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私の生活に時計というものはない。昔は置いていた気もするが、それが不要なものと気付いたのは、交流がなくなって約束する事が無くなってからだったろうか。
時計とは他者との共通認識をつくるためツールにすぎないという事をこの生活を始めて実感した。
ただ、私にも『時刻』を認識する必要はないが『時間』を確認する必要はあり、そのための機器は置いている。
といっても魔術を研究する時に錬成時間を図るための砂時計ぐらいになるが。
……はい、そこ「ボッチの寂しいハブかれ魔法使い」とか思わない!
私も気にしなように生きているのだから……
さて、話を戻して。
時計を持っていなので、何時に起きているか。という疑問には答えられない。
起きたい時に起きる。それが太陽が登って真上にきていようが、まだ登る前だろうが関係はない。
ただ最近は朝になると「チチチッ」という鳴き声を響かせながら青い小鳥の夫婦がベッドの横にある窓の縁に羽休めにやってくる。
雨の日にはもう少し多い小鳥が雨宿りに来るが、この夫婦だけはほぼ毎日だ。
今日もそんな小鳥の鳴き声を聞きながら目を覚ました。窓は雨などの天気が悪い時以外は閉じていないが、この夫婦は窓枠を宿り木にし二匹ともこちらを呼びかけるように鳴いている。
「おはよう。今日もいい天気なんだね」
欠伸をしつつ声をかけ、ベッドの脇に用意していた小皿からひとつまみ、砕いた豆を窓枠に置いた。
これが餌付けとなってこの夫婦は毎日顔を出してくれるのだと思うが、お客様は大歓迎だ。私はそこにいないと思われるが、勿論これを読んでいる貴方も来客として歓迎しているよ。
ちなみに森の中で窓を開けっ放しで過ごしていて虫や獣の侵入は大丈夫か心配される方もいるかもしれない。
それは私の開発した魔法陣「特定生物侵入禁止陣」を家の窓など風の通り道に設置してている。
魔法陣の名称がそのまますぎるが、研究ではわかりやすさが必要なので気にしないでほしい。決して私のネームングセンスを疑わないでほしい。
元々「この場所に立ち寄りたくない」と無意識に思わせる簡易結界魔法はあるのだが、そこから応用し魔術回路の効率化と小型化を追求した結果「登録した特定の生物全体のみ空間の認識をさせない」という限定的な魔法陣が完成した。
ただ機能を限定した結果、ひどく不便な代物になってしまった。
はじめは泥棒避けとして設置できたら有効的かな? 等と考えながら作成に取り掛かった。しかし魔法陣を設置した結果、私自身が魔法陣の中に置いた食器を認識する事ができなくなったのだ。魔法陣が「私」と「泥棒」を認識できない。という状況になってしまったためだ。
もしこれを家全体にかけていたら、家主も帰宅できなくなるという笑えない結果に陥っていただろう。
結果、私はこの魔法陣を「虫が近づきたいと思わなくなる」虫除けスプレーとして活用している。
もし貴方がこの家を探索中に何もないのに躓く事があれば、この実験で使用した魔法陣があるかもしれない。