兎は跳ね、獅子は吠える
今日1度目の更新。2度目はおそらく21時か22時頃の予定です~!!
「さあさあ、いつでもかかってきな! 返り討ちにしてやるからよぉ!!」
負ける訳がないと思っているのか、イライザは自分から攻撃する様子はなく、エミの攻撃を待っている様子だった。しかし、その自信も頷ける。現に、こうして向かい合っているだけで膝が震えそうになるくらい、イライザは恐ろしい程の闘気を全身から発していた。
イライザが戦っている姿は見たことがない。闘技場で姿を見かけたことはあったが、いつも退屈そうに欠伸をしていた。きっと、イライザにとってはつまらない戦いばかりだったのだろう。
そんなイライザが、自分と戦うことを承知したということは、つまり戦う価値はあるとは思われているということ。ネガティブな方に沈みがちな気持ちを、何とか奮い立たせ、エミはすっと膝を持ち上げる。
エミの戦い方は、異常な程発達した聴覚を使って敵の攻撃を察知してからのカウンターが主体である。しかし、イライザが仕掛ける様子がない以上、こちらから攻めるしかない。
エミは、地面に付けていた方の足を素早く折り曲げ、大きく跳躍、一気にイライザへと近づいた。くるりと一回転して放った踵落としは、イライザの脳天に直撃する。
「ああん? なんだこれ。蚊でも止まったかぁ!?」
しかし、イライザへのダメージはみられない。エミは、イライザから反撃を喰らう前に、再び跳びはねて距離を取った。
生半可な攻撃では、イライザにはダメージは通らない。今の自分に出せる最大限の火力を出さなければダメだ。そう判断したエミは、両足に思いっきり力を込めた。
改造された肉体は、普通の人間ではあり得ない程の爆発力が出せる。エミの耳には、自分の両太股の筋肉が収縮し、膨れあがる音が聞こえてきた。
膨れあがった筋肉に耐えきれず、履いていたホットパンツが縦に裂ける音が聞こえた直後、エミは思いっきり地面を蹴り飛ばした。その衝撃は、地面にヒビが入る程だ。
エミは、地面すれすれを飛行しつつ、猛スピードでイライザ目掛け接近していく。その様子はさながら、ミサイルかロケットのようだ。圧倒的な脚力が可能にした、ロケットのような低空飛行から繰り出される頭突き。
「⋯⋯だから、そんなの効かねえって言ってるだろぉ!?」
イライザはこの必殺の一撃を、たったの拳一振りではねのけてしまった。頬を思いっきり殴られたエミは、自分の突進の勢いもそのままに闘技場の壁に叩きつけられる。
「がっ⋯⋯!?」
何が起こったのか分からないまま、壁に埋まり込み口から血を吐くエミ。そして、その発達した聴力は、自分に追い打ちをかけるべく迫る攻撃音を無情にも捉えてしまった。
「よっ!」
戦いの最中とは思えない軽いかけ声と共に、イライザはデコピンの要領で、空気を指で弾く。エミが聞いた音の正体は、イライザの指によって弾かれた空気の弾丸だった。
「あああああ!?」
ぴん、ぴんと立て続けに2発、放たれた空気の弾丸はエミの眼球をつぶし、視力を奪い去った。思わず叫び声を上げるエミだったが、続けて放たれた空気の弾は直前で回避する。
視力が奪われた今、頼れるのは自分の聴力だけだ。元々、目よりも役に立つこの耳は、こんな状況でもエミの役に立ってくれる。
イライザは、先程の位置からほとんど動いていない。既に勝った気でいるのか、再び空気弾を放つ様子もない。
それならばと、エミは先程壁にぶつかった際出来た破片を、イライザの脳天目掛け蹴りつけた。恐らくダメージはろくに入らないが、狙いはそれではない。エミは、破片を蹴りつけると同時に、自分自身も壁を蹴って移動する。
向かう先は、イライザに当たった破片が跳ね返った方角だ。その破片をまた蹴り付け、再び壁を蹴って移動する。
時折自分自身も蹴りを放ったりしつつ、エミはピンボールのように闘技場内を跳ね回り、絶えず攻撃を続けた。
「ああ、クソ! 鬱陶しいなこの野郎!!」
エミ自身も制御できない程のスピードで無差別に闘技場内を跳ね回っているかいあってか、イライザもなかなかエミを捉えることが出来ずに苛ついているようだった。そして、その身体には僅かながら、破片と蹴りによって傷が刻まれていく。
「これが私の全力奥義、『烏飛兎走』!! 貴女が倒れるか、それとも私の体力が尽きるまで⋯⋯私は跳ねるのを止めないわ!!」
闘技場内の壁に刻まれるヒビ、そして最早その残像しか見えない程に速度を増したエミ。『憤怒魔将』イライザの圧勝かと思われた中での思わぬ反撃に、会場も大いに盛り上がった。
「⋯⋯うぜーんだよ。ああ、うぜぇうぜぇうぜぇ!! あたいを⋯⋯これ以上怒らせるな。ガルルルルぁぁぁぁぁ!!!」
しかしその時、着実に蓄積されていたイライザの怒りが、ついに爆発する。闘技場内に響き渡る怒りの咆哮は、一瞬で歓声を鎮め、そしてその声は衝撃波となって、エミを地面に叩きつけた。
慌てて立ち上がろうとするエミの脚を、イライザは怒りに任せ踏みつける。骨が折れた音と、エミの悲鳴が会場内に虚しく響く。
そして、最早立ち上がることもままならないエミの耳を引っ張って無理矢理持ち上げたイライザは、彼女の腹に何度も何度も拳をねじ込んだ。
「お前、調子に乗っちゃったよな~!? 弱っちいくせにブンブンとうざったらしく飛び回ってよ~? もしかして勝てるとか思っちゃったか? 馬鹿にすんなよこの雑魚がぁ!!」
エミは既に、意識がほぼ飛びかけていた。もう話す気力すらなく、何度も腹を殴られたせいで胃の中のものは全て吐き出され、血しか出てこない。
「弱い弱い弱い、弱ーい!! 弱い奴には生きる価値なんてねぇ!! 弱すぎて、ムカつくんだよお前ら人間はよぉぉ~!!」
イライザは、エミの長い耳を掴み、ブンブンと頭の上で振り回すと、観客席目掛け思いっきりぶん投げた。
闘技場における敗北の条件は、どちらか一方が意識を失うか、場外へと出されることだ。遠のく意識の中、エミは自身の敗北を悟り、涙を流した。
(ごめん、お母さん。お兄ちゃん⋯⋯。私、頑張ったけれど、ダメだったよ⋯⋯)
「⋯⋯いいえ、貴女はまだ負けてはおりませんわ。ここまでよくぞ、頑張りました。後は⋯⋯わたくしたちの番です」
エミの心の声に答えるかのように聞こえてきたその声。そして、エミの身体は何故か観客席にぶつかることはなくふわりと風に包まれて、闘技場内へと戻された。
そんなエミの身体を受け止めたのは、優しい顔をした茶色の髪の毛の少女だった。その少女の隣には、金髪を縦にカールさせたお姫様みたいな女の子もいる。
「リズの言うとおりです。ここから先は、ボク達が頑張る番だ。だから君は⋯⋯少しだけ、おやすみ」
「お、おにい、ちゃ⋯⋯」
すっと優しい手つきでエミの頭を撫でてくれる茶髪の少女。その少女に何故か行方不明の兄の面影を見つつ、エミは眠るように意識を失ったのであった。
次回は少しだけ時を遡り、ユウ達の視点に戻ります。




