笑顔の仮面は死神の手で壊される
アケディア戦まで足すとちょっと長くなりそうだったので、今回はメビウスさんがどうなったかについての回想的な回です。ザキちゃんとご隠居、2人の強者がメビウスを襲う⋯⋯!
「フンフフ~ン。さて、アケディア様が人間達を相手している間に、ワタシはジャパニーズ魔族、妖怪でも見に行きマスかね~?」
時は少し遡り、メビウスはユウたちの前から姿を消した後、鼻歌交じりに屋敷の外へと出ようとしていた。万が一にも、自分の主であるアケディアが敗北するなどとは考えていない。それどころか、死体を貰って新しい仮面を作ろうかなどと思っていた。
その時、メビウスの髪がぴーんと真上に逆立つ。屋敷の入り口に魔族以外の何かが侵入してきた合図だ。
「お~、今日はお客がたくさんデスね。今度は、ちゃんと仲良くなれるといいのデスが⋯⋯」
そうぼやき、転移魔術を発動させるメビウス。先程やって来た人間のお客さんと仲良くなれなかった理由が自分にあるとは、どうやら全く思っていないようだ。
今メビウスの頭にあるのは、新たな客への期待と、人間のお友達を殺して貰った本に書かれてあった、『おもてなしの心得』第一条、『挨拶は丁寧に』の項目である。この本は今でもメビウスの愛読書であり、読み過ぎて表紙がすり切れてしまったので人間の皮をなめしてカバーにしているほどだ。
入り口に着くと、既にドアの向こうに人間らしき気配を感じる。メビウスは早速ウキウキ顔を仮面の下に隠し、三つ指をついて出迎えの準備をした。
「⋯⋯え? なんで魔族が三つ指ついてお出迎え? こわっ⋯⋯。殺します」
しかし、メビウスが「いらっしゃいませ」と挨拶をするよりも早く、脳天目掛け銃弾が放たれる。咄嗟に首を横に倒すことで直撃こそ回避したが、右耳を撃ち抜かれてしまい、焼けるような痛みが走る。
「⋯⋯はあああ!? 挨拶の途中で攻撃する馬鹿がどこにいますカ!? 常識ってもんを分からねぇんデスか!」
「いや、そんな不気味な仮面つけといて他人に常識説かないでください。気味が悪いので死んでくださいお願いします」
勿論、この新しい客人はザキである。ノータイムでさらに数発銃弾を撃つザキに対し、メビウスは結界魔術を展開することで防ごうとする。しかし、なぜか魔力の制御がうまくいかず、中途半端に構成された結界は呆気なく崩れさり、腹と足に銃弾を食らってしまう。
「ああああ!? 痛い痛い痛い! クソ、クソ、クソぉ! なんでこのワタシが人間にこんな痛めつけられなきゃならねぇんだ畜生!」
「⋯⋯人は死を感じた時、本性を表すといいます。どうやら、それがあなたの本性みたいですね」
ザキの言葉は、既にメビウスの耳には届いていなかった。自分を痛めつけた生意気な人間に対する殺意はあるが、理性はまだ捨てていない。本能で自分はこの人間に勝てないということを分かっていた。
故に、とったのは逃げの一手。魔術がうまく発動しない状態でも、1番得意な転移魔術ならば何とか発動出来る。
そうして、床に這いつくばりながらも何とか作った転移ようの穴に飛び込もうとしたメビウスだったが、その前に何かが立ち塞がる。視界いっぱいに広がる鮮やかな着物の色に、メビウスは自分がもう逃走すら許されないことを悟った。
「ここに至ってまた逃げるのか? 散々儂から逃げ回ってくれよって⋯⋯もう逃がしはせぬぞ。覚悟しておけ」
ギロリ、とご隠居に睨み付けられただけで、全身に鳥肌が立つ。思わず後ずさりすると、背後から銃声が聞こえ、今度はメビウスのお気に入りの仮面が粉々に破壊された。
人間の顔の皮を無理矢理剥ぎ、笑顔の表情を浮かべさせた仮面。しかし今、その仮面の下から現れたメビウスの素顔は、絶望に歪められ、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「あなたは⋯⋯確か、ご隠居でしたよね。もしかして、私の邪魔をするつもりですか? もしそうならば殺します。ごめんなさい」
「謝るならば殺すなどと物騒な言葉を使うでない。まあ、儂はそなたの邪魔をするつもりはないから安心することじゃ。ただ、こやつを殺す前に1つやって貰いたいことがある。この屋敷は無駄に広いからのう⋯⋯。おい、お主、儂らを仲間のところに転移させるのじゃ」
「お、お前達の仲間は今、アケディア様のところに居マス。今頃殺されているはずだから、行っても無駄ぁぁぁああ!?」
「五月蠅いですよ。黙って死ぬか従うか選んでください⋯⋯」
ザキは淡々とした口調でそう言うと、肩を撃ち抜いたばかりで煙のまだ上がる銃口を、メビウスへと突きつける。恐らく、次何か余計なことを喋った瞬間、自分は頭を撃ち抜かれて死んでしまう。そう感じるほど、ザキがメビウスを見る瞳には感情がなく、酷く冷たかった。
メビウスはあまりの恐怖に耐えきれず、アケディアの元へと通じる穴を開いてしまった。それを確認したザキは、躊躇無くメビウスの頭を撃ち抜く。メビウスは痛みを感じる暇も無く、即死した。あまりにも呆気ない最期である。
「お主、容赦ないのう⋯⋯」
「私を殺そうとする相手に、容赦する必要なんてないです。じゃないと、殺されるのはこっちの方ですから。⋯⋯私は死にたくない。絶対に、死ぬ訳にはいかないんです」
ギュッと、抱きしめるようにして自分の身体を抱えるザキ。彼女の過去に一体何があったのか⋯⋯。それはまだ、語られることはない。
「お主の言うことも一理ある、か。それでは⋯⋯仲間を救いに向かうとするか」
「はい、そうですね。⋯⋯私が死なないためにも、早く殺しましょう」
――こうして、遅れてやって来たご隠居とザキは、到着するや否や上空から落ちてきた隕石に多少驚きつつも、冷静な対処を施し、仲間の危機を救ったのであった。
次回こそ、アケディア戦の続き。決着までいくかどうかは、まだ未定です。




