口も内側から塞がれている。さらに、猫特有のヒゲまで生え、より獣に近い姿になっていたのだ。
「ガルルルゥ⋯⋯! あたいは『憤怒魔将』イライザ。怒りを力にして力を増す、百獣の女王だ! あたいを本気で怒らせた奴が、命を落とさなかったことは、過去一度もない!!」
「そうですか。それでは、わたくし達が最初で最後の例外になりそうですわね」
「減らず口を⋯⋯叩くんじゃねぇよ!!」
ドン! と地面を蹴るような音が聞こえたかと思うと、一瞬でイライザの姿が消える。直後、ボクの目の前には折りたたんだ足でイライザの拳を受け止めるリズが居た。
自分はリズに庇ってもらったのだ。そう気付いた時には、既に二人の姿は視界から消えている。どちらの動きもあまりに早く、目で追うことが全くできない。時折、リズの金髪とイライザの尻尾が舞う残像が見えるくらいだ。
手助けをしようにも、視界に捉えなければ『サーチ』の力も使えないし、下手に手出しをしてリズに攻撃が当たってしまっては大変だ。
ボクは迷った。そして、迷いは戦闘中において大きな隙を産み出すことになる。リズとイライザの戦闘による余波で飛んできた闘技場の壁の破片、それをボクは直前まで気づくことが出来ずにいた。
「ユウ、危ない!」
そして再び、ボクを守るため破片との間に割り込み、蹴りを放つリズ。破片は砕け、ボクへと届くことはなかった。
ボクに傷がないことを見て、ほっとした表情を浮かべるリズ。しかし、イライザを前にしてリズが見せたこの一瞬の隙は致命的だった。
パリィン! とまるでガラスが砕けるかの如く、ボクの目の前でリズの頭が粉々に砕け散る。リズの頭だった場所にあるのは、握りしめられたイライザの拳だ。
頭を失って力なく倒れる身体を蹴り飛ばすと、イライザは高らかに勝利の雄たけびを上げた。
「ガルルルル!! やっぱり人間は弱いなぁ!! まさか、自分より弱いゴミを守るために死んじまうなんてよぉ! この世は弱肉強食。弱いってのは罪だ。弱い奴には、生きてる価値なんてねぇ。⋯⋯お前も、そう思うよなぁ!?」
「よ、よくもリズを⋯⋯!」
「あぁん!? なんだその目は。あたいを恨むのか? 違うだろうがよぉ!? 恨むべきはお前自身の弱さだろうがぁ!!」
⋯⋯イライザの言うことは最もだ。ボクは今、何もできなかったボク自身に怒っている。これでは、ただリズの足手まといになっただけではないか。
無力な自分が憎い。リズを殺したイライザが憎い。怒りで目の前が真っ赤になるとは、このことか。ボクは、自分の心の底からあふれ出すこの真っ赤な感情を、もはや抑えきれずにいた。
《――想定値を超える『憤怒』を検出。魔王因子を発現させます。よろしいですか?》
その時、脳内に聞き覚えのある声が聞こえた。これは、東北の地でも聞いた、あの声だ。あの時は、声が聞こえた直後新たな力に目覚めたが、今回は少し様子が違う。聞こえてくる単語が不穏だし、こちらへと許可を求めている。
それでも、怒りに支配されたボクは、ためらうことなくその声に『はい』と答えようとして⋯⋯。
「⋯⋯いけませんわ、ユウ。淑女たるもの、どんな時でも冷静でなくては。『怒り』に支配されても、ろくなことにはなりません」
水晶のように透き通ったその声が、ボクの真っ赤に染まった視界を一瞬で晴らす。この喋り方、そしてこの声、聞き間違えるはずがない。
「おい、なんで声が聞こえるんだぁ!? お前はさっき頭握りつぶしてぶっ殺したはずだろぉ!?」
「⋯⋯どんな宝石も、砕けば壊れるもの。しかし、わたくしの中で光り輝くこの宝石だけは、決して砕けることなく輝き続けますわ。その宝石の名は、『心』。信じれば信じるだけ輝きを増すこの宝石がある限り、わたくしの肉体は不滅ですわ!!」
先程イライザが蹴り飛ばしたリズの身体が、ひとりでに起き上がっていた。そして、その腕には、砕け散った破片から再生されたリズの頭部が抱えられている。
「リズ!! よかった、生きていたんですね!!」
「わたくしがユウを置いて先に逝くわけがありませんわ」
完全に再生が終わった頭を元の位置にはめ込んだリズに、思わず駆け寄ってハグをする。そんなボクを、リズは優しく抱きしめてくれたのであった。
ポイント評価と感想を貰ったらリズさんが踊ってくれるかもしれません。ぜひよろしくお願いします~。




