第7話 よさそうなクエストが残っていてよかったですねー
俺たちはギルドに付属している食堂兼酒場の隅っこに陣取り、もらったばかりの魔法金属製のカードをためつすがめつしていた。顔写真の部分をこすると、どういう仕組みか顔が立体に浮き出てきて、頭のてっぺんから後頭部までグリグリ動かして見ることができる。
「やっぱり魔法って凄いよなあ」
「ですよねえ。わたしも最初びっくりしたんですよー」
自身のカードを取り出したチャイムも、何が嬉しいのか、えへらーとしながら写真をグリグリ回している。フードに隠れてわからなかったが、当たり障りのないショートボブの髪をしている。
「お前、こうして見るとやっぱり小学生っぽ――」
ジワっと悲しそうな顔をしたので慌てて口をつぐむ。
「ほらーほらー! ウチのもー!」
ここにも楽しそうなヤツがいるな。
「それより、次はどうすんだよ」
「無視しなやーーーーッッ!」
「あ、あの……討伐のメンバー候補を捜しに行きたいんです。今のままじゃ、まだ全然戦力にならないので」
ツッコミをいれるファーファを気にしながらチャイムが提案する。
「アテはあるのか?」
チャイムは少し、ふにゃ……とした顔をすると、はい……と答えた。
「その方も転移者なんですけどね……」
目線を外すのがどうも気になるが。
「魔王側も今回の勇者との戦いで壊滅状態になってるしなあ。まだ猶予はあるはずやよ?」
マンゴーのような果物を小さく刻んで渡すと、機嫌を直したファーファがそんなことを言う。
「時間、巻き戻したりしないのか?」
「あれはウチの力があったから連続発動できたんよ。今は疲弊しているし、とんでもない巻き戻しはできへんと思うわ」
「何はともあれ次のメンバーを捜しに行く位しか思いつかないな。その前に――」
■
俺は、4体のスライムと対峙していた。俺の膝上サイズほどのブヨブヨモンスターだ。現場は森を抜けた先の川原。足元のゴロゴロした石がうっとうしい。
「あの……わたしは何をすればいいんでしょう?」
チャイムが不安そうに声をかける。
「と、とりあえず! それ以上何もするな、頼むからッ!」
ふにゃあ、と気まずそうな顔をしているが、気にしていられない。
スライムの1匹がブヨンブヨンと上下に弾み始めた。と、思うとそのままアーチを描いてジャンプしてきた。
「来るぞっ!」
「いゃあああああああああああ!」
巨大スタッフをやたらめったらに振り回すチャイム。
べしっと叩き飛ばすと……スライムは割れて2体に分裂した。5体になったスライムがブヨブヨ近寄ってくる。
「チャイムーーーーッ!!」
「ごめんなさーーーーーいッ!!」
スタッフを振りまわしながら逃げ回るチャイムを横目に、俺は残ったスライムを相手にスモールバックラーをかざしてショートソードを握り直した。
■
およそ30分前。
俺、チャイム、ファーファの3人は街道沿いから離れた森の中を進んでいた。
「よさそうなクエストが残っていてよかったですねー」
えへらーと能天気そうな表情でチャイムが後ろをついてくる。
ショートソード、スモールバックラー、そして簡易なレザーアーマーを買ったら、今まで貯めていたバイト代が無くなった。装備関係って思ったより高いのな。
店で値段の安いのと高いのを見せられて、身を護る物にどっちを選ぶのかはお客様のご自由ですから~なんて言われりゃ、安い方を買えないだろう。見栄を張ったわけではない。防具をおろそかにするのは冒険者失格だ。たぶん。
そこで、次のメンバーを捜す路銀を稼ぐために急きょ、冒険者用のクエストを受けることにした。二人でバイトの掛け持ちをするよりハードワークな分、もらえる金がよい。
「回復魔法はおまかせください!」と、自信たっぷりのチャイムもいる。これなら俺でも最低ランクのクエストくらいはこなせるだろうと踏んだのだ。
そんなわけで、森を通り抜けた先の川原に、最近居ついてしまったというスライムの駆除依頼を引き受けた。
「要らなくなったスライムを逃がして、それが増えたってどういうことだよ」
「なにやら都会の方で、レアなスライムをペットにすることが流行っているらしくってですね、癒し、らしいです。見ていると癒されるそうです」
「お金持ちは何考えてんねやろなあ」
「だから、癒しだろ、話聞いてんのか。っていうか、俺の頭から降りろ」
ファーファは俺の頭の上に寝そべり、落ちないように髪の毛を掴んで鼻歌を歌っている。
「気にせんでもええよ。危なくなったら適当に逃げるし」
そこそこしっかりとした胸が頭に当たるから気になるんだよ。
「ファーファ、何度も言ってるが、俺、戦闘経験は無いからな」
「大丈夫やて、魔王の元武器もやってたウチやよ? 経験が違うし!」
この大阪妖精、サラッと怖いこと言うよな……。