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第12話 これが俺の仲間です……



 サワサワと流れる川床で、ずぶ濡れの俺は脱いだレザーアーマーの背中を呆然と眺めていた。


 買ったばかりでもう黒焦げか……。


「あー、しんどー。もう一歩も動かれへん~。チャイム~、お願い~~」

 すり鉢状の爆心地の真ん中。ぽつんと残っていた火口魔具の上にひっくり返っているファーファが弱々しく呼んでいる。


 あの大爆発の中、ギリギリ間に合ったプロテクションで、レザーアーマーの水面から出ていた部分が黒焦げになるだけで済んだようだった。

 とっさに川に飛び込まなかったら、俺はどうなっていたんだろう。


「はぁー、ドラゴンブレスってこんな感じやったよねぇ? ウドぉ、こんなんでよかったん?」

 だから、ウドって言うな。

「お前なあ、俺まで燃やす気か」

「ん? バッファ経由のプロテクションが受理されたみたいやったし、川とびこんでたし、ま、いけるやろーって発動したんやけど?」

「見ろ、レザーアーマーが黒こげだろうが!」

「水の上から出てたんまで、ウチ知らんやん」

 しれっと言うな、暴走妖精め。




「疲れた」

「ですね」

「ウチも」


 ボロボロになってギルドに戻った俺たちは、ギルド付属の食堂の片隅で大きくため息をついた。


「で。なんでこれっぽっちしか、報酬がないんだよ」

「スライム2体分ですからね……」

 二人の今夜の宿と食事代程度のコインが、テーブルに載っている。


「分裂させたんは、ウチらの事情やからねえ」

 ファーファが、身をくりぬいたマンゴーモドキの皮のフチに手をかけて、中から顔を覗かせた。

 山のように積み上げたマンゴーモドキの身とジュースを両手に上機嫌だ。


「だいたい、巨大になったり岩ごとぶつかってくるのか、スライムってのは!」

「せやなあ、スライムの連中にしてはなかなかに荒ぶっとったねえ」

 そばにいたギルド受付のお姉さんが気の毒そうに答えた。

「クエスト依頼がレアスライムだったから、まだ報酬は多めだったのよ?」

 そうだ。スライム2体としては多めの報酬だった。黒焦げのレザーアーマーを買いなおす羽目にならなければ、だったが。



 受付のお姉さんが離れたのを確認して、マンゴーモドキのどんぶり舟に乗って喜んでいるファーファに顔を近づける。

「お前、常識で考えろよ。あの火力はなんなんだよ」

「寝起きみたいなもんやったからねぇ。常識として、魔王の元武器ならもうちょい派手にせんとあかんかったねぇ」

 うんうん、と要反省といった表情をしながら、マンゴーモドキを頬張るファーファ。

 こいつに常識を尋ねるのが間違いだった。


「もう少し火力を低くしてくれんと、こっちの身がもたん」

「でも、魔法のイメージって、バアアンとなって、ギュウウーーってなって、ドォォンって感じやん?」

 俺に同意を求めるなって。

 まさか、こいつって、ああいう大雑把な魔法しか使えないとか……。


「ちょっと尋ねるが、お前がイメージできるものなら再構成(ポリモーフ)できるんだよな?」

「実際に見たり教えてもろて、イメージできたらマネすることはできるよぉ」


 ふと思った。

「何でも開けられる鍵になれ、って言うと?」

「何でも開けられたら、それ鍵とちゃうやん」

 なんでこういうところは、ちゃんと常識的なんだよ……。


 こいつ……効果はやる気次第、レパートリーはひたすら破壊的でオーバーキル(やりすぎ)なファーファって、冒険の役にはたたないんでは……。


 こいつは使えん。まともな奴を仲間にせねば!


「次の仲間を早く捜しにいかないとマズイな……チャイム、どんな奴なんだ?」


 両手でマグカップを抱えてちびちびやっていたチャイムが、ピキっと固まる。


「えー、えとですね。聖バッファ神殿からの情報に拠りますと……その方は素晴らしい知識量をお持ちで、様々な魔法の使い手らしいのです」

「おお、ちょうどいいな!」

 調子に乗って2回でエネルギー切れ、しかもこちらを巻き込むような過剰攻撃しかできない暴走妖精よりかは使えるだろう。


 チャイムがスッと目線を外す。


「ただ、書物庫に籠もっていて誰にも姿を見せた事がないって話でして……前回の呼びかけにも嫌だ嫌だって出てきてくれなかったんですって」

「どうやって連れ出すんだよ、そんな奴!」

「どーんと、お土産の山、見せるとかええんとちゃうっ?」

 お前じゃあるまいし。

「それか、ドア吹き飛ばしたらっ? 隠れられへんやん!」

「お前、ちょっと黙っとけ」

「なにそれ! 今回の功労者(こーろーしゃ)に、なにそれっ!? その扱いはちゃうんちゃう!?」

 マンゴーモドキの汁まみれになったファーファがムキになって目の前に迫ってくる。

 あーもう、汁を飛ばすな。

 チャイムがおたおたと、テーブルに撒き散らされるマンゴーモドキジュースを拭き取っている。


 気が付けば、周囲の冒険者たちが一つ二つ離れたテーブルに移動していた。

 明らかに気の毒そうな視線を俺たちに向けて。



 誰かこのポンコツたちを何とかしてくれ。

 俺にはこいつらを連れて冒険に出る自信がない。


 俺は、汁まみれの暴走妖精と、給仕さんにペコペコしながらテーブルを拭くちんちくりん神官を眺めながら、盛大にため息を吐いた。





 創造・回復関連だけは超優遇(チート)されているらしいが、ポンコツの神官娘。

 世界の構成要素を自分のイメージ通りに変化させる、大阪ノリの暴走(チート)妖精。

 チートをもらいそびれてバイトに明け暮れていた、運動音痴のこの俺。


 前回の魔王討伐になんやかんやで不参加するような転移者(チートもち)たちを仲間にして、時間を巻き戻しチート武器の半分を持った魔王をリセットしに行く。

 そして、この世界の神様の元へ行き、ポカミスの文句を言って謝らせてやる。



 ポンコツ転移者たちの魔王討伐への第一歩は、こうして始まった。




これにて第1章は終わります。いかがでしたでしょうか。私としては楽しく(暴走気味に)書くことができました。楽しみにしていただける作品になっていましたでしょうか。

大阪ノリ、魔法体系など勢いのアドリブとしては自分は楽しめました。続きは書いてみたいですね!

もしよろしければ、ご感想ブクマなどいただけると嬉しいです。続きをどんどん作っていきたいと思います。


それでは、またお会いできることを願いまして!

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