第28話 不穏なパジャマパーティー
「そのようなことが可能なのですか!?」
驚愕に目を見開くスレインとミラの視線が突き刺さる。
それはまさしく非現実的な提案に他ならない。
「だが、この方法を使えば仮に謀反が成功し、スレイン、君が女王になったとしても、それを国民が支持するとは限らない。そして以降も君は自分が王として相応しいのだと証明し続けなければならない。それが出来るか?」
その覚悟があるのかどうか、スレインの目をクレイスはジッと覗き込むが、それと同時にあまりに無意味な質問であることに気づく。スレイン、そしてミラ。この国を変革しようとしている2人に今更その覚悟を正すなど、自分は何様になったつもりなのか。そんなもの、とうに決まっているはずではないか。
考え抜いて、苦しみぬいて至った2人の少女の決断に、自分が偉そうに口を挟むなどと傲慢でしかない。いつの間にか増長していたのは自分だと、クレイスは密かに苦笑していた。
「わたくしは王になりたいわけではありません。それしか選択肢がないのだと思っていただけなのです。ですが、もしそのようなことが可能なのだとすれば、クレイス様、もうこの国に王はいらないのかもしれません。ミラ、貴女がなってみる女王に?」
「スレイン、私がそんな柄ではないことを貴女が一番良く知っているでしょう」
「夫はクレイス様かもしれませんよ」
「なるなる!」
「ちょいちょい性格変わるよな」
「ミラは結婚願望が強いので」
そういう問題ではないと思うが、結婚はともかくクレイスは告げる。
実は【聖女】全員がやたらと結婚願望が強いことを、このときクレイスはまだ知るはずもない。
「言っておくけど、これ以上の干渉をするつもりはない。あくまでも君達がやらなければ価値がないことだ。仮に失敗して君達が磔にされ処刑されても俺は助けない。精々、あーあって思うだけだ」
「それでも構いません。もともと巻き込んだのはわたくし達なのですから」
スレインの瞳は確たる決意に満ち溢れていた。
「君の子供が王に就くことも出来ないかもしれない。それでもいいのか?」
「その子が器ではないだけです。ダーストンという呪いから脱却せねばなりません。政治体制の変革こそ、今この国に求められていること。他に相応しい方がいるのなら、その方が指導者になればいい」
ミラにも問いかける。
「ミラ、君はそれで良いのか?」
「クレイス様に心よりの感謝を――」
「ハッキリ言って、俺は君達の計画が成功しようが失敗しようが正直どうでもいいと思っている。この国の行く末を無関係な俺が決定して良いはずがないからな。俺がやるのは敵対してきた奴にお仕置きするだけだ」
「分かっています。後はこの国に住む私達の問題です」
「2日だけ待つ。君達には協力者がいるんだろう? 根回しでもなんでもするといい。2日後に俺は王宮に行ってやりたいようにやる。タイムリミットはそこまでだ。その後どうするかは君達次第だな」
話を打ち切る。もう良い時間だった。
2人にとっては、運命を決定付ける2日間となるはずだ。
慌ただしく、張り詰めた緊張の中、それでも彼女達は未来の希望に向けて歩み続けるのだろう。
だが、クレイスには関係ない。
(俺は停滞しているのか……?)
クレイスには2人の姿が眩しく映っていた。
強固な意志、確たる信念。少女達の中には、それがある。
――ならば、自分は?
あの日から、自分の人生は復讐に支配されている。生きる目的がそれだけしかない。そして、その復讐が終われば、自分にはきっと何も残らない。大切だった幼馴染を失い、目的を失い、それから先、自分がどう生きれば良いのか分からない。
結局こうしてスレインやミラ達に力を貸そうとしているのも、誰かに必要とされたかっただけなのかもしれない。しかし、それはクレイスが必要とされたわけではない。価値があるのはギフトであってクレイス自身に価値はない。
堂々巡りに陥る思考を振り払う。
「なら、話は終わりだ。何処か泊まれる場所はあるか?」
「クレイス様、わたくしの家にお泊りください。王宮ではないので、小さな家ですが」
「構わないさ」
出ていこうとしたところで、ミラが背中越しに声を掛けてきた。
「あの……クレイス様。最後に一つだけお尋ねしてよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
ミラは若干口ごもると、初めて年相応な少女らしい表情を見せた。
「いつか……私にも【聖女】以外の道があると思いますか……?」
「そうだな……君がそれを望むのなら、そんな未来もあるかもしれない」
「――ありがとうございます」
ミラの真意はなんだったのか。
何故、そのようなことを言い出したのか。
ただ、それを聞くつもりはクレイスにはなかった。




