第8話 ちょ、ちょっと……そこのぶよぶよ……動くなよ……
ヘタレの初戦闘だけに時間かかりますね。小説としてのテンポはどうなんだと。
「えーと」
鬱蒼と茂った森の中。後ろをトテトテ付いてきているチャイムがおずおずと口を開いた。
「お、同じ所をクルクル廻っていますけど、別の所に行ってみるのもいいんじゃないかなぁって……」
「へ?」
あれ? ひょっとして道に迷ってる、俺?
「あの…この樹とか、あの枝とか、何回か見たなぁって」
「いや、その……それじゃ、そろそろ他の所に行ってみるか……」
「はいっ!」
お前、森の中の枝の違いがわかるのかよ……。
「あ。あそこ、森が少し開けてるみたいですよ? キラキラしていますから、川が流れてるのかも!」
「それじゃ、あそこで一旦休憩にするか」
「うちも疲れたわー」
頭の上に乗った奴がどの面下げて言うか。
■
――そして、川原で休憩しようとした矢先に、目的のモンスターが見つかったというのが現状だ。
「それにしても、川原にいてるとは思わへんかったねぇ。赤色のスライムとか珍しいし、これやよ、依頼のレアスライムて」
俺の後頭部に隠れたファーファの気楽そうな声。
飛び掛られたスライムを悲鳴を上げながら思わず叩いたチャイムによって、最初に遭遇した2体が既に5体にまで増えている。叩いても分裂するなら斬っても同じだろう。
スモールバックラーでスライムの体当たりを防ぎながら、どうしたものか思案する。
ボヨンボヨンとある程度の重量感でぶつかってくるので、結構疲れるのだ。
「ウドぉ、下ー! 転がってきてるよー」
ファーファの実況中継で思わず足元を見ると……赤いボールのように体当たりしてくるスライムが!
ドプン。
思わず蹴る俺。
分裂するスライム。
「めんどくせーーーー!!」
6体に増えたスライムに頭を抱える。
背後を、悲鳴を上げながらチャイムが走り回っている。
「チャイムー! お前、なにか役に立つ魔法、ないのかよー」
走り回っているまま、こちらに顔を向ける。
「え…と…、か、か、かいふ…くとぉぉぉおぉぉぉ――」
「わかった、もうしゃべるな、頑張って逃げてくれ」
「は、はいーーーッ!! な、ななるべくー、はやくーーー、おねがいしますぅぅぅ」
律儀に答えるチャイムのこともあるので、なんとかしないと……。
そ、そうだ……こ、こうなれば、みじん切りにして小さくして潰せば……!
「チャイム! スライムを叩け! 分裂しまくっても小さくなったら潰すとかできるはず!」
「はいーーーーーー!!」
立ち止まると、スライムめがけて巨大スタッフをブワンと――。
空振り。
見事にスタッフに振り回されているチャイム。
「チャイムー! やっぱり、やめだ。お前は逃げろ!」
「ごめんなさーーーい!!」
俺が何とかしないと……。ばいんばいんとスモールバックラーに当たってくるスライムをショートソードで斬る!
「おしい! おしいなぁ! もう少しコンパクトに振った方がええんとちゃう?」
うるせー妖精だな、おい!
■
スライムが9体になっていた。
振り回して斬りつけた回数の割には思うように当たらず、何回か当たった結果、中途半端に大きいスライムを増やすことになっていた。
分裂したスライムは半分サイズになるため迫力は減るが、その分攻撃が当てにくくなる。元々運動音痴の俺がそうそう当てられるはずも無く……。
「ちょ、ちょっと……そこのぶよぶよ……動くなよ……」
ゼーハーと肩で息をしながら、にじり寄る。
「ウドぉ! はよなんとかせんと、バテるんとちゃう?」
頭上でヒラヒラ飛んでいるファーファが他人事のように言ってくれる。
「ウドって言うな! お前が言うとなんかムカつく!」
「差別やー。受付のオネエサンに言われた時にはヘラヘラしとったやん~」
間違ったフリして叩き落してやろうか。
こんな状況だがスライムの攻撃が大したことが無いことは救いか。重めの水風船をぶつけられているようなものだ。
小さく分裂しているから単体での当たりは弱くなったが、とにかくうっとうしい。埒が明かない状態でジリ貧になっていく。