『人間動物園』
「おいアサ! 俺様は絶対に認めねぇからな! 甲賀の忍者と恋仲とか、何を考えてんだこの馬鹿娘!!」
「うっせぇ! 親父に文句言われる筋合いはねぇよ! 恋しちゃったもんは仕方ねぇだろ! 1度回り始めた風車みてぇに、この恋は誰にも止めることは出来ねぇんだよ!!」
目の前で唐突に繰り広げられた親子げんかは、甲賀の里から来た忍者、ヨルの恋人のアサと、この伊賀の里の長である自称『リーダー』によるものである。
このリーダーと名乗る忍者、甲賀の里のオサと比べて見た目がかなり派手だった。着崩した着物は胸元が大きく開いた大胆なもので、筋肉質な胸板をばっちり見せびらかしている。髪の毛の色も忍者とは思えない程派手で、ビビットなピンク色に染められていた。
「伊賀の里の長よ! どうか、娘さんを俺にくれませんか!」
「うっせぇ! 甲賀の忍者が俺様に話しかけるんじゃねぇよ! あと長って呼ぶな! その呼び方だとアイツと被るだろうが。俺様のことは『リーダー』と呼びやがれ!!」
そう言ってヨルを一蹴するリーダー。この対立する里同士の禁断の恋の行く末はかなり気になるところだが、ボク達は他にしなければならないことがある。
とりあえず、挨拶もかねてリーダーに話しかけることにした。
「あの⋯⋯すいません。ボク達、ここに居るリズの仲間で、後ろに居る2人がラビとドク、そしてボクはユウという名です。既に話は聞いていると思いますが、ボク達に協力してくれませんか?」
「こーとーわーるー!! なんで俺様たち伊賀忍者がそんな地味なことに付き合わなきゃならねぇんだ。人間の救出ぅ? 勝手にお前らだけでやってろ。こっちは派手な創作忍術を考えるので忙しいんだよ。帰った帰った!!」
甲賀の忍者同様、伊賀の忍者もボク達に対しあまり協力的ではない様子だった。それならばと再び交渉をしようと意気込んだボクの口を、後ろからドクが手で塞いできた。
「もごもごもご、もご?」(いきなり何するんです、ドク?)
「アンタはやめときなさい。もし交渉に成功しても、面倒なことになりそうだわ。⋯⋯それに、こういう単純そうなタイプの説得なら、簡単よ」
どうやら、ドクが代わりに交渉をしてくれるらしい。その態度からも、絶対に説得が上手くいくという自信で溢れていた。変に口を挟んで邪魔をしても悪いので、ここは大人しく後ろに下がることにする。
「お? こりゃまた随分派手な格好の奴が出てきたじゃなぇか。お前、なかなか美しいな。どうだ、俺様の13人目の嫁にならねぇか?」
「ごめんなさ~い、ドクちゃんは皆のものだから、誰のものにもならないの~♡ ⋯⋯それに、この里にはもう用はないし~? 甲賀の里の忍者は協力してくれるって言ってくれたもの。正直、もう戦力は足りてるのよね。そ・れ・に~?」
ドクはリーダーの目の前で、フリル付きのスカートをひらひらと揺らしてみせる。その行為自体は大変可愛らしいが、あざ笑うような表情も相まって煽っているようにしか見えない。そして、たっぷりと間を空けてから、ドクはリーダーに対し決定的な一言を投げかけた。
「⋯⋯甲賀の忍者の方が、派手でかっこよくて、強そうだったし♡ 地味な伊賀忍者の協力なんて、必要ないかな~?」
「⋯⋯ハァ!? 何馬鹿なこと言ってるんだ、おめぇはよ!! アイツらより俺様たち伊賀忍者の方が絶対に派手で強いしぃ!?」
「えー、そんなに言うなら、実際に証明してみせてよ。じゃないと信じられな~い」
「分かったよ。やってやる。やりゃあいいんだろ!? 俺様たち伊賀忍者もお前らに協力する! だから俺様たちよりアイツらが派手で格好いいって言う評価は改めやがれ!!」
リーダーから『協力する』という言葉を見事引き出したドクは、こっそりとこちらに向けてピースサインを送ってきた。その見事な手法に、思わず拍手を贈りたくなったが、いつの間にか背後に回り込んでボクの身体を抱きしめていたリズによってそれは止められてしまった。
「ふふふ。煽りにおいてドクの右に出る者はいませんわね。こういう時、本当に頼りになりますわ。ねえ、ユウ?」
「そ、そうですね。ところで何故、ボクを抱きしめているんですか?」
「何となくです。嫌でしたか?」
「い、いえ。嫌というわけじゃ⋯⋯」
嫌というわけじゃない。しかし、この状況で抱きしめてくるのはおかしいのではないか? さっきからリズの大きな胸が背中に当たっているせいで意識をそっちに持って行かれているし。そして、こっちをじいっと凝視しているアサの視線が痛い。
アサは、ボク達を見た後、ヨルの方をちらりと見て、そして自分の胸へと視線を落とした。⋯⋯その胸は、悲しいことに平坦であった。こっそりと落ち込むアサを、ラビが励ましに行く。
「大丈夫なのだ。ラブの方がおっぱい小さいのだ!」
⋯⋯何故かここに居ないラブへと流れ弾が飛んでいった。今頃アジトでくしゃみをしているかもしれない。
何はともあれ、これで伊賀と甲賀、2つの里の忍者の協力を得ることに成功した。後は、敵の元へ突入するタイミングと、具体的な作戦を話し合うだけである。
「⋯⋯ところで、敵はどこに居るのでしょうか?」
「いやアンタ、そんなことも知らないでここまで来たの!?」
ドクに呆れられながらも、改めて教えられた今回の目的地は、数多くの人間が見世物にされている魔族達の娯楽施設、『ヒューマン・ズー』。そこは、『色欲魔将』ルクスリアと『憤怒魔将』イライザ、2人の『大罪七将』が管理する施設である。
つまり、最悪の場合大罪七将2人を相手にすることとなる。しかし、今回の目的はあくまでも囚われた人間達の救出。倒せるにこしたことはないが、戦闘はなるべく避け、救出作業に専念する。そのために、隠密行動に特化した忍者の協力を得る必要があったのだ。
「ルクスリア⋯⋯」
戦わない方がよいとは分かっているが、その名を口にするとどうしても意識してしまう。恐らく、消えたボクの記憶に関わっていると思われるルクスリア。そして、どこに居るか分からないボクの家族。
何となくだが、ボクはそのどちらにも目的地で会うことになる予感がするのであった。
〇〇〇〇
同時刻、魔族専用巨大娯楽施設、『ヒューマン・ズー』にて。ここでは、魔族によって囚われた人間達が見世物にされている。
檻の外から、全裸の人間を眺め、時折ゴミを投げつけは、反応を楽しむ魔族たち。まるで動物園のようだが、動物園はちゃんと世話がなされるだけまだマシだ。この『ヒューマン・ズー』には、飼育員などは存在しない。それ故に、投げつけられるゴミだけが檻の中の人間にとって唯一の食料となる。人間は、異臭を放つゴミを涙目で口の中に放り込み、その様子を見て魔族は悦に浸るのだ。
しかし、こうやって見世物にされている人間はまだマシかもしれない。もっと酷いのは、魔族が牛や馬などを改造して産みだした魔獣と呼ばれるバケモノと無理矢理戦わされる人間達だ。彼らは日々、闘技場の中でそういったバケモノや、時折人間同士で戦わされ、その度に多くの人間が死んだり、死なないでも重傷を負って2度と歩けない身体にされたりするのだ。
そんな闘技場にて、最近話題となっている人間がいた。連戦連勝。バケモノ相手にも臆すること無く、同じ人間相手にも容赦はない。その人間が出る試合は、必ず会場が満員になるほどの人気ぶりだ。
今も、ちょうどキリンとシマウマを掛け合わせたキリシマ相手に勝利を納めたところである。被っていた兜を脱ぐと、そこからぴょこんと人間には生えていないはずの長い兎のような耳が揺れ、同時に会場内も歓声で大きく揺れた。
「フフフ、今日もさいっこうだったわ~。またよろしくね、最強の剣闘士、エミちゃん?」
闘技場を後にし、控え室へと戻る彼女に、そう話しかけるのは、『色欲魔将』ルクスリア。しかし、エミと呼ばれたその少女は、ルクスリアを無視して去って行く。その後ろ姿には、これまた人間にはない小さな尻尾が、歩みに合わせてぴょこぴょこ揺れていた。
控え室に戻った彼女は、ふう⋯⋯とため息をついて、床に座り込む。その姿には、先程まで闘技場で戦っていた戦士の名残はない。そこに居たのは、ただの不安と恐怖に押しつぶされそうになるのを必死で耐える少女であった。
「もう、こんな生活嫌だよぉ。早く助けに来て、ユウキお兄ちゃん⋯⋯!!」
ユウキお兄ちゃん、一体誰なんでしょうか⋯⋯。
次回、敵本拠地に突入です!




