新たな居場所、新たな名前
3日連続更新! どんどんキャラ出していきますよ~。
「改めて自己紹介いたしますわ。わたくしは『リズ』。好きなものは宝石と魔術ですわ」
ボクをここまで運んでくれた金髪の美少女、リズ。優雅な立ち姿は、どこかのお姫様のようで、この土壁に囲まれた地下空間に居ることに違和感すら覚える。
「吾輩は『ラビ』! 新人、分からないことがあったらなんでも聞くのだ!」
薄い胸を得意げに張り、水色のツインテールを揺らすのは、さっきボクに間違えて飛びついてきたラビ。この空間で1人だけ魔族というのが気になるが、たぶん悪い子じゃないと思う。
「⋯⋯え? わ、私の番ですか? い、いや、もう名前知られてますし今更名乗る意味もないです。そっとしておいてくださいごめんなさいぃぃぃ!!」
早口でまくしたて隅の方に隠れてしまった黒髪の少女は、ザキ。この子は⋯⋯うん、よく分からない。
「こりゃまた随分と可愛らしい女の子が来たじゃないか。リズの愛人か何かかい? くくっ、冗談だからそう睨むなよ。あたしは『ラブ』って呼ばれてる。よろしくねガキんちょ」
燃えるような真っ赤な髪をベールから覗かせているのがラブ。この人とは初対面だ。男っぽい言動に反して、シスター服を纏っている。本当にシスターなのか、それとも単なる趣味なのか。煙草を平気で吸っている姿からは、後者のようが正しいように思える。
「え~、なにこの流れ。ドクちゃんも自己紹介しないといけないわけ~? だるいからパース♡」
ゴスロリ風のドレスを身に纏い、手鏡で髪の手入れをしている少女は、ボクに全く興味がなさそうな様子だ。でも、一人称のおかげで名前が『ドク』ってことだけは分かった。
「⋯⋯個性的なやつばかりだが、悪い奴らではない。まだここに居ない仲間もいるが、彼らとはまた会う機会もあるだろう。私たちは、この壊れた世界を元に戻すために集まった組織。彼らは皆、私が集めた。異なる世界に渡り不思議な力を身につけ、そして戻って来た『帰還者』達。私はここでは『ボス』と、そう呼ばれている。君のことも、我らの仲間に迎え入れたい。この手を、取ってくれないか?」
そして、そんな個性豊かな面々の中心で、椅子に座ってこちらに手を伸ばすのは、眼帯を付けた白髪の女性だ。
彼女が⋯⋯リズが言っていたボスか。眼帯に覆われていない方の瞳は真っ直ぐにこちらを見つめていて、その言葉が本気であるということが分かる。
でも、ボクはその手をすぐに取ることは出来なかった。なにせ、分からないことが多すぎる。自分のことさえも、まだよく分かってないのだ。
「あの、すいません。誘ってくださるのは嬉しいんですが、ボクどうやら記憶喪失みたいで⋯⋯今この世界がどんな状況になっているのか全然知らないですし、自分の名前すら覚えていないんです」
「やっぱり記憶を無くしていたのですね。薄々そんな感じはしておりました。ボス、何か原因に心当たりはありませんか?」
「そういえば彼女を助けたのはリズだったか。心当たりはある。いたずらに人間の身体や記憶を弄り楽しむのは、『色欲魔将』、ルクスリアの仕業だろう。ただ、奴の管轄地域は近畿一帯だったはず。この近くまで来ていたとは驚いたな」
「うわ、あのオカマエルフかよ。あたし、あいつ嫌いなんだよなぁ」
「ドクちゃんもあいつきらーい。だって全然可愛くないんだもーん」
「ままま、まさか私が潜入した実験施設ってあの色欲魔将の実験施設だったんですかぁ!? 聞いてないですよあり得ない。『大罪七将』の一角に喧嘩売ったようなもんじゃないですか死んでしまいます死にたくないですごめんなさいぃぃ!!」
「ザキはいっつも大袈裟なのだ。どうせ全員ぶっ飛ばすことになるんだから関係ないのだ」
⋯⋯なんだかボクを置いてけぼりにして話が盛り上がっている。何となく疎外感を感じていると、そんなボクの様子に気付いたボスが声をかけてくれた。
「ああ、すまない。記憶を失っているならば私たちの話を聞いてもちんぷんかんぷんだろう。とりあえず簡単にこの世界の現状について説明しよう」
「あんまり話が長いと退屈で死んじゃいます⋯⋯。死なない程度にお願いします⋯⋯」
「ザキもこう言っているから本当に簡単に説明するぞ。1年半前異世界から魔族が日本にやってきた。そしてその未知の世界の力でもって侵略を始め、いまや日本に住む人間はほぼ奴隷もしくは実験体となっている。以上!」
「流石に簡単過ぎますわよ。そんな説明で納得するわけが⋯⋯」
「何となく理解しました!」
「いやいや、理解早すぎでしょアンタ」
本当に何となくしか理解出来ていないが、だいたいの状況は把握した。つまり⋯⋯
「人間が今大ピンチで、そのピンチを救うための組織が皆さんってことですね⋯⋯!」
「まあそんな感じだ。で、どうする? 君も私たちと一緒に戦わないか?」
「分かりました! 何が出来るか分かりませんが、一緒に戦います!!」
「おいおい⋯⋯こっちがこんなこと言うのはあれだけれど、そんな簡単に決めていいのかい? 正直言ってかなり危険だよ。なにせ相手は魔術もバンバン使ってくるし、身体能力も普通の人間とは段違いだ。いつ死んでもおかしくない」
「で、ですよね。なので私はしばらく有給をとってこの安心安全のラビシェルターの中でゆっくりぬるぬるぬるま湯に浸かる生活を送りたいと⋯⋯」
「うちの最高戦力のアンタが休めるわけないだろ!」
「ひ、ひぃぃぃ!? ぶ、ブラック企業に殺されますぅぅぅ!!」
ラブは口こそ悪いが、こちらのことを心配しているのが伝わってきた。ザキに対しては辛辣だったけれど、あれは仲間同士の冗談のようなものだろう。
ただ⋯⋯正直言って記憶もない自分には現状居場所がない。それに、何故だかこの状況を知って放っておくことが出来ないと思う自分がいるのだ。
誰かを救い、守ること。それが自分の使命だと、心が叫んでいる。だから、何も分からない今はこの心の声に従おうと思う。
「うん、なかなかいい目だ。そういう目をする奴は好きだ。よし、それでは早速明日から、私たちの仕事を学んで貰おう。ただ、今日はもう休んだ方がいい。君は今、自分が思っている以上に疲れているはずだからな。ラビ、部屋を1つ増やせるか?」
「それくらい朝飯前なのだ! ちゃちゃっと作るから、ちょっと待つのだ~」
ラビはててて~っと入り口とは別のドアの方へと走っていく。⋯⋯部屋を作るって、どういうことなんだろう?
「ボス、仕事を学ぶといっても、1人では無理なので指導役が必要ですよね? わたくし、彼女の指導役を3日ごとに交代してメンバー全員が担当することを提案しますわ。そうした方が彼女もなじみやすいと思いますし」
「それはなかなか良いアイデアだな! 他の者は異論はないか?」
「まあ、いいんじゃないかい? あたしは賛成だよ」
「ドクちゃんははんた~い♡」
「わわわ、私も反対です。見ず知らずの人と3日も過ごすなんて無理です死んでしまいますごめんなさい⋯⋯」
「⋯⋯うん、よし! 全員賛成だな!!」
「おーい、ザキちゃんはいいとしてドクちゃんの意見無視するな~?」
「こっちで勝手に話を進めてしまったが、君は異論はないか?」
「は、はい。異論無いです」
提案自体には異論は勿論ない。むしろありがたいくらいだ。若干2名不安要素があるけれど、何とかなると信じたい。
「ところで、いつまでも名前がないのは不便だな。ここに居る全員、2文字の呼び名で呼び合っている。こう呼んで欲しいという希望があれば、言ってくれないか?」
ボスの言葉で初めて全員の呼び名の法則に気が付いた。ということは、本名は別にあったりするんだろうか?
ちょっと気にはなるが、今は自分の呼び名だ。確かに、名無しのままじゃ色々と不便だろう。2文字で、ぱっと脳内に浮かび上がる単語。ごちゃごちゃになった記憶の中からたぐり寄せたその2文字を、ボクは自然と口にしていた。
「⋯⋯『ユウ』。ユウと、そう呼んでください」
「よし、分かった。では今から君の名は『ユウ』だ。これからよろしく頼むぞ」
再び差し出されたその手を、今度は力強く握り返した。
次回、最初の指導役リズとの3日間です。