教えて、リズ先生!
陰陽師および陰陽五行説についてはこの小説なりに独自の解釈をいれている部分があります! それを踏まえた上で是非読んでくだされば嬉しいです。
「陰陽師とは、古代日本における魔術師のようなものですわ。そしてその力には、『陰陽五行説』というものが深く関わっておりますの」
眼鏡をかけ、先生モードとなったリズが語るのは、『陰陽五行説』という古代中国が発祥とされる説についてだ。
「陰陽五行説とは、『陰陽説』と『五行説』という二つの説を組み合わせて作られたものですわ。陰陽説とは、簡単に言えばプラスとマイナスの考え方。そして五行説とは、五行⋯⋯すなわち『木、火、土、金、水』の五つの属性のことですわ。この五行は、わたくしたち魔術師が扱う魔術の五つの基本属性とも深く結びついております」
「えっと⋯⋯『火、水、土、風、雷』でしたよね」
その基本属性の中でボクが最も得意とする適正魔術は、火の魔術。リズさんもまた、火の魔術が得意だと言っていたはずだ。まさか、こんなところで魔術に関係してくるとは思わず、ますます身を乗り出して話を聞く体勢になる。
「そうですわ。五行とは少し異なるところはありますが、木は風と、金は雷とそれぞれ対応していると考えていただければよいです。そして、この陰陽五行説というものは、魔術だけではなく、日本のとある風習にも関わっております」
リズは、キュキュッと音を立てながら、マーカーでホワイトボードに文字を書いていく。そこに書かれたのは、『甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸』というどこかで見たことがあるような漢字だった。
「この漢字は、それぞれ音読みで『こう、おつ、へい、てい、ぼ、き、こう、しん、じん、き』と読みますわ。ただ、日本人ならば音読みよりは、訓読みの『きのえ、きのと、ひのえ、ひのと、つちのえ、つちのと、かのえ、かのと、みずのえ、みずのと』の方が聞き覚えがあるのではありません?」
「あ、なんか聞き覚えあります!」
「あーりがとう、かなーしみよ~!!」
「え、ドク、急に歌いだしてどうしたのだ?」
「なんとなく♡」
「それぞれ語尾に『え』と『と』がついているでしょう? これは、『え』が陽、『と』が陰を表します。この『え』と『と』を組み合わせると、『えと』となりますね。あの十二支の別称と同じです。実際十二支にも五行は配されておりまして、春は木、夏は火、秋が金、冬は水というように五行は季節にも対応しております」
「おい、ちょっと待てよリズ。それだと土がどこにもないじゃねぇか」
「ふふ、いいところに気づきましたわね、ラブ。土は四季それぞれの最後の約18日、『土用』に対応しているんです。『土用の丑の日』⋯⋯といえば、聞いたことがあるのではないでしょうか」
リズがホワイトボードに『土用』と書いたことで、ボクは初めて『土曜の丑の日』と思っていた認識が間違っていたことを知った。というか、こういった知識は普通に残っているのが結構謎だ。ボクの記憶喪失ってなんか普通の記憶喪失とかなり違う気がする。
「吾輩も丑の日知ってるのだ! ウナギが食べられる日なのだ!」
「まあ、とっくの昔にウナギは絶滅しちゃったから、今食べられるのって異世界産のウナギもどきだけれどね。おっさんは昔のウナギの方が好きだったなぁ」
「そこ、ウナギの話で盛り上がらない! 丑の日の話はあくまでもおまけ。本題は陰陽師と陰陽五行説ですわ。⋯⋯まあ、とりあえず先程までの説明で基本的なところは分かってもらえたとは思います。そして、現代に生きる陰陽師⋯⋯『アベ』ちゃんは、そんな陰陽五行説に基づいた力を行使しながら、古来より日本に生息していた魔に属する生物たち、『妖怪』をまとめあげた凄いお方ですわ」
『妖怪』⋯⋯あんまり詳しくはないけれど、聞いたことはある。ぬらりひょんとかぬりかべとか、そういう変わった生き物? みたいな奴だ。まさか実在していたとは思わなかったけれど、今は異世界からやってきた魔族がはびこる時代だ。妖怪がいても今更そこまで驚きはない。
「魔族が外来種ならば、妖怪は在来種。妖怪にとっても、魔族は敵視すべき存在。妖怪も人間に好意を抱いている存在だけではなかったみたいだが、そこは敵の敵は味方⋯⋯ということで協力を取り寄せたようだ」
「あらボス、いじけタイムは終わりましたの?」
「ああ、流石に30過ぎの女がいつまでも拗ねていてはみっともないからな。えー、皆。リズの説明で陰陽師と妖怪についてはだいたい分かったと思う。私たちは、そんな彼らと協力するため東北へ向かうわけだが⋯⋯今回、一部のメンバーにはアジトに残ってほしいと思っている。アジトに残るのは、リズとラビ、そしてドクだ」
「ラビは死なれたら不味いから待機なのはわかるけれど、リズとドクちゃんも待機組なの? その理由は?」
「リズとドクには、別に任せたい仕事がある。その仕事については、後で話すことにする」
「ふーん、まあ、それならいいけれどさ。ドクちゃんもアベちゃんとやらに会いたかったな~」
ドクとボスが話しているのを聞きながら、ボクは全く別のことを考えていた。先程名前を呼ばれた待機組の中に、ボクの名前はなかった。ということはつまり⋯⋯ボクは、他の名前を呼ばれなかったメンバーと東北に行くということだ。
ラブにザキ、そしてトムさん。よりによってまだ関りが薄い人たちと一緒になってしまった。特にザキに関しては一緒に行動するのがかなり不安だ。
『怠惰魔将』に、陰陽師の『アベ』と妖怪。そしてまだ関りが薄い組織の仲間たち。不安もあるが、未知なる出会いと場所にドキドキしている自分もいる。
さあやるぞ! れっつごー東北! れっつごー陰陽師!!
〇〇〇〇
東北のとある場所に建てられた、巨大な建物。その最奥に、『怠惰魔将』アケディアはいた。
シマシマ模様のパジャマをまとい、クッションの上でだらりと寝そべるその姿は、とてもじゃないが魔王直属の幹部の1人とは思えない。容姿はかなり整ってはいるが、サキュバスの長にしては色気をあまり感じさせない幼児体系だ。ぴょこんとはねているアホ毛がかわいらしい。
「アケディア様! ご報告があります。どうやら山奥にて謎の動きを見せていた日本古来の魔族たちが集結し、力を集めている模様。こちらへと攻めてくるのも時間の問題かと⋯⋯」
部下からの報告を受け、アケディアが閉じていた目を開く。ふわ~っとあくびをして眠たげに目をこすったアケディアは、部下のことなどお構いなしに再び寝始めようとしていた。
「アケディア様、二度寝せずに話を聞いてください! あの者どもの力が掴めない今、何らかの対策を取っておかねば大変なことに⋯⋯」
「⋯⋯ねえ、それってぼくの眠りを妨げてまで伝えなきゃいけないことなの?」
「も、申し訳ありません。で、ですがこれは重要な報告で⋯⋯ぐはぁ!?」
しかし、部下はそこまで述べたところで急に喉をかきむしり苦しみ始めた。そして、困惑と恐怖に目を見開いたまま、絶命した。
「ぼくの眠りを妨げる者は、誰だろうと許さない⋯⋯! それが、味方でも敵でもね。あーあ、どうせ攻めてくるなら早く攻めてこないかなぁ。そしたら一気に殺せてめんどくさくなくなるのに」
『怠惰魔将』アケディア、その見た目で侮ることなかれ。彼女は真に、『大罪七将』と呼ばれるにふさわしい実力を秘めているのだ。
次回、いざゆかんみちのく!




