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第15話 相容れぬ者達

「置き去りにしたってどういうことなのロンド!? 貴方はクレイスを――」


 ヒノカがロンドに詰め寄る。

 クレイスにはその姿が白々しい演技に見えてならなかった。


「君も同じだヒノカ。君の所為で俺は魔物から追われることになり、そしてロンド、お前が魔物を呼び寄せ俺を斬り捨てた。2人で俺を嵌めたんだろ?」


 全ては結果論に過ぎない。

 そして結果として、クレイスはあの場所で殺されかけた。

 生きていたのは偶然だ。その事実は覆らない。


 ヒノカは真っ青になった唇を噛みしめている。


 クレイスは、ヒノカ、ロンド、そしてギルド内を順番に見回す。


「ハッキリ分かったよ。俺には仲間は必要ない。俺を殺そうとした、お前達は俺の敵だ」


 ヒノカが何かを言おうと口を開きかけるが、意味のある言葉にならない。

 ロンドと共謀し、裏切り、殺そうとし、今更になって心配していたかのように振舞うかつての幼馴染の姿は、あまりにも浅ましくクレイスを苛立たせるものだった。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、そんなクレイスの気配を感じとっているからこそ、変わり果てたクレイスに対して、ヒノカは何を言えば良いのか言葉を紡ぐことが出来なくなっていた。


 ギルドマスターのローレンスが割り込んでくる。


「ク、クレイス。君が無事に帰ってきたことは嬉しく思っている。しかし、君の言っていることは本当なのか? 私にはSランクパーティーの【エインヘリアル】がそんなことをするとは到底信じられない」


 ローレンスの目にはありありと猜疑心が浮かんでいた。

 ロンドが加勢してくる。


「そ、そうだ。だいたいお前、脚や全身を斬られたって言ったな。じゃあ、お前は何故、今そこに無傷で立っている? クレイスが嘘をついている証拠だ!」

「ロンド、お前が一番それを知りたいんじゃないか?」


 ロンドは動揺を隠しきれない。


「なにを……」

「どうした、何を怯えている? 威勢よく俺を嘲笑していたお前は何処にいった?」

「お前……本当にクレイス……なのか?」


 目の前の人物が本当に自分の知るクレイスなのか、ロンドは不安を憶えていた。あまりにもこれまでのクレイスとはその雰囲気も、醸し出す空気も異質に変容している。


 変わらざるを得なかった。変わらなけば何も得られなかった。

 変わらずに手にしたのは、誰かに奪われ、裏切られるだけの日々だった。

 

「クレイス、君の怒りは分かる。もし仮に本当にそんなことがあったのなら【エインヘリアル】への処分も検討しよう。君には相応の金額も渡す。それで手打ちにしないか?」


 ローレンスの提案は、あまりにも保身に偏っていた。

 必死に頭の中でこの事態をどう抑えようか計算しているのだろう。


「それで俺が納得すると思うのか?」

「君が納得しようがしまいが関係ないんだクレイス。私達は一度手を差し伸べた。君がその手を取らないのならこちらにも考えがある。君と違って他のメンバーは選ばれし存在だ。足を引っ張っているのはクレイス、君であることを自覚した方が良い」


 ギフトギフトギフトギフトギフト。

 馬鹿馬鹿しい。こいつらはそれでしか人の価値を計れない。


「なるほど確かに【勇者】と【剣聖】。それに比べて俺には何の価値もない」

「正直に言えばその通りだ。君と他のメンバーは違うんだ」

「お前らの言うギフトとやらは素晴らしい限りだな」


 ローレンスはこちらの真意を測るように、視線を往復させる。

 

「どうした目が泳いでいるぞローレンス?」

「Sランクパーティーの【エインヘリアル】は君がいなくても成り立つんだ。分からないか? ギルドとして、この地域の安定と平和に寄与するものとして、Sランクパーティーを失うわけにはいかないんだよ!」


 イライラしてきたのかローレンスが頭を掻きむしる。


「そもそもだ。本当にタイラントウルフの群れに置き去りにされたのなら、何故君は生きている? タイラントウルフの群れという報告自体が虚偽だとすれば重大な責任問題だぞ?」

「それを報告したのは俺じゃない」

「い、いや! 間違いない。確かにアレはタイラントウルフだった」


 慌ててロンドが釈明するが、クレイスを目の前にした今、声に余裕がない。


「同じことを何度も言わせるな! だったら何故お前は生きているクレイス? お前に切り抜けられるはずがないだろ! お前がそのまま死んでおけばこんなややこしいことには――――」


 それが失言だと気づいたときには遅かった。

 ローレンスが慌てて口を閉じるが、一度吐いた言葉は飲み込めない。


 マイナが冷たい目を声を掛ける。


「ギルドマスター、あなたは今ギルドを預かる者として言ってはいけない言葉を口にしました。クレイスさんに謝罪してください」


 ローレンスは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「確かに言い過ぎた。だが、ギルドとしての決定は変わらない」


 クレイスはおもむろに襟元に付けていたSランクパーティーの証であるプラチナバッジを投げ捨てた。カランと、乾いた音を立てて壁に当たったバッジが跳ね返り床に落ちる。


 ギルド内の全員が唖然とした表情でクレイスを見つめていた。


「ローレンス、ありがとう。一つ分かったことがある」

「な、なにをだ……」

「お前達も敵だと言うことだ」


 咄嗟にマイナがプラチナバッジを拾い慌てて駆け寄ってくる。


「クレイスさん、お怒りはご尤もですが冷静になってください! あなたもSランクパーティーの一員なんですよ!」

「どのみち辞めるつもりだったんだ。俺には必要ない」

「ですが、これは貴方が努力してきた証のはずじゃないですか!」

 

 そう。クレイスが必死になってSランクパーティーを目指したのは、ヒノカの隣に立ちたかったからだ。なりふり構わずその地位を求めた。その為にあらゆる努力をしてきた。


 だからこそ、裏切りが許せなかった。


「俺がその努力で欲しいと願った、たった一つのモノは砕け散った。もう元には戻らないんだよ」




「――――俺はもう、誰も信じない」




 果たして、それは誰に告げた言葉だったのか。

 ヒノカなのか、ロンドなのか、ギルドにいる誰かなのか。

 

 誰でもない、自分への言葉を戒めに、胸中で決別を告げる。


 くるりと身を翻して、クレイスは出口へと向かう。

 失ってしまったものは、あまりにも大きすぎだ。


「そうだ。土産だ。こいつを貰ってくれ」


 そう言うと、クレイスは時空鞄を取り出し、その中に入っていたタイラントウルフの死体をギルド内に投げ捨てた。その体躯に机と椅子が散乱するが、誰もがその突然の暴挙に言葉を発せずにいる。


「入りきらないみたいだな。入口の前にも積んでおくから自由に使ってくれ」


 それだけを伝えて、クレイスは改めてギルドを後にした。

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