『怠惰魔将』アケディア その1
昨日は投稿休んですいません! その代わり本日は2話更新しようと思います。
とりあえずは深夜に1話。次はおそらく夕方ごろの予定です。
「トムおじ、うちに合わせて! マジヤバ陰陽術、『悲炎』!」
「おう、合わせるぜ。成長しろ、俺の子供たち。『緑の手』!」
アケディアの姿を捉え、真っ先に動いたのはアベとトムだった。トムが床に手を置くと、そこから凄まじいスピードで植物が生え、その植物にアベが放った陰陽術が炎を纏わせる。普通炎に包まれたら植物はすぐ燃えそうなものだが、そのようなことはなく、むしろより太く強く成長した植物は、炎のツルとなってアケディアを拘束せんと迫る。
「ふわぁ~。いきなり触手プレイとか、勘弁してよねぇ」
しかし、ツルはアケディアが鬱陶しげに腕を一振りしただけで、あっという間に両断されて床に落ちてしまう。
「あたしが腕飛ばされたくらいでくたばると思うなよ、おらぁ!」
次に攻撃を仕掛けたのは、先程腕が弾け飛んだラブだ。治癒魔術を使ったのか、既に腕は元通りになっている。ツルの攻撃に紛れていつの間にかアケディアのすぐ近くへと迫っていたラブは、拳を振りかぶった。
「お触り厳禁で~す。ぼくに触ろうとしても無駄だよ、無駄」
アケディアはパジャマの袖から手を出し、人差し指をくいっと上に向ける。すると、まるでその動きに引っ張られるかのようにラブの身体は上空へと持ち上げられ、天井に打ちつけられた。
咄嗟に受け身はとったラブだったが、衝撃はかなり大きかったようで、口から血を吐いていた。そんなラブを一瞥したアケディアは、先程袖から出した手を開き、そしてすぐぎゅっと握りしめた。
すると、天井に打ちつけられていたラブの身体が、メキメキという嫌な音を立てて押しつぶされる。その様子はまるで、大きな手で握り潰されているかのようであった。
「はーい、これでまず1人~」
そんな残酷なことをしたにも関わらず、まるで教室で点呼をとる時のような軽い口調で死亡通告をするアケディア。しかし、次の瞬間、その眉が訝しげに歪められた。
「⋯⋯あたしがこれくらいで死ぬか、ボケぇ!」
「⋯⋯え~、めんどくさ」
見るからに全身の骨が折れていそうな状態だったにも関わらず、一瞬で元の姿へと治癒してみせたラブ。そんなラブを見てため息をつくアケディアは、心底怠そうな様子だ。
そして、この間ボクもただぼーっと突っ立っていたわけではない。手に入れたばかりの力、『検索』を使って、アケディアのあの謎の力の正体を探ろうとしていた。
しかし、これがなかなか難儀している。ナナホシとの戦いでスライム相手に使った時はすぐ欲しい情報が手に入ったが、アケディア相手だと情報量が多すぎて頭の整理が追いつかない。
そもそも、このサーチの力を使う際、相手の情報は目の前にパソコンのディスプレイのような感じで表示されるのだが、その全てが文字で表示されるので非常に見にくいのだ。もう少し慣れれば検索速度も上がるのだろうが、今はまだかなり時間がかかってしまう。
「よし、これだ!」
ようやくお目当ての情報にたどり着き、より詳しく見ようと画面に集中したその瞬間、今まではなかった文字が表示された。
『君、ぼくのことを見ているね? えっちだなぁ』
慌てて顔を上げると、アケディアがじとっとした目でこちらを睨み付けていた。しかも、その手が既に動かされている。
不味い、と思ったその直後、ボクの前に現れた大きな木が、あっという間に縦に真っ二つにされた。横を見ると、トムが床に手をついている。どうやらトムのおかげで助かったみたいだ。
そして、邪魔されながらも何とかアケディアのあの攻撃の謎は知ることが出来た。ボクは、その謎を大声で皆に知らせる。
「皆、アケディアの使う力は、夢属性の魔術⋯⋯基本属性に属さない、特殊な魔術です! アケディアはその力でボクたちに幻をみせ、攻撃しているんです!」
「⋯⋯やっぱり君、さっきぼくのことを見ていたね? そうだよ、その通り。ぼくが魅せるのは夢幻。でも、あまりにもリアルな幻は現実にもその影響を及ぼすんだ。人間の言う『プラシーボ効果』ってやつだね。だから⋯⋯こんなことだって出来る!」
アケディアがパンパンと手を叩く。すると、何もなかったはずの天井から、いきなり水が噴き出してきた。
その水が、先程真っ二つにされた木の残骸に落ちた瞬間、木がじゅうじゅうと音を立てて溶けていく。それだけで、その水がただの水ではないということが分かった。咄嗟に、トムが新たに生やしてくれた木の下に全員で避難する。
「どう? これも本当に酸の雨を降らせているわけではない。でも、これをもし、ほんのちょっぴりでも幻ではなく現実じゃないかと疑った瞬間、君たちの身体は酸で溶けることになる」
雨の音に紛れて、アケディアの声が聞こえてくる。実際、これが幻だと分かっているにも関わらず、葉っぱの隙間からこぼれ落ちた酸に触れた瞬間、焼けるような痛みを感じてしまった。あまりにもリアル過ぎて、幻だと思うことが出来ないのだ。
酸に触れたところはラブに治療して貰えたが、このままじゃアケディアに近づくことさえ出来ない。どうすればいいのかと思案していると、再びアケディアの声が聞こえてきた。
「ねえ⋯⋯君たち、もう降参したら? ぼくは、まだこのクッションの上から一歩も動いていないよ。いい加減無意味だってこと、分かってくれないかなぁ?」
「降参なんてマジあり得ないから! 水ならおんみょ~ん☆して何とか操れるはずだし⋯⋯! マジヤバ陰陽術その4、『傘場』!」
アベは、術を発動させて目の前に丸く大きな水の塊を生成する。まるでタピオカのような見た目をしたその水の塊は、旋回して上空へと向かい、水を弾く傘のような結界を貼った。
「思い込みが止められないなら、傘で防げるって思い込んじゃえばいいんでしょ? うちってマジじーにあす!」
「んあぁ⋯⋯。そういう防ぎ方もあるか。凄いね君、頭いいよ。でも⋯⋯この夢の中における絶対的な主は、このぼくなんだ」
そう言って、パチンと指を鳴らすアケディア。たったそれだけで、アベが作った傘の結界は綺麗さっぱりなくなってしまった。トムが産みだした木を消さないのは、完全に酸の雨を防ぎ切れてないことを分かっているせいか、それとも余裕の表れか。
とにかく、これでまた状況は元に戻ってしまった。依然として降り続ける雨のせいで、アケディアに近づくことすら出来ない。唯一可能性があるとすれば、治癒魔術を使えるラブだろうが、もし近づいても再び吹き飛ばされて終わりだろう。本人もそれが分かっているのか、ぐぬぬと悔しそうに唸りながらも近寄れないでいる。
それでも、ここに居る誰1人として、まだ諦めてはいない。トムはさっきから必死で葉っぱを生やし続けているし、アベも何とか出来ないかと頭を捻っている。ボクも、さっきからずっとサーチで突破口を探っているが、いい解決策が見つからない。
「⋯⋯しつこい」
そんな時だった。アケディアがぽつりと、そう一言呟いたのは。
「君たち人間は、ホントしつこいよね。勝てないって分かってて、なんで諦めないの? 死を受け入れた方が楽じゃん。そもそもまず、なんでぼくを倒そうとか思ったわけ?」
「は? 何当たり前のこと聞いてるんだい。アンタ達魔族のせいで人間が苦しめられているんだ。ここで諦められるはずはないし、魔王の直属の部下であるアンタを倒せば、その影響は大きい。何もおかしいことはないはずだよ」
ラブは、若干キレてる様子だった。本人の気質からしても、こういった幻とかを使ってくるタイプは苦手そうだし、その上このしつこい発言である。ボクも若干むっとしているから、気持ちはよく分かる。
「ふーん、そっかぁ。⋯⋯でも、やっぱり君たちのしていることは無駄だよね。だって、皆ここで死んじゃうんだからさぁ!!」
かっと大きく目を見開いたアケディアは、腕を大きく上に振り上げた。その動きにつられて上を見ると、なんとそこには巨大な隕石の幻が現れていた。
「もう会話するのも面倒くさいから、ちょっと本気を出して消えて貰うよ。⋯⋯じゃあね、君たち。おやすみ」
ぶんっと気怠げに腕を振り下ろすと、その動きに合わせ隕石はこちらに落下していく。とてもじゃないが、木では防ぐことは出来ないだろう。アベの術が間に合ったとしても消されるだろうし、ラブの治癒魔術でも隕石に押しつぶされたらどうなるか分からない。
そしてボクは⋯⋯こんな時に、何も出来ない。サーチはしてみたが、あの隕石に弱点らしい弱点などなかった。魔術でも防げないだろう。
ここで、死んでしまうのか? ⋯⋯いいや、まだ諦めるのは早い。諦めたり折れたりすることだけは、絶対にしない! まだ方法は何かあるはずだ!!
ボクは、真っ直ぐ逸らさずに迫り来る隕石を見つめる。絶対に助かる道はあるはずだと信じて。
そして、その時だった。視界の端から突然現れた2つの影が、隕石に向かい手を伸ばしたのは。
「これはこれは⋯⋯。なかなかにたいそうな『夢』じゃ。しかし、儂ならばその夢ごと喰ろうてやろう」
「な、何ですかこの隕石。私を殺そうとするんですか? 許せません死んでくださいごめんなさい⋯⋯!」
ザキが撃ち出した銃弾が隕石を粉々に砕き、ご隠居がその破片を全て手で飲み込む。一瞬にして、隕石は跡形もなく消えてしまった。
「「さあ、次は⋯⋯」」
「貴様の番じゃ」
「あなたの番です⋯⋯」
ザキとご隠居、2人は同時にアケディアの方へと手を向ける。ザキの手に握られるのは拳銃、ご隠居の手には大きな口が空いている。
そして、たった今起こったことが理解出来ないのか、アケディアはそんな2人を見て呆然とした様子で口をパクパクと開いたり閉じたりしていたのだった。
次回、VSアケディア戦その2。そしてその前に、メビウスさんも少し出てきますよ~。




