もうひとつの戦いの舞台
戦いの舞台は、闘技場だけではありません。その外でも、もうひとつの戦いが始まろうとしています。
「ルクスリア様、あの侵入者共は放っておいて平気なのですか?」
「イライザがいれば大丈夫よ。それよりアンタは私の代わりに解説席に行きなさい。折角の乱入者なんだから、盛り上げないと勿体ないわ」
ユウ達が闘技場内に乱入したのを確認したルクスリアは、自分の副官に役目を任せ、闘技場の外へと向かっていた。
イライザが乱入者に負けるかもしれないという心配は一切していない。アレは、純粋な戦闘力だけでいえば『大罪七将』の中でも2番目に強い。人間2人などにやられることはないだろう。
ルクスリアが心配しているのは、むしろ他の侵入者に関してだった。人間がたった2人だけでこの施設に忍び込んだとはとてもじゃないが考えにくい。恐らく、あちらはイライザと自分の目を引きつける為の陽動。ならば、本命は別に居ると考えるのが自然であった。
「ん~、どうやら、ビンゴみたいね」
そして、闘技場の外に出て、ルクスリアは自分の予想が正しいことを確信した。今はまだ変化はないが、この施設全体に何らかの力が加えられているのを感じ取ったのだ。
「この感じ⋯⋯純粋な魔術とは少しタイプが違うわね。空間ごと別のものに変化しようとしている。たぶん、インウィディアちゃんと同じような力だわ」
同じような力を持っている同僚のことを頭に浮かべ、どうしたものかと高速で脳味噌を回転させる。こういった能力は1度発動させてしまうと手出しが難しい。ならば、どうするのが最もよい方法か。答えは、非常にシンプルだ。
「本体を叩く。やっぱりそれが1番よねぇ。さぁて、私の施設にこんな巫山戯た真似をしたお馬鹿さんには、お仕置きしてあげないといけないわねぇ~♡」
ルクスリアは、履いているブーメランパンツの中から取りだした鞭を構え、ピシィッ! と鋭い音を立てて床を打つ。
ルクスリアは、何の目的もなく鞭を振るった訳ではない。相手は、魔術とは異なる力を使う相手。先程1度魔術による探知を試してみたが、それらしき存在は探知することは出来なかった。何らかの方法で身を隠しているらしい。
そこで役立つのが、エルフ族特有の尖った耳である。この耳は伊達に尖っている訳ではない。魔力を巡らせて聴力を強化させれば、鞭の音を壁や床にぶつけ、その反響音を捉えることで潜んでいる物体の形状を探ることが出来るのだ。
ルクスリアは、早速自分の背後に潜んでいる人間らしき存在に気付き、迷わずそちらへ向けて鞭を振るった。予備動作も一切無く振るわれたその一撃に対処出来ず、天井に張り付いてルクスリアの様子を伺っていた忍者の1人は、上半身と下半身を一瞬で切り離されてしまった。
「あ~ら、のぞき見かしら? 感心しないわねぇ。そんな悪い子には⋯⋯お仕置き、よ!」
ルクスリアは、まだ辛うじて意識のある忍者に近づくと、その頭に両手をぶっさした。すると、手が差し込まれた傷口を中心に、小さな魔方陣が2つ浮かび上がる。
「ふむふむ⋯⋯成程ね。こいつらは昔からこの世界にいる諜報部隊みたいなもんか。私の探知に反応がなかったのも、こいつらの技術力によるもの⋯⋯。へぇ! 凄いじゃないあなたたち。元凶を始末したら里に行って皆この施設に入れてあげるわ」
ルクスリアが行使した魔術は、相手の記憶を読み取るものだ。それにより、忍者の存在はルクスリアに知られることとなってしまった。しかし、肝心のこの施設全域に術をかけている人物⋯⋯つまり、ラビに関する情報を得ることは叶わなかった。
「⋯⋯どうやらはずれみたいね。それらしき協力者がいることは分かったけれど、肝心の場所については全く知らないみたい。まあ、こいつらの存在を知れただけでも充分収穫があったと思うことにしましょう」
そして、用済みになった忍者をパチンと指を鳴らして爆発させると、ルクスリアは再び鞭を振るい、床を打ち鳴らしながら歩き始めた。
「とりあえず⋯⋯邪魔な奴は皆、殺しちゃいましょう♡ それが1番手っ取り早いわぁ」
ルクスリアが忍者を殺したのと同時刻。オサは、通信機によって自分の里の忍者が1人殺されたことを把握していた。そして、甲賀の忍者には皆同様に超小型のカメラと盗聴器も装着されており、その情報も随時共有している。オサは、自分たちの存在が知られ、ルクスリアがラビを狙っていることも把握したのである。
「⋯⋯迷宮を司る幼子よ。我らの同胞が今、1人殺された。我はここを動く、そして、其方もまた、この場所から離れてくれ」
「ん? 何故移動する必要があるのだ? オサとリーダー、そしてヨルとアサが守ってくれていた方が安全なのだ。吾輩、今は無防備な状態だから、守りが減るのはちょっと困るのだ」
作戦の要であるラビは現在、施設内にある一室にて術の行使を行っている真っ最中である。元々部屋に居た魔族は追い払い、部屋の外ではリーダーとアサ、そして部屋の中にはオサとヨルがそれぞれ待機していた。
「どうやら、相手は記憶を読む術を使う様子。我らの同胞100余名、いつでも命を落とす覚悟は出来ているが、あの化け物相手には正直時間を稼ぐのすら難しい。そうなれば、我が直接迎え撃つしかないだろう。⋯⋯しかし、我も恐らく奴には勝てぬ。もし我が敗北すれば、我の記憶を読んだ奴は其方の位置を特定するだろう。それだけは防がねばならぬ」
「⋯⋯分かったのだ。オサがそう言うなら、それに従うのだ」
オサの覚悟を感じ取ったラビは、素直にその言葉に従うことに決めた。きっと、ユウがこの場に居たら反対したに違いないだろう。しかしラビは、作戦成功には時に犠牲もつきものであることを理解していた。
「⋯⋯護衛は、そこに居る者に任せればいいだろう。彼は、甲賀の里でも優秀な忍者だ。きっと其方を守ってくれる」
「お、オサ⋯⋯!!」
自分の身勝手で里を出た自分のことを優秀な忍者だと褒め、重要な任務を託してくれたオサに、ヨルは改めて心の底から忠誠を誓った。そして、必ずや自分に託された使命を果たさんと燃え上がる。通信機の電源を切っても、忍者の絆は切れては居なかったのだ。
ラビ達の居る部屋を出て、仲間からの情報を元に急ぎルクスリアの元へと向かうオサ。そんな彼に付いてくる足音が聞こえ、オサは大きくため息をついた。
「⋯⋯そんなに足音を立てては、忍者失格ではないか? 伊賀の。何故貴様までついてくる」
「はっ! お前1人だけに格好付けさせるかっての、甲賀の。俺様の仲間だって戦っていることを忘れて貰っちゃ困るね。安心しろよ、ちゃんと護衛なら娘に任せてきたさ」
「⋯⋯そうか。ならば、我からは何も言うことはない」
「おっと、そうかい。俺様はお前に言いたいことがあるぜ。俺様の邪魔だけはするんじゃねぇぞ!」
「⋯⋯それはこちらの台詞だ」
こうして、伊賀と甲賀、2つの里の忍びの長は、互いの仲間を守るため、風の速さで駆け抜ける。
『色欲魔将』ルクスリアと、2人の忍者⋯⋯彼らが激突する時は、そう遠くない。
次回は、ユウ達の戦いの舞台へと戻ります!




