第二話(第十九話)
殺されたハレ・ラ・ウェルスの遺体には、またしても刻印が一画も残されていなかった。カナミはそれを早々に、また義母の一人(前回とは別の)に出向いてもらって確認した。
ハレはこの儀式の危険性を怖れ、最も早くにナルザに刻印を譲渡していた。聡い子だ。最年少ながらその決断の早さは賢明だった。――そのはずだった。
譲渡できるのは二画持っている場合なら一画のみ。必ず一画は手元に残る。そしてその最後の一画を奪う方法はおそらく「持ち主を殺す」こと。サリャに引き続きハレの遺体にも刻印が一画も残されていなかった上に、そもそも一画しか持たないハレを襲ったということがその仮説をさらに裏付けた。でなければ、わざわざ襲う理由がない。
そして今回も凶器はおそらく氷で作った槍のような刺突物。心臓のあたりを後ろから一突きに穿たれていたそうだ。確定とは言えないが、やはりサリャの一件で殺せば刻印を全て奪えることを確認した誰かが、次に一番殺しやすそうなハレを殺害したと考えるのが自然だ。
ハレは夕餉の頃合いに姿が見えず家の者が探しまわったところ、深夜になってようやく屋敷から少し離れた場所で遺体で発見されたらしい。
もうちょっと詳しく状況等を調べたかったが、そんな猶予はなかった。
――直近の最大の問題は今日の弔式だ。
サリャが殺されてから今まで、おそらく幾人もが一度全員で集まる必要性を感じながらも提案することを避けてきただろう。だが、今回はそうは行かない。この弔式には刻印を貰った全員が強制出席するようなものだ。
サリャ、及びハレを殺害した者にはその分の刻印が、合わせて八画が手に刻まれているはずだ。全員をその場で集め、刻印のある手を出させれば誰がやったか一発で判る。
――その状況を犯人はどう回避するのか。一人だけその場から逃げてしまうと消去法でばれてしまう。何か仕組んでくるとすれば、複数の刻印持ちが同時に集まれない状況を作る、もしくはいっそ式自体を台無しにする。それぐらいしかカナミには想像がつかなかった。
――さぁ、どう出る。
カナミには人の心を「気取る」という能力がある。具体的に何を考えているかまでは分からずとも、「何か企んでいる」という人間がいれば漠然と分かってしまう。
今日の弔式では高確率で事態が動くはずだ。どう転ぶのかは皆目検討もつかないが、ともかく自身の安全を最優先にしなければ。
――私はこんなところで退場するわけにはいかない。