第6話 帰り道
駅のホームで電車を待っていると、肩を軽く小突かれた。振り向くと、そこには少し不貞腐れた、香奈がいた。
「おぉ、部活終わり?」
「そう、部活終わりだけど、悪い?」
部活終わりは悪くないが、明らかに香奈の機嫌は悪そうだ。
「いや、悪くないよ。部活、お疲れ。今日はひとりなんだ。」
いつも部活終わりは、部活の同級生と行動しているイメージだったため、ひとりで駅にいることが意外だった。
「いやいや、私はそんなに疲れていないよ。健斗の方がお疲れじゃない、お勉強で。」
あれ、見られていたのかな、確かに、図書室は体育館に近いけど。
「ああ、部活の同期と一緒に勉強会だったんだ。」
「ふ~ん、そうなんだ、かわいい女の子とふたりっきりで、何をお勉強していたの?」
「普通に、英語と古文だけど。」
至って健全極まりない内容ですけど、と思いながらも、ちょうど電車が到着したので、香奈と一緒に乗り込んだ。
路線的には、満員電車というほど混むことはないのだが、夕方の帰宅時間帯なので、少し混んでいる状態のため、俺と香奈は出口付近に並ぶようにして立った。
最寄り駅までは約15分で、いつもはその1駅手前で降りるのだが、香奈がいるので、今日はいっしょに帰ることに決めた。
「へぇ~、英語と古文ねぇ~。明後日もいっしょに勉強するんだ~。」
え、何、どこで聞いていたの、気配なかったよね。怖い、ホント怖い。
電車の中なので、小声ではあるが、こんなジト目な香奈は見たことはなく、今までにない、恐怖を感じた。
「期末テストが近いから、勉強しているんだよ、文系科目が苦手なんだって。」
「そうなんだ~、私も文系科目苦手なんだ~、健斗様に教えて貰おうかな~。」
あぁ、朝の仕返しも始まった。
「いや、前回も俺より成績いいじゃん、教える必要性ないじゃん。」
「最近部活が忙しくて、勉強できていないんだよねぇ~、私。期末テスト不安だなぁ~
優しい健斗様はあの小っちゃいメガネのかわいい子にしか、勉強教えてくれないのかな~。」
ちら、ちらっと香奈が俺の方を見てくる。
「わかったよ、じゃな、裕ちゃんでも誘って勉強会でもする?中学校のときみたいに。」
中学3年生の頃はよく、3人俺の家に集まって、俺の部屋やリビングで勉強をしていた。
そのおかげで、塾にもいかず、結構難関な今の高校に合格できた。その点に関しては、裕ちゃんや香奈には頭が上がらない。
「裕也だって、色々忙しいと思うし、いきなり今日の勉強会に誘うのは悪いよ。」
「えぇ、今日?もう夜遅くなるし、辞めておこうよ。」
「何、私とはふたりで勉強できないっていうこと?あの子とはするのに。」
断ると、後々遺恨が残りそうな気がしたので諦めた。
「わかったよ、じゃ、どうする、俺んちでやる?」
「夜に外出すると怒られそうだから、私の家でやろう。」
まぁ、香奈の家は俺の家から、歩いて30秒程度で着く、超ご近所なので、全然問題ないのだが、夜遅くに女の子の家に伺うのはいかがなものだろうか。。。
「了解、じゃあ、香奈のおじさん、おばさんに許可貰えたら、連絡して。行くから。」
「許可って、大丈夫に決まってるじゃん、健斗なんだから。むしろ会いたがってるよ、ママ。最近来ないから。」
小学生くらいの頃は、よく香奈の家に、友里といっしょに遊びに行っていたが、中学に入った頃くらいからは、旅行のお土産渡しに行くときくらいしか、香奈の家には行かなくなった気がする。
「わかった、夕飯食べたら、行くよ。」
「あ、待って。8時くらいからでもいい?」
「いいよ、じゃあ8時ね。」
ちょうど、駅に着いたので、電車を降り、改札を通って、帰り道をいっしょに歩いた。
その頃には、香奈の機嫌も直り、笑顔を見せてくれていた。
「香奈攻略ルート」開放条件が、図らずも江藤さんとの勉強会だったのか、としみじみ思いながらも、ところどころホラー要素もあったため、慎重な行動が必要だと心に刻んだ。
香奈の家の前に着いたので、「じゃ、後で。」と別れ、俺も自分の家に入った。
第6話になります。徐々に更新していきますので、よろしくお願い致します。