第一話(第十八話)
翌朝――儀式開始から七日目の朝――里中を三つの報が駆け巡った。
一つはハレ・ラ・ウェルスの不慮の死。関係者にのみ、再び氷を凶器にしたと思われる刺殺体で発見されたことが伝えられた。一部の者は一画残っていたはずの譲渡不可の刻印が再び無くなっていたことを確認した。
二つ目の報はアル家当主にて現首長――アルトとハルキの二人の実父――ハルト・ウィア・アルの死去。儀式が始まった時点で既に死期を悟っていたので時間の問題だったが、遂に迎えが参られた。
三つ目は昨日のエリンとレミへの謎の人物の襲撃。これは儀式に関係する各家にのみ伝えられた。
「姐さん、もう準備しないとまずいですよ」
「あぁ……」
上の空な様子でカルナは生返事をする。
――ハレが死んだ。
特によくも知らないガキンチョがどうなっても知ったこっちゃない。でも、まだ齢十二で、あの中でも最年少のガキだった。あたしみたいな行き遅れではなく、まだまだ十分に未来がある少女が殺された。
カルナたちは今日これからアル家当主ハルト・ウィア・アルの弔式に向かう。
弔式はこの里の風習で、死者に別れを告げるための最後の機会として設けられる弔いの場。その後、身内のみで葬式が行われ、火葬され灰となり山に還される。
普通、弔式は身内以外で最後の別れを告げたい縁のある者だけが出向くものだが、仮にも里の長ともあればそうはいかない。慣例としては、全ての家の家長とその正妻及びその長男に加え、まだ家に残っている娘の中で最年長の女子の合わせて四人が弔問する。
今回の儀式の参加者は全員が未婚の長女。つまり初日以来、一週間ぶりに刻印を授けられた全員が顔を合わせることになる。まだ若かった二人を除いて。
(行きたくねーな……)
あの日、呼び出され集められたのは十二人。死んだサリャ、ハレを除いて十人、自分を引いて九人、セラも抜いたとしても八人。あの八人の中にガキを二人も殺せる奴がいる。そんな場にはとてもじゃないが行きたくない。
(あぁ、そうだ、エリンとレミも襲われたから違うのか?)
……細かいことはなんでもいい、とにかく気が重い、気分が悪い。
「――姐さん、怖いですか?」
(怖い……? これって怖いってことなのか? よくわからん)
「知らん、とりあえず気が乗らねぇ」
「そういう訳にもいきませんよ、ほら着替えて着替えて。着物はちょっと手間がかかるんですから」
着物なんていつ以来だ。さすがに首長の弔式なんて場には正装して行かなきゃならんらしい。面倒くさい。
セラの言うがままいいようにされ、気づけば着付けは終わっていた。
「さぁ、いつまでも暗い顔してないで行きますよ!」
「……なぁ、セラ、やっぱりアンタいつまでもあたしと一緒にいても……」
そこまで言いかけたところで人差し指を唇に当てられ、言葉を遮られた。ちょっと前にも同じことがあった気がする。
「それはもう言っちゃ駄目ですよ? ちゃんと答えたんですから」
「……悪い」
「あれ、姐さんが謝ってくれるなんて珍しい」
「うっせー」
(――ほんと、どっちが姐さんなんだか)
セラは全員が集まる以上、その場では犯人も動きようがなく、昨日のエリンとレミのように襲撃されることはないだろうと言う。その理屈は分かる。
だが、それも逆に不気味な話だ。
二人殺して、さらに二人殺そうとした奴が平気な顔をして混じっているわけだ。
――胸糞悪い。