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第二話(第十六話)
(ちっ、一人かと思ったのにもう一人潜んでやがったか)
秋色に移ろい始めた樹々に覆われた山肌は既に宵闇に沈もうとしていた。だが黒衣の者はそんなことは気にも留めず、するすると樹々の間を縫うように歩いて行く。
(まぁ、雷術の実験はとりあえずできた。これは光と扱いが似ているから馴染みやすい。実戦でもすぐに十分に扱えるだろう)
――しかし、本当に……この刻印の力は素晴らしい。
今まで無用の長物だった「この能力」をここまで強大な力に変えてしまった。もはや無敵といってもいいんじゃないか?
――これがあればきっと願いは叶う。叶えられる。
この願いを抱いたのはいつからだったろう。気づけば心の奥底から、いや、魂の深淵からその願いは燻り、渇望していた。
(さて、次は意外と難しい凍術を実験してみるか)
闇に堕ちた山林の道なき道を進みながら、かの者はその左手に刻まれた六画の刻印に触れ、仮面の下にニヤリと不気味な笑みを浮かべ、呟いた。
「――オレは全てをぶち壊す」