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ベッドの上で軽くストレッチをしてから、朝食の準備に取り掛かる。
とはいえ私はそこまで起き抜けに食べるタイプではないので、朝食は簡素に作り置きのパンと紅茶だけだ。
来客がなく街にも出かけない私がどうしてパンを? と疑問に思われた方もいるだろう。
というか、いてほしい。ここから少し時間をかけてこの手作りパンを自慢したいのだから。
勿論、私がパンを作る職についていた訳ではない。そしてパンを作ためのレシピは簡単に知識としてあったとしても、オーブントースターなどの作るための機材がある訳ではない。
だからといって、昔食べていたパンの味が忘れられないため、時々無性に食べたくなってしまう。困った性分だ。
そんな時に便利に使いたいものが魔法だ。
何もない所からパンを無限に生み出すという、そんな奇跡じみた魔法は勿論存在しない。
物を生み出す為の魔法とは、基本的に2系統となる。
「今ある物を分解して目的の物を取り出す」
「材料を用いて自然現象を発生させて目標となるものを作り出す」
分類としては錬金魔術というもので、私の研究目標の「生活を少し豊かにする」には欠かせない魔法だ。
今回は材料から作り上げる方法になるが、魔法を作り出す際に調べるべき事は「パンを作る方法」と「どのような自然現象で結果を作り出せるのか」になる。
特に後者についてその自然現象の再現度が高いほど、完成品は実際のパンに近くなる。
仮にパンの作成を『食材となる小麦等をこねてから寝かせる事で酵母による発酵を促す』を繰り返し、出来上がった生地を焼き上げる。という工程とする。
本職の方から見れば「パン作りはそれだけではない」とお怒りになると思うが、これ以上の詳しい手順はここでは割愛させていただく。
そこで、生地をこねる部分は風と重力の魔法による拡販と結合、あと少しの温度上昇により手でこねる感覚を再現する。
発酵について専門的な知識がないため再現する方法がわからず生地の中に小さな炭酸ガスをいくつも作り生地を膨らませる方法でひとまずはクリアできた。
あとはこれを熱で焼き上げるとパンに似た物ができた。という訳だ。
ただし、完成品は一言で表せば『甘みが少なく食感が悪いパンのようなもの』という品物だった。
「似た」ものはできるが、完全に再現はできないのも魔法の難しい所。自然現象を魔法で完全に再現すれば全く同一のものが完成するのだが、その場合はコストがかかりすぎて結局「魔法を使わず普通に作れば良いじゃない」という悲しい結論になるのだ。
過去にすでに作られた物を真似る場合には、差別化を図らないと行けない。
私の魔術によるパンと通常のパンを比較すると、味など完成度は落ちるが「発酵などの過程を行わず作るため、作成時間が短く知識がなくても材料を入れて魔法を発動させるだけというお手軽仕様」という差別化を行ったといえる。
つまりこれは家庭での使用を目的としてるもので、これを使ってパン屋など商売を行う事には向いていない物だ。
そんな手作り・・・もとい魔法作りパンを口にしながら本日の予定を考える事が朝の日課となっている。
予定といっても
「昨日は食料の補充の為の山菜取りをしたから、今日は魔法の研究の続きかな?」
というざっくりとした指針のみだ。期限が決められたものがないため、私がしなければならない事を私ができるだけ行う。
何も考えずに、ただしたい事をするだけで良いのであれば気が楽なのだが……。そのあたりについては別の機会にでも語りたいと考えている。
今はこの温かい陽を浴びて食べる少し味の落ちるパンを堪能させていただきたいと思う。