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さらばみちのく百鬼夜行

これにて第二章終了です!

「うう、なんとかここから抜け出せないかな⋯⋯」


 それは、ユウたちが温泉に行く少し前のことである。トムの部屋の隅の方で、植物のツタで出来たゲージに閉じ込められているアケディアは、何とか脱出が出来ないものかと四苦八苦していた。


 しかし、ツタに含まれたザキの髪と、ツタ自体が魔力を吸う性質を持ったものであるせいで、アケディアは完全に無力化されていた。『怠惰魔将』の名の通り、自ら動くことはほとんどなく、どこかへ移動する時は必ずお気に入りのクッションの上に乗るか転移魔法で済ませていたアケディア。そんな彼女の筋力は、クソ雑魚であった。


 ならば歯で噛み切れないかと試してみたが、その行為も想定済みだったのだろう。牙を当てた瞬間感じるえげつない苦みに、アケディアはたまらず口を離した。


 頼りの魔術は使えず、かといってツタをどうこう出来るような筋力もない。最早万事休すかとうなだれたその時、アケディアの頭に鋭い痛みが走った。


「こ、これは⋯⋯まさか、夢魔術による通信!?」


 自分で魔術は使えないが、他人から使われた魔術ならば阻害されず受信することは出来る。これで助けを求めることが出来ると安堵したアケディアは、痛みに身を委ね、眠りにつくことにした。


 目を開けると、そこは慣れ親しんだ夢の空間。その中に立ち、こちらを見つめる人物もまた、見慣れた顔であった。


「スペルビア! 夢魔術をこのレベルで行使できる奴なんてぼく以外じゃ君だけだと思っていたよ。実は、ぼくは今敵に捕まって魔術が使えないんだ。だから、助けを呼んでくれると嬉しいんだけれど⋯⋯」


 アケディアが話しかけても、大罪七将の一角、『傲慢魔将』スペルビアは、その目を閉じたまま動こうとしない。こんな時でも変わらぬ態度の同僚に、アケディアは内心舌打ちをした。


 正直、アケディアはスペルビアのことが嫌いだ。悪魔族なのに年中真っ白な服を着て天使みたいな格好をしているのも気にくわないし、その性格に難がありすぎるからだ。


 しかし、今はスペルビアに助けを求めるしか方法がない。アケディアは返事がなくとも懲りず、話しかけ続けることにした。


「む、無視しないでよスペルビア。ねえ、君の力が必要なんだ、だから、手を貸してくれよ!」


「⋯⋯貴女は、さっきから一体何を言っているんですか?」


 ようやく口を開けたかと思いきや、そんな意味の分からないことを言ってくるスペルビア。アケディアは「いや、分かるだろ!」と怒鳴りたいのをぐっとこらえ、再び助けを求めた。


「だ、だから、助けてほしいんだ。スペルビアなら夢から辿ってぼくの居る座標が分かるでしょ? それを辿ってくれれば、魔王様に徒なす奴らを皆殺しにも出来る。あ、そうだ。奴らの中に魔術を無力化出来るのがいるから、なるべく素の身体能力が高い魔族を多めに⋯⋯」


「ですから、何を言っているんですか? さっきから『助けて』と⋯⋯もしかしてそれ、私に言ってます? え、本気ですか? もし本気なら、神経を疑いますね⋯⋯」


 そう言って、困った風に首を傾げるスペルビア。だが、困っているのはこっちの方である。


「いや、本気なんだけれど⋯⋯」


「え、え、え!? あれ本気なんですか? まさか、この私に対し『助けて』などと図々しい提案を本気で!? あ、いいえ、分かってます分かってます。貴女も敵に捕まって錯乱しているのでしょう。お気の毒に、可愛そうに。あ、精神病院へ入院するならば署名はしておきますよ?」


 アケディアは、今にもぶち切れそうになるのを必死で我慢していた。そう、これがアケディアがスペルビアを嫌う理由である。口調こそ丁寧だが、その実こちらのことなど一切気遣っていない。常にこちらを煽るような態度こそ、彼女の真骨頂だ。


「まず、人に何かを頼む時に土下座の1つもしないとは⋯⋯。あ、まさか宗教上の理由とかですか。それなら仕方がないですよね。魔族にだって敬う神は居ます。ましてこの日本とやらには、八百万の神が居るそうじゃないですか。きっと貴女の信仰する便所の神は、礼儀とやらを教えてはくださらなかったんですね⋯⋯」


「い、いいえ。そ、そんな理由じゃ、ありません。⋯⋯すみません。ちゃんと土下座しますから、助けて、ください⋯⋯」


 同僚に土下座するのは何とも屈辱的な行為であるが、背に腹は代えられない。ここから逃げ出すために、アケディアはプライドを捨てることを選んだ。


 そんなアケディアを見たスペルビアは、にっこりと優しく笑みを浮かべ、こう答える。


「え、嫌です。そもそも人間なんかに負けるような弱者、助ける価値などありませんよね? 私、何かおかしいことを言っていますか?」


 そして、スペルビアはゆっくりとアケディアへ近づき、その頭に手を置いた。直後、頭が割れんばかりの痛みが襲いかかり、アケディアは悶絶する。


「あああああ!? お前、スペルビアぁぁ!! このぼくを、殺すつもりかぁ!?」


「殺せたらいいのですが、貴女は無駄に固いですからね。精神だけ破壊して殺すことにします。頑張れば、赤子程度の知性は残るかもしれませんよ? あ、あんまり変わらないですかね?」


「ぼくをここで殺すこと⋯⋯絶対に後悔させてやる! お前ら全員、あいつらの力を知らない! お前らなんて、あいつらに皆皆殺されてしまえばいいんだぁ!!」


「ああ、可愛そうに。やっぱり元々赤子以下の知能しかなかったんですね⋯⋯。そんなこと、無理に決まってるじゃないですか。あと⋯⋯誰が『お前』ですか紫ミニナメクジ。微生物から産まれ直してきなさい」


 スペルビアが行ったのは、今までに殺した人間たちの記憶を全て流し込むこと。それによって容量を超えたアケディアの脳は完全に破壊されてしまったのであった。


 既に意味を成さない単語しか発さなくなったアケディアを置いて、スペルビアは1人夢の世界から立ち去っていく。

 

「そういえば、さっき、魔術を無力化できる人間がいると言ってましたね⋯⋯。一応、記憶の片隅には置いておきましょう」


 人間のことを完全に下に見ているスペルビアは、ユウたちの現在地を報告することはなかった。しかし、魔術を無力化出来る存在がいるという情報だけは、しっかりと伝えられたのであった。



〇〇〇〇



 アケディアは結局、その後いくら話しかけても元に戻ることはなかった。魔王の秘密を喋らないために自分で精神を破壊したのか、それとも第三者の手によってこうされたのか⋯⋯真相は分からない。


 しかし、言葉を発することが出来るということは言語機能はしっかり残っているということだ。ラブが治療を試してみることを決め、その場は一旦決着が着いた。


 そして、現在。場所は、アケディアの屋敷の前。目の前には、たくさんの妖怪達が居る。その中には、ご隠居の姿はあるがアベの姿はない。


「マジ楽しみなんですけれど! ラビっちの作ったアジト、前から行ってみたかったんだよね~。超テン上げって感じ~!!」


 興奮した様子で話すアベ。そう、アベはボクたちと一緒にアジトへ来ることになったのだ。


「アベが来たいって言うなら止めないけれどさ⋯⋯ご隠居はどうすんのさ。アベと一緒に来なくていいわけ?」


「今回アベを行かせるのは、こやつの成長のためでもある。いつまでも儂に頼ってばかりじゃ真の一人前にはなれぬからのう。それに、儂には妖怪たちの面倒をみる必要もある。なぁに、お主達が呼べばいつでも駆けつける。こやつらと一緒にな」


「ご隠居の言うとおりだ。俺たちじゃたいした力にはなれないかもしれないが、何かあったらいつでも呼んでくれ!」


 ぬらりひょんの声に合わせ、妖怪達もどんどんがらがらと大騒ぎ。別れの時まで、賑やかな妖怪たちであった。



 ラビから渡された宝石を砕けば、一瞬でそこにアジトへの入り口が開く。その入り口に入ってしまえば⋯⋯この地、東北ともおさらばだ。



「皆さん、さようなら! また会いましょうね!」



――どんどんがらがらどんがらり。妖怪達のお見送り。

  さらばみちのくまた来ておくれ。見送る声はどこまでも続く。

  どんどんがらがらどんがらり。さらばみちのく百鬼夜行。


第二章終了ということで、2日ほど休みをいただいてから第三章に入りたいと思います。次の章では、ユウの家族が登場するかも⋯⋯? お楽しみに!

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