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 あまりにも研究に進展がなかったので思わず愚痴を書き連ねてしまった。

 お詫びに面白い話を一つさせていただこうかと思う。


 魔術を学園で専門的な知識として履修されていた方は言うまでもないと思うが、正しく学習を行った者には「呼称」という魔法に関わる名前を自身につけ、それによって魔法の能力の方向性を強める事ができ、さらなる向上を目指す事はご存知だと思われる。

 私の学友達には「焔の魔術を推し進める者」という呼称を持って冒険魔法使いとして世界を旅する者や「水を持って友を守る魔術師」という呼称で水の魔術結界を活用して国を守る職についたり、変わった呼称としては「心の魔法を混ぜる者」という一聞してよくわからない呼称で料理と魔法を融合させた料理研究家になった者もいる。

 ちなみに、友達がいるこ事については驚くポイントではない内容であるを念押しておく。念を押しておく。

 ここで気にして欲しいのは『不可能な内容を呼称として設定しない』という点。

 例えば先程の例だと「焔の魔術を推し進める者」を「焔の頂点の魔術師」とした場合、同じ呼称を設定した者との頂点を決める為の争いが発生する。その場合は、自動的に頂点でない方の呼称がついている者は世界の矛盾を解決する為に存在自体が消滅する事が過去の記録に残っているのだ。

 私の呼称なのだが、決定する時にとても時間がかかってしまった。

 周りの学友と比較して成績としては特別劣等生という訳でもなく、そして何かに特別秀でているという訳でもない。

 当時はその事にとても劣等感を感じており、また努力しても特に芽が出る事のない自分の才能を呪ったりした。

 そこで将来の進みたい職もこれと言ってある訳でもなかった私は、戒めの意味も込めて呼称を決めた。

「魔術師の平均を征く者」

 本当に私への戒めだけだった。

 ただ、先程の例に挙げていた内容をよく考えていれば、こんな名前はつけるべきではなかった。

 魔術師の呼称は自身に影響を与えるが、自身だけではなく同時に世界にも影響を与える。そのために順位を記載するような呼称は学園では禁止されている。

 先程の「焔の頂点の魔術師」を名乗った場合、想定される現象として「事実ではない場合、呼称した者が世界から消滅する」か「事実にするため呼称した者よりも有能な焔を操る魔術師を消滅する」か「帳尻を合わせるために呼称した者以外の焔に関する魔法が使用できなくなる」などの可能性が考えられる。呼称とはそれだけ影響力が強いものなのだ。

 さて、それだけ影響力が強い事を考慮した上で、もう一度私の呼称を見ていただきたい。

「魔術師の平均を征く者」

 この呼称で何が起きたのか。色々考えられる結果があると思うが、実際に起きた現象としては

『私の魔術としての能力を全世界の魔術師の平均となるように他の魔術師の上限が設定された』

 という現象だった。当時専門家でもないただの学徒だった私の能力を平均値としてだ。

 全世界では学び始めた魔術師もいただろうし、特別な魔術を使う専門家もいただろう。そういった魔術師を名乗る全ての者を合わせて平均をし、その力が私という平均値を逸脱する場合、上位の魔術師の能力の一部分が消失する事で、世界は私の呼称を正しいものへとしたのだ。

 一部の高度魔術が使えなくなった事にも申し訳ないと思うが、一番申し訳なかったのが、私が全く学んでいなかった分野の魔法については全世界の魔法使いが全く使用できなくなった事だ。マイナスのない能力値の中でゼロを平均で割り出すためには全てをゼロにするかない。

 当時は魔術師の中で衝撃が走った。有名な実力のある魔術師が急に高度な魔法を使えなくなったのだから当然の結果ともいえるが。

 勿論原因については早々に特定された。呼称の決定については例で挙げたような事件が起きないように当時の教育担当者と相談し決めるもので、呼称を決定したあとは魔術師の組合に登録する必要があるので、特定されるのは当然である。

 とはいえ、そのような事件が起きているという話は風の噂で聞いていたが、原因が私の呼称であったとは指摘されるまで気づかなかった。

 相談していた教育担当者も気づいていおらず先生は始めは「そんな呼称を選んだら将来進む道ができても望むような成果が残せない可能性がある」という事をただただ心配していた。

 私を指摘する書状を読み上げる時に見せた青ざめた顔を今も記憶に残っている。

 その書状で魔術師の集まりであった組合に呼び出された私は、今後の方針についての話し合いの席に出席させられた。当時学生であった私は実質話を聞いているだけで、呼びだされた主な理由は今回の事件の原因が本当に私の呼称にあったのかの実験だったのだろう。

 合間合間に私の学習していない魔術の基礎レクチャーや高度魔術の教育を受ける事で私の魔術師として経験値が世界に反映されるのかを確認していた。

 その実験は「呼称の影響は間違いない」という結果が強化されるだけだった。


 私の処遇についても色々が意見が飛び出た。

「殺して平均値の存在をなくせ」という意見に「死んだ場合、呼称の効果がなくなるのか、亡くなった時点の能力値が平均値としてとどまるのか不明」といった反論や「無理にでも全ての魔術に関する知識や実践を叩き込む事で魔術師全体の向上が見られるのでは?」という意見に「無理をさせて精神が壊れ、結果魔術が使えなくなったら魔術というものがこの世から消えてしまう」という反論など色々な方面から可能性が検討された。

 しかし、これといった決定的なものが出ず、最終的にこのような裁決となった。

『色々な魔術の研究を行い、自身の能力を全体的に上げるように努力する。それが全世界の魔術師への貢献となる』

 進路を未だに決めきれていなかった私が呼称を決めた結果、魔術研究師の道に進む事になったという訳である。

 ……長々と書いてしまったが、この話ははたして面白かったのだろうか。


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