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幻影タルトの存在証明

作者: 紅十字

 傘を連続的に、絶え間なく叩く。

 ――そんな雨音が妙に心地よかった。


 六月。

 梅雨の季節。


 腕時計を見ると、針は午後八時を示す。

 人が多いはずの通りは、にわか雨に慌てるサラリーマンで騒がしい。

 予報では、一週間ぶりに晴れのはずだった。

 実際、午前から夕方にかけてはずっと、カッターシャツに薄っすらと汗がにじむ心地よい日照りが続いていた。

 俺は首筋にを伝う、じっとりとした汗が好きだ。初夏を感じさせる、この独特の雰囲気が。



 雨が降り始めたのは、今しがたのこと。


 雨雲に包まれた、ねずみ色の空を見上げる。

 雲はどんどん大きくなり、今にも雷雲となって雷を落としそうな、そんな雰囲気。

 ちょうどあの日も今みたいに――




 懐かしい記憶がよみがえる。

 俺の人生を変えることになった大きな出来事。

 きっとこの世の誰も経験することのない、俺だけの……少女との不思議な出会い。

 俺の運命はあの日を境に大きく変わったんだ。







 ***





 梅雨の季節。

 時刻は午後八時。

 いつものように部活を終え、帰路についていた俺は突然のにわか雨にびしょ濡れになっていた。


 雨宿りをするため、シャッターの閉じた八百屋に止まる。


「はあ、はあ……ったく、なんで急に降ってくるかな? うわー雨と汗で気持ち悪い」


 ぱたぱたと体に張りついたカッターシャツを仰ぎ、空気を送る。

 悪態を吐くも、周りには誰もいない。

 反応なんてあるはずもなく、俺は一人虚しく、空を見上げた。


 ねずみ色のどんよりとした、うす気味悪い雲。

 雷を包んで、でっぷりと太った雲が足を引きずるように空中を浮遊する。


「うわ……すげ」



 空を仰ぐように翳した手が、光る。

 けど、それは手が光ったわけじゃなかった。

 手の奥。ずっとずっと先でそれは瞬いたのだ。


 轟音。神の(いなな)き――。

 凄まじい爆音。

 弾けるような衝撃波と共に、目の前の地面に穴が開く。

 一瞬の出来事だった。あまりに速すぎて、俺には何が起きたのか分からなかった。


 光に網膜を焼かれ、視界が不鮮明になる。

 しかし、しばらくすれば痛みが引いていくのと同時に、目の前が晴れた。


 そこに広がっている光景に目を奪われる。

 いや、奪われるっていう表現は違うのかもしれない。

 正確には目を釘づけにされたと言った方が正しい。


 コンクリートが焼け爛れた黒い影と化す。

 その深淵から覗くのは、瑠璃色に輝く双眸。

 俺の瞳はその宝石のような輝きに吸い込まれた。



 雷の落下と共に現れた一人の少女。

 薄汚れた白いワンピースに身を包んだ四歳ぐらいの子供。

 さっきまでいなかったはずなのにその少女は突如として現れた。


「う、うあう……」


 喘ぎにも似た少女のうめき。

 サンダルと思しき履き物は雷に直撃したのか、消し炭になってしまった。

 少女が五体満足でいること自体、奇跡の体現のようなものだ。


「ちょっと君、大丈夫?」


 立ち上がったはいいものの、前のめりに倒れようとしていたため、慌てて助けに入る。


 胸にすっぽりと収まるように眠りこける。

 すーすーと、心地良さ気な寝息が聞こえて。

 どうやら、命に別状はないみたいだ。


「よかった……」


 ほっと、ため息が漏れる。

 安心すると、肩の力が抜けたのか、女の子の重みをしっかりと感じた。


「とりあえず、雨の当たらないところに運ばないと」


 俺は小さな少女を背負う。

 このまま、放っておくわけにもいかない。



 もう空はすっかり暗くなっている。

 いくら暖かい季節だからといっても、夜はかなり冷えるのだ。

 そんな中、こんな年端もいかない少女を見過ごすことなどできるはずもなかった。


 仕方なく、俺は少女を背負ったまま、家へと帰ることにした。






 ***




「う、ん……?」


 寝ぼけまなこを擦りながら、少女が目を覚ます。


「君、名前は? お母さんがどこにいるかとか分かる?」



 正直焦っていた。

 マンガで例えるなら目がぐるぐる回って、白目を剥いてるくらいだろうか?

 さっきまでは非常事態だったから、気づかなかったが、冷静に考えるとかなりマズイ。

 背中には滝のような汗が流れる。

 俺は少女を――幼女を家に連れ帰ったのだ。

 助けるためとはいえ、他に方法はあったはずなのに。


 これでは、幼女を誘拐した犯人と、誤解されても何も言い返せない。


「待て、考えろ……まだ終わったわけじゃない。俺ならやれる、そうだろう?」


 誰に語りかけるわけでもなく、自問自答し、心を落ち着かせる。

 何が大丈夫なのかは全く分からないが、まだ警察が来たわけのでもない。

 俺にもできることは残されているはずだ。


「はっくちゅん!」


 ようじょ――もとい、少女がくしゃみをした。

 可愛らしく、はなちょうちんを作り、寒そうに身体を震わせている。


「ごめん、寒かったよね? 今お風呂沸かして――」


 そう言いかけたところで、リビングにいた俺たちのもとに、風呂の湧いた合図のメロディーがなった。


「お風呂湧いたから入ってきなよ? 一人でも入れるよね?」


 首を振る少女。

 声は発さず、俺の腰にひしと抱きつく。


「あーこれはヤバい。本当にマズいぞ?」


 赤の他人、それも年端もいかない少女と風呂に入ったなんてことがバレれば、確実にブタ箱行きだ。

 それだけは避けたい。


 しかし、目の前で寒さに震える少女に苦痛を続けさせるというのも、鬼畜の所業。

 なら俺は、鬼畜よりも変態を選んでブタ箱に行ってやる。


 大丈夫なはず、俺はロリコンじゃないし、年下好きでもない。何ならお姉さんに憧れるタイプの人間のはず。

 一人頷く。


 謎の自信と共に俺は幼女をお風呂に入れてやった。


 万が一に備え、パンツを穿いたままお風呂に入って事なきを得た俺は、風呂から少女を出してやる。

 不思議な顔で俺を見ていたが、気にすることでもないだろう。

 透き通るような銀髪にドライヤーを当て、髪を梳く。

 こんな小さな女の子でも、髪の毛からは甘ったるいシャンプーの香りが漂ってきて。


 同じシャンプーを使っているのにどうしてこんなにも違うのかと、理不尽な気持ちにさせられる。



 少女の着ていた服はびしょ濡れになっていたため、俺が幼いころ着ていた服を着せる。

 と言っても、俺が彼女と同い年くらいのものは流石に残っておらず、仕方なく、中学生の時のジャージを着せたわけだが……。


「これはいくら何でもマズいだろ……」


 目の前の光景に言葉を失う。

 当然サイズが合うはずもなく、ダボダボのジャージを着た少女の姿からは犯罪臭と背徳感がすさまじかった。

 ふと、少女の首筋に目が行く。別に俺がうなじフェチとかそういうわけじゃない。

 そこに普通ならないはずのものがあったから。

 少女の首筋にあったのは、薄紫色の滲んだ痣。


「これどうした?」


 上手に鏡で反射させ見せてやるも、少女からの反応は薄い。

 まるで初めからその存在に気づいていないかのような仕草。

 見た感じ小学生くらいだ。咄嗟に嘘が吐けるほど、成熟はしていないだろう。


 だから、虐待という選択肢は消えた。


 けど、その場合また新たな疑問が生まれる。

 では、その痣は一体何なのか?


 少女から反応が返ってくるはずもなく、俺はもやもやした感情を残したまま、その場をやり過ごす。





 小一時間ほど話したところ、少女について分かったことがある。

 どうやら目の前の少女は記憶喪失らしい。

 何処から来たかは愚か、自分の名前さえも分からないみたいだ。


 困った、非常に困ったことになった。

 身元が分からない以上、下手に警察のお世話になるわけにもいかない。

 本当にブタ箱行きになる可能性が出てきた。


 俺が色々と悩んでいるとは露知らず、少女は可愛らしくお腹を鳴らした。


「腹減ったか?」


 こくこくと、小さくうなずく。


「ちょっと待ってろ」


 そう言って、俺は部活帰りに買った食後のデザートがあることを思い出した。

 ごそごそと通学バッグを漁り、目的のものを見つける。


「食べるか?」


 少女の目の前に、タルトを差し出す。

 俺が楽しみにしていた食後のデザートだが、そもそもこの家では夕食の時間が他の家庭に比べると遅い。

 腕時計を見てみると時刻は九時。まだまだ、夕食ができるまでは一時間ほどかかる。

 というのも、叔父さんと叔母さんが家に帰ってくるのがだいたい九時くらいなのだ。

 必然、夕食の時間も遅くなるというもの。


「いいの?」


 目をキラキラさせて、遠慮がちに言うんじゃない!

 それは俺の胸に効く。いろんな意味で。


「ああ、夜ご飯までまだもうちょっとあるからな」

「ありがと!」


 満面の笑みで。一切の曇りのない、太陽のような輝きがそこにはあった。



 うん、こっちの方が十分価値がある。

 腹は満たされないが、精神が死ぬほど満たされた。

 たまにはこういう日ものがあってもいい気がする。


 なんて微笑ましい気持ちで少女を眺めていると、勢い良いくかぶりついていたのが災いしたのか、思い切りむせ始めた。


「むぐっ――!?」

「ゆっくり食べなよ? 別にとったりしないから。ほら」


 背中をさすってやり、ペットボトルの水を与える。

 小さな手で、こくこくと水を飲む姿さえ可愛くて。


 小さい子も良いな――なんて思ってしまう。

 別にロリコン的な意味ではないけれど。


「ぷはっ! ごちそう、さま」


 手を合わせ、静かに目を閉じる。


「はいよ、お腹は膨れたか?」

「…………」


 だが声は帰ってこない。

 不思議に思って少女を見てみると、彼女はまだ不満げな顔をしていた。

 どうやら、まだお腹が減っているらしい。


「仕方ないな、少し待ってろ。買ってきてやるから」


 苦笑交じりに頭を撫でてやる。

 そして俺は一人、コンビニへと向かうのだった。






 ***




 翌日。

 昨日とは打って変わって驚くほどの晴天だった。


「おーい、タルト? 行くぞー?」


 朝八時。今日は土曜、休日。


 昨日、叔父さんと叔母さんと話した。

 俺が面倒を見ることを条件に、タルトを親が見つかるまでの間、家に置いていても良いとのことだった。


 ちなみにタルトというのは、昨日拾った少女の名前だ。

 タルトは俺が買ってきた、数あったデザートの中から、なぜかタルトのみを食べ、他のものには一切手を出さず、満足げにしていた。

 なぜかと問えば、タルトが非常に気に入ったとのこと。

 まあ、本人がそれでいいというのであれば、俺があーだこーだ言うことでもない。


 それで、彼女の好きなデザートの名前からタルト、と名づけることにしたわけだ。

 とはいえ、あくまで仮の名前。

 タルトにはタルトの名前があるだろうし、タルトに両親が見つかるまでの間の仮の名だ。


 今日は珍しいことに、俺の所属するバスケ部の練習がない。

 だからと言ったわけではないけれど、タルトや叔父さん達と話した結果、タルトの両親を探すついでにお出かけをすることになったのだ。


 玄関の戸を開けると、驚くほどの熱気が全身を包んだ。

 天気予報で今日一日は晴れと出ていたけれど、ここまで暑いとは思ってもいなかった。

 正直、想像以上だ。


「タルトー、今日は暑いから帽子かぶれよ?」


 玄関近くにある服掛けから麦わら帽子を取ると、それをタルトの頭に乗せてやる。

 サイズが大きく、タルトの目元まで隠れてしまう。

 それがどうにもおかしくて笑っていると、気に食わなかったのか彼女は不機嫌そうに頬をぷうっと膨らませた。


「そんなに怒るなって、アイスクリーム買ってやるから。それともタルトの方がいいか?」

「うん!」


 元気よい返事。


「はは、こんなクソ暑い中でも、タルトね? 変わってるっていうか、面白いっていうか……」


 そんな他愛もない話をしていると、近所の公園に着いた。


 すでに何人かの子供がいて、楽しそうに遊んでいる。

 俺も小さいころはよくここで遊んでたっけ?

 最近はもうちょっと遠いバスケットゴールのある公園にしか行ってなかったから、なんだか懐かしいな。



 感傷に浸っている俺とは対照的に、タルトは一人野良猫と戯れている。


「どうだ、なんか思い出したか?」

「分かんない。ここには来たことがないかも……」

「そっか、もう少し遠くまで行ってみるか?」

「うん」


 名残惜しくも、懐かしの公園に別れを告げ、タルトの手を引きいつも行く少し遠めの公園へ。




 十五分ほど歩いて、目的の公園に着く。

 俺がいつもバスケの自主練でくる、ゴールが四つある少し大きめの公園だ。


「わあー!」


 楽しそうな声を上げ、目をキラキラとさせるタルト。

 どうも、静かにそびえ立つバスケットゴールに惹かれた様子。


「少しやってみるか? おじさん、ボール一つ貸してくれる?」


 この公園はボールの貸し出しもしているので、初めて来ても安心してバスケをすることができる。

 まあ、俺はいつも自分で持ってくるわけだけれど。


「ほら、タルト! 行ったぞ」


 やんわりと投げたボールが放物線を描く。

 ボールはタルトの目前で小さく弾むと、彼女の胸に吸い込まれるように両手に収まった。


「まずはドリブルからだな。こう、自分の右斜め前で弾ませてみ?」


 全身を使ってタルトにも分かるようにドリブルの動きをして見せた。


「こう?」


 タルトは難しそうに口をへの字に曲げながらも、ドリブルをしている。

 少しぎこちないものの、初めてにしてはすごいセンスのいい方だろう。

 俺がタルトと同い年――七歳の頃は、もっと腰も引けてて、ぎこちなさ塊のようなものだった。




 親父に笑われて……それが悔しくて、夕方までずっとドリブルしてたっけ?

 はは、懐かしいな……。


 思い出が蘇る。今でも鮮明に思い出せる。

 親父とはいつだってバスケをしていた。

 親父はバスケが強くて。あとで知ったことだが、プロの選手だったらしい。


 そりゃあ、強いわけだ。

 でも、そんな親父に師事を受けていたからなのか、俺の実力も知らずのうちにかなり跳ね上がっていたよう。

 おかげでというか、気づけばバスケで有名な高校に推薦で入っていた。




 と、かなり長い間感傷に浸っていたのか、目の前にタルトの姿はなかった。


「タルト?」


 慌てて、あたりを見渡していると、タルトはゴール下にいた。

 凄まじいドリブル速度。

 その速さは、男子高校生と対峙したとしても遜色のない実力だ。


 成長速度が速いとか、そんな次元の話ではない。

 目の前で起きていることはあり得ない出来事なのだ。

 あってはいけない、自分の目を疑いたくなる光景。


 緩急のつけ方は一流。静と動、流れるような動きの中にも繊細さを感じる。

 レイアップシュート。

 教えてもいないはずなのに、シュートホームは美しさを通り越して神々しい。


 俺はバスケに関しては、バスケだけは誰にも負けない自信があった。

 バスケは俺自身で、バスケだけが俺の存在理由だともいえる。




 それなのに――。


「なんで……」


 そんな声が自然と口から洩れた。

 自分でも分からない。

 決してタルトに対して自身の実力が劣っているだとか、そういうことではない。

 いくら何でも女子小学生に負けるわけにはいかない。


 ただ、彼女の将来性に、その潜在能力の高さに嫉妬した。

 そんな醜い愚かな自分に憤りを覚えた。


 最低だ。小学生を相手に嫉妬してしまうなんて……。

 それも女の子だ。

 自分よりも小さい。力の弱い少女を相手に。

 大人げないにもほどがある。


 自分の手のひらを見つめる。

 手を空にかざして。

 太陽の眩しい光が目に痛い。

 僕の胸を引き裂くように突き刺した。




 小さいころは何でも、すべてが思い通りになると思っていた。

 好きなものになれるし、自分の夢は叶うと。

 でも、そんな甘えた考えはすぐに変わった。


 何もかもが思い通りには行かなくて。

 頑張ろうとしたすべてが空回りしていた。

 でも、そんな状況を変えたくて、足搔いて足搔いて……もがき苦しんだのだ。

 そうして何とか、バスケだけでは自信を保てるようになっていた。


 でも、そのバスケでも最近上手くいかなくなっている。

 今まで自分より強い同年代などいなかった。

 けれど今は違う。今の高校は、スポーツ推薦で入った学校には何人も強い人間がいた。

 同年代にも実力に近い仲間が何人もいる。

 その中でも俺は少しだけ強いだけ。


 先輩に至っては、俺よりも実力が高い人間ばかりで。

 才能があると感じていた俺は、その中では凡人に成り下がる。


 ただの凡人、無個性なだけの塊。

 そんな俺に存在理由など、ない。

 だから、足搔いた。

 他人を越えるため、自身が天才であるために。

 そのためにはいくらでも努力した。


 深夜だろうが、早朝だろうが関係ない。

 時間の許す限りをバスケに注いだ。

 それでも、まだ足りない。


 力が欲しい。

 他人を圧倒する力が。天才でいるための力が。




 目の前の少女に――タルトに目を向ける。

 タルトはさっきボールを初めて触ったばかりのはずなのに、どういうわけかあっという間にバスケを理解し始めていた。


 彼女は俺とは違う。

 別の領域――境地にいるのだ。


 今も現在進行形でメキメキと力をつけている。

 このまま一週間もすれば、タルトと同年代で相手になる者はいなくなるだろう。


 タルトの潜在能力を、本当の天才としての素質を認める。

 ――そして自分の、俺の現状の実力が彼女に抜かれるのを認める。




 なら、俺が今この場でするべきことは決まっている……。


 短く深呼吸をする。

 目を閉じる。ふっと今までの怒り、怨嗟、あらゆる悪感情が抜けていくのを感じた。


 肩の荷がなくなった。

 自分の存在の小ささを理解することで、俺は新たな境地の階段を踏み出したのが感覚で分かる。



「ねえタルト、俺とバスケをしよう?」


 そう、笑いかける。

 今まで意識してしかできなかったはずの笑顔が自然と顔に表れた。


 タルトはこちらを不思議そうに見上げた。

 瑠璃色の瞳が俺の瞳を覗き込む。


 その深淵に僕は恐怖と尊敬を覚えた。


「大丈夫、タルトならこれからもっともっと強くなれる。俺が保障する」


 タルトに技術を、経験を。

 俺が体験してきたすべてを注ぎ込む。

 今のタルトはセンスと本能に訴えかけていくプレイスタイルだ。

 そんな彼女に己を抑制する鎖と技術という名の矛を持たせるのだ。


 そうすれば、タルトは完璧な存在になる。

 誰も相手ができなくなる本当の天才が誕生することになる。

 当然、俺もその中の一人になるだろう。


 誰の手にも負えない、孤高の存在。

 そんな化け物を自身の手で生み出そうとしていた。


「一通り俺が動きを見せるから真似してみて」


 踵を返し、ゴールの足元に転がったボールを拾う。

 今までに感じたことのない重みを感じた。


 きっとそれは心のどこかではぬぐい切れていない――小さな女の子に追い越されることに対する恐怖の現れだろう。

 こんな時にも自身の考えで頭がいっぱいの、余裕のないちっぽけな存在にすぎない自身に腹が立つ。


 ふう、と一際大きな息を肺からすべて吐き出す。

 肺を空っぽにして、新鮮な空気で満たして。

 清々しい気持ちになってから、俺はボールを宙に放った。


 綺麗な放物線の先で、瞬く星のようにボールが陽光を浴びる。

 リングに触れることなく、網をくぐる。


 心地よい音。

 この音を聴くために俺はどれだけの時間を注いだのだろうか?


 ロングレンジだろうが、ミドルレンジだろうが関係ない。

 打てば決まる。点が入り、人々を魅了する。


 そんなシュート。


 理想だ。だが、この場かぎりでは現実。

 理想は現実で、現実は理想なのだ。


 タルトから感嘆の声が漏れる。

 彼女の瑠璃色の瞳は輝いていて。

 大海原を航海する航海士。あるいは人々を導くモーセの杖だろうか?


 何にしても、人を魅了するようなシュートを放てたのはずいぶんと久しぶりな気がした。


 タルトのために、たった一人の少女のために放った、渾身の一撃だ。

 きっと彼女の心にも響いたのだろう。







 それから三時間ほど。

 二人で夢中になってバスケの練習をした。

 タルトにはいろいろな技術を叩き込んだ。

 まさかとは思っていたけど、本当にこの三時間でタルトは別人に変貌していた。


「ねえ、ケイスケ。もっとおしえて? タルトにもっと! もっともっとおしえて!」


 俺の袖を執拗に引っ張りそう懇願する。

 彼女の瞳はキラキラを輝いている。

 だが、その輝きは三時間前のものとはかけ離れていた。


 彼女の瞳はギラギラと、まるで得物を狙う猫のよう。

 もっともっと、と。必死なほどに、まるで焦りにも似た感じを醸し出しながら願ってくるのだ。


 タルトは教えたことのすべてを100パーセント反映し、自身の中へと落とし込む。

 喰らった技術は、飲み干した経験は――すべてタルトの血となり肉となっていく。



「はあ、はあ……」


 おかしい。

 何かがおかしかった。


 三時間ぶっ続けで練習をしたにも関わらず、タルトは全く息を切らしていない。

 それどころか、どんどん活き活きし始めて。


 体力は俺の方があるはずだった。

 それは火を見るよりも明らかなはず。

 だって俺は男子高校生で、現役のバスケ部だ。


 そんな体力に自信のある俺が息を切らして、初めてバスケの存在を知ったような女子小学生に、体力面で劣る道理などないはずなのだから。


 けれど、現実はその真逆を行く。

 実際には俺の方がヘトヘトで。タルトはまだまだ余裕で溢れていた。


「少し、休憩しようか? 大丈夫そうに見えても案外、疲れは蓄積しているものだからね。はい、これでジュースでも買っておいで」


 そう、諭すように話しかける。

 正直、今はもう一歩も動けないほど疲れていた。

 タルトと一緒に練習をしたこの三時間は、今まで練習してきたどんな三時間よりも、六時間よりも濃密で。


 得難いものを得られたような気がしていた。

 恐らく錯覚ではないのだろう。事実俺の実力は三時間前のものとは比べ物にもならないくらいに成長しているのが分かる。


 俺の中の何かが、明確に変わったのだ。

 タルトと一緒に俺自身も成長をリアルタイムで続けている。


 この三時間で大体試合で使う技の大半を教えた。

 フロントチェンジ、ロールターン、レッグスルー、インサイドアウト……。


 これらは普段試合でも多用する武器だ。

 その全てを、タルトはたったの三時間でマスターしてしまった。


 攻撃的なオフェンス、緩急をつけたテクニカルなオフェンス。そして周りの状況を踏まえながらプレイする管制塔のような攻め。

 どれも、各々のポジションで重要な技術となるものばかりだ。


 後はシュートを教えれば、タルトは誰にも止められなくなるだろう。


 そんな未来を想像して一人笑う。

 タルトは将来、伝説のプロプレイヤーとしてその名を世界に知らしめることなるだろう。



「それじゃあ、続き始めようか? 次はシュートの練習だね」

「シュートシュート!」


 そう無邪気に笑う。

 その笑顔は太陽よりも輝いている。


 俺は名残惜しむようにタルトが買ってきたスポーツドリンクから口を離す。

 ドリンクの糖分が体の隅々まで染み渡るのを感じながら、重たい腰を持ち上げて。


 そうして、俺とタルトは日が傾きかける中、練習を再開するのだった。



 ***



 月日が過ぎるのはあっという間のことで、気づけば俺とタルトは毎日のように公園でバスケの練習に明け暮れていた。

 そんな日々が続いた一ヶ月後。


 今日は俺が通う高校のバスケ部が、全国への切符を掴もうとする決勝戦が行われる日だ。


 当然強豪校の一校として数えられる俺たちのチームが予選などで負けるはずもなく、準決勝までダブルスコアで勝利を収めてきた。

 俺は一か月前とは比べ物にならないくらい成長して。

 チームのスターティングメンバ―として初戦から参加し続けている。

 そして、迎えた決勝戦。初めての大舞台。


 多くの歓声に迎えられながら、俺たちはコートに立つ。

 一年の俺がスタメンとして7番を背負うことを良く思わない先輩や同級生はいる。


 だが、そんなものが気にならないほどに今はただ、強い相手とバスケがしたかった。

 ただ純粋にバスケがしたい。

 楽しんで、笑って、最高の笑顔で応援してくれるタルトに迎えてもらいたい。


 そしてまた、二人でヘトヘトになるまでバスケをするのだ。


 だから、そのためにはこの試合で負けるわけにはいかなかった。

 負けるとも思っていないけど。


 両校が向かい合わせで整列し、レフェリーがホイッスルを咥える。

 会場が鎮まる。皆が試合の開戦を今か今かと固唾を呑んだ。


 主将が一歩前へ、センターサークルへと向かう。


 皆が腰を落とし、身をかがめた。

 始まるのだ。決勝が、全国への生き残りをかけた戦いが。



 レフェリーがボールを高く放つ。

 最高点に達し、重力に逆らうことなく落下を始める。


 周りから音が、匂いが、色が消えた。

 完全なる無音。

 ボールの落下軌道がコマ送りで見える。


 不要な情報をすべて視覚へと注ぐ。

 タルトとの練習で俺が身につけた技術。到達した境地。



 ――ゾーン。



 体得するまでは噂で聞いたたことがある程度の眉唾物だったはずなのに。

 タルトとの練習で俺はこの不可思議な、それでいて確かな武器を手に入れた。


 主将の指先がボールに触れる。

 軌道が、世界の流れが変化する。



 主将の瞳が俺の瞳を捉える。


「行け、圭祐。期待しているぞ?」


 口元はそう、物語っていた。

 だが、俺はそれに対して、にやりと笑いかけるだけ。


 期待への返答はプレイで見せる。

 それが今、俺がするべきことなのだろう。



 主将が弾いた先へと俺は移動した。

 ボールが手に吸い付く感覚は今までにないほど良好だ。


 触れた瞬間、敵チームの視線が俺へと注がれる。

 俺をマークしていた一人をクロスオーバーで抜き去る。


 追い越した先で別の人間にマークされる。

 流石に決勝まで行くと対応の速度が段違いだ。


 俺のマークに付いていた5番が抜かれたことに焦りを感じたのか、マークが厳しくなる。


 ダブルマーク。

 思わずその状況に笑みがこぼれてしまう。


 それほど俺のことを危険視してのことだろう。

 その状況がたまらなく、気持ちを高ぶらせてくれた。


 が、何も一人で突き進むのがバスケの醍醐味ではない。

 バスケはチームプレイだ。なら、それを有効活用しない手はないだろう。


 8番のユニフォームを着た、右奥に見える先輩に視線を送る。

 当然視線につられ、左への警戒が甘くなる。そこを突く。


 左へと鋭いドリブルを刻む。

 だが、それは当然阻まれる。

 しかし、それも予想通り。

 目的はこの先。左翼に大きく展開した主将へのパスが通った。


「うおおおお!」



 雄たけびと共に180センチを超える主将が飛び上がる。

 ジャンピングシュート。

 丁寧な型をなぞらえたお手本のようなフォーム。

 そのフォームを見ただけで、血のにじむような鍛錬の日々を過ごしてきたことがうかがえた。


 しかし、主将はシュートを放たない。あくまで冷静に自身がサポート役へと徹する。

 その脇を俺は静かに通り過ぎる。その際、ボールが俺の手元へと吸い寄せられた。





 ネットを通過する子気味のいい音。



「良いプレイだ」


 白い歯を見せ、主将は微笑む。

 背中に感じる大きな手の感触。


 歓声が沸き起こった。

 タイマーに視線を移動させれば、経過時間は8秒。


 2対0。文句のないスタートだった。








 試合の流れは一度のリードも許すことなく、第4クオーターへ。

 スコアは78対75。


 決勝戦らしく接戦といえるだろう。

 ダブルスコアをつけて勝てるとも思っていなかった。

 相手は何度も全国へともに行くような強豪校だ。

 実際、一昨年、去年と俺の高校は惜しくも二位で全国への出場することになっていた。


 ここで勝つことは俺たちの高校としても悲願の達成になることだろう。

 残り時間はおよそ2分。


 さすがにここまでくると、チームメンバーにも疲れや焦りが生じ始める。


「みんな、集中!」


 指令塔とも呼べるPG(ポイントガード)が声を張り上げた。

 その声に応えるようにここにきて皆の集中力は大きく増加した。


 主将とはまた違ったタイプのカリスマ性を発揮する先輩。

 だが、彼が持っていたボールが相手にスティール(奪わ)れてしまった。


「あっ!」


 気づいた時にはもう遅い。

 すでに攻守は切り替わっているのだから。


 そのままの勢いで点数を入れられ、点差は三点。

 残り時間は一分を切った。


 ここまでくればもう攻める必要はないだろう。

 できるだけ、自身たちのゴールに近づきつつ、パスを回して時間を稼げばいい。

 勝ちにこだわるのであれば、それが最善の手だといえる。


 勝つのであればそうしなければならない。

 誰もがそう思うだろう。


 だが、それは違う。

 ここで攻めの姿勢を損なえば、一瞬にしてボールを奪われ形勢は逆転する。


 攻めの姿勢をやめるということはその分、勝ちへの意識が弱まるということだ。

 バスケは点を入れなければ勝てない。

 誰もが知っている自明なこと。

 それを放棄するということは、勝ちを諦めることと同義だろう。


 だから。


「主将。次、ボールを受け取ったら俺にください。ここで守りに入るのは非常に危険です」

「ああ、分かっている。頼むぞ圭祐」

「はい」


 短く答え、俺は踵を返す。

 タイマーが示すゲームオーバーまでのこり二十三秒。


 それだけあれば、あと一本はシュートを決められる。

 今の俺なら――タルトと練習を重ねてきた俺なら……。


 エンドラインから主将へボールが渡る。



「いけ、圭祐!」


 小さくうなずく。

 瞬時に三人ものマークがつく。

 相手も必死なのだ。ここでボールを奪えなければ負けが確定するのだから。


 だが、相手の事情など知ったことではない。

 俺は点数を決めて全国へ行かなかればならない。


 タルトに教えたありとあらゆる技術を駆使して相手を抜き去る。

 フロントチェンジ、ロールターン。これで一人、振り切った。

 レッグスルー、インサイドアウト……これで二人。



 右翼への展開。

 だが、最後の一人が振り切れない。


 クロスオーバー。これでようやくフリーになることができた。

 前方から焦ったように相手の4番が守りに来る。


 だが、もう遅い。

 スリーポイントライン一歩手前で俺は止まる。

 相手の指先が触れそうになるが、それをフェイドアウェイで回避する。


 シュートを放つ。

 レフェリーのハンドサインは親指から中指にかけて三本。

 紛れもなく、スリーポイントを示すものだ。


 渾身の一撃が放物線を描いてゴールへと吸い込まれていく。

 完璧な放物線だった。これほどにまで美しい放物線は見たことがなかった。


 ボールが頂点に達したところで試合の終わりを告げるブザー。

 残り時間は――ゼロ。


 ブザービーター。

 ブザーがけたたましく鳴る音をかき消すように。

 リングに触れぬ、ネットをこする音がひときわ木霊した。





 試合終了。

 スコアは81対75。

 俺たちのチームが優勝した瞬間だった。





 ***






 それから、あっという間に一週間が過ぎた。

 優勝を果たした俺はあの後、タルトと一緒にバスケをしようと、彼女を探したけれど。

 でも、タルトが見つかることはなかった。

 一週間たった今でも彼女に会うことは叶っていない。


「けいちゃん。いつまで落ち込んでるのよ? タルトちゃんがいなくなって落ち込むのも分かるけど、きっと親御さんが見つかったんだわ。それは嬉しいことのはずでしょう?」


 落ち込んだ俺を慰めようと、おばさんがお茶を用意してくれる。

 おばさんの言う通りだ。なにも間違っていない。

 タルトを忘れることができなくて落ち込んでいるのは俺だけで、タルトはきっと両親と再会を果たして、幸せに暮らしているのだろう。

 なら、それは喜ぶべきことだ。決して悲しむことではない。


 そうは頭で理解しているものの、悲しいものは悲しいのだ。



 きっと俺はまだタルトとバスケがしたいのだ。

 汗だらけになって、手を真っ黒にして、疲れ果てて家に帰る。

 二人でシャワーを浴びて、彼女の髪を乾かして、乾かされて。それで、クーラーの効いた部屋でアイスを食べて、タルトを食べて……。


 晩御飯ができるまで二人でバスケについて話したり、ゲームして、他愛もない話で腹を抱えて笑うのだ。

 そんな幸せな――幸せすぎた一か月。

 いつまでもそんな幸せが続けばいいと思っていた。


 けれど、そんな幸せに満ちた時間が続くはずもなく、気づけばタルトはいなくなっていた。


「タルト……また君とバスケがしたい」


 呟いてみるも彼女の声が聞こえるはずもなかった。












 ***







「やば、雨強くなってきてないか?」




 雨宿りをしながら、昔のことを考えていると、気づけば驚くほど悪化していた。

 タルトと出会って十年。

 今まで一度も彼女のことを忘れたことはなかった。

 今も思い出せば、脳内でケイスケ、ケイスケ! と天真爛漫な笑顔で笑うタルトの顔が浮かんでくる。


 俺はタルトと出会ったことで再びバスケと向かい合うことができていた。

 彼女がいなければ、俺がバスケを続けていることはなかっただろう。

 バスケを続けていなければ選手として活躍することもなかった。

 タルトには感謝してもしきれない。


「また、タルトに会いたいな……」


 そんな独り言がついででしまう。


「はは、情けない……」


 脳内のタルトがケイスケ、ケイスケとずっと呼んで離れない。


「――スケ! ケイスケってば!」


 懐かしい声が、しかし少し大人っぽくなった声が、後ろから聞こえた気がして。振り返ると。

 ドンっと、重みを感じる何かが俺の体にぶつかってきた。


「えっと……もしかして、タルト?」

「えへへ、気づいた? ケイスケってば全然あたしに気づかなかったんだもん。思いっきり抱き着いちゃった」


 そこにいたのは確かにタルトで。

 でもその姿は十年前とはかなり違っていた。

 大人っぽくて、可愛らしくて。


「タルト……」

「なあに? わぶ――っ!?」


 俺は思いきりタルトに抱き着いた。

 再会できたことが嬉しくて、でも泣いてる自分の姿を見られたくなくて。

 抱き着いて、ごまかそうとした。


 しかし、情けないことに、体が震えてしまう。

 その振動がタルトにも伝わってしまったのか、彼女に気づかれてしまい……」


「ケイスケもしかして泣いてるの?」

「はは、泣いてないよバーカ」


 そう言って涙をぬぐって笑ってやる。


「変なの、泣いてるじゃん!」

「そうかもな」

「簡単に認めてるし……」


 あの日と同じようにタルトは白いワンピースを着ていて。

 まるで時間が過去に戻ったかのようだった。

 変わってしまったのはお互いの年と容姿だけで。

 それ以外は何も変わっていなかった。


「ねえ、ケイスケお願いがあるの。あたしを――」


 思いつめたような顔で相談をしようとするタルト。

 俺はなぜか彼女が別れを告げようとしているのかと思い、


「タルト。俺の家に来い。俺の家族になってくれ」


 別れたくなくて、離したくなくて。

 そんなことを口走っていた。


「……」


 驚いたように目を丸くするタルト。

 当然だ。二十六歳のおっさんにそんなことを言われてドン引きしないほうがおかしい。


「ケイスケ。あ、あたし悪い子だよ? 普通の子じゃないし。それでもいい?」


 そんなことを上目づかいで言われてしまう。


「当たり前だ、タルトが普通の子でたまるか。タルトのおかげで俺はここまで生きてこられたんだから。俺はタルトに恩返しがしたい」

「うん、あたしもケイスケと一緒にいたい」

「タルトが悪い子なら、俺がタルトを導く。タルトにはずっとずっと幸せでいてほしいんだ」



「うん……うん! 不束者ですが、どうかよろしくお願いします。ケイスケさん!」

「ははは、それは誰かのお嫁さんになるときにしときなよ。タルトが結婚することになったら俺は泣くけど」

「そうだね、お、お父さん?」

「ケイスケでも構わない。これからよろしくな、タルト――そう言えばタルトの本名って」


 言おうとしたところで、タルトの人差し指が俺の口に触れる。


「それは内緒。お父さんなら、あたしの名前――付けてくれるよね?」


 いじらしい笑みを浮かべるタルト。


「そうか。じゅあ、とりあえずバスケでもするか?」

「えーこんな雨の中?」

「したくないのか?」

「そりゃあしたいけど……」

「俺がどんな奴か知ってるだろう? 体育館の一つや二つ電話一本で借りることはできる」


 そうして俺はバスケットシューズが常に二足入ったリュックサックを背負いなおして。

 ボールを片手に持ちながら、タルトの手を引くのだった。




 これは、十年前に不思議な出会いをした俺と少女の物語。








 ――立上圭祐(たてがみ けいすけ)立上流兎(たてがみ ると)が、親子となった物語だ。






 

お楽しみいただけたでしょうか?

読んでくださったあなたにとって、良いひと時であったのであれば幸いです。


普段は『一騎当千の災害殺し』というダークファンタジー物を執筆させていただいています。

良ければそちらも読んでいただけるとうれしいです。

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