一方通行の両想い
いつからだろう。僕は君が、意外と近くにいることに気づいた。君には届かないだろうけど。僕は、君を好きになっていた。
きっかけは些細なことで、たくさん似たような存在がいる中から、君が僕を選んでくれたのが、ただうれしかったというものだ。
僕が君を初めて見たのもここ、図書館だった。最初はただ、よく来る子だな。とか、本が好きなのかなと思っているだけだった。
意識してみれば、君はけっこう僕の近くにいることが多いみたいだった。
ふとした瞬間に、目が合う気がした。きっと気のせいだろうけど、それでも僕はどこか暖かい気持ちになる。
君と出会ってしばらく経った頃。君は気のせいなんかじゃなく、もっと僕の前にいることが増えた。
そのじっと見つめるまなざしも、ふわりとしたその笑顔も、僕には眩しくて、だけどこれだけ近くで見ることができるのは幸せだった。
君は毎日図書館に来てくれて、僕らは何度もそこで会った。ずっといるわけじゃない君だけど、一日に何回か来てくれる日もあって、僕は君が来るのをいつも待ち遠しく思うんだ。
ほら、今日も。文庫本を胸に抱えてできるだけ早足で。走れない図書館の中最大限急いで、君は僕へと向かってくる。
そんなに僕に会いたかった?
そんなことないとはわかっているけど、希望から僕は聞いてみたくなる。実際直接聞くだけの勇気はないけれど。だって君が好きなんだ。
真剣にこちらを見るその瞳も、ふとほんの少し、わずかな時間だけ触れる手の暖かさも。
好きだって、伝えたいよ。届かないことは、わかりきっているけど。
だから、今のままでいい。毎日のように君が来てくれて、僕を見て笑ってくれる、今のままがいい。
君は僕のこと、どう思ってる? きっと何とも思ってないのかもしれないけど、少しは僕を気にしていてくれたらいいな。なんて思うんだ。
君のいない時間も、君のことばかりが気になる。図書館でしか会えない僕は、君が他の場所で見せる表情を知らないんだ。
他にも、君のことで知らないものはたくさんある。だけど僕らは、ここでしか会えない。でもね、名前も知らない君を、僕は好きになったんだ。いつかもっと、君を知れたらいいな。
僕のことを知ったら、君は驚くかな? 変だよね。本棚が、人間に恋をするなんて。
僕の中、収められた物語にさえそんな話はない。僕にある本たちはファンタジーと呼ばれ、本来なら起こり得ないことも普通に起こるらしいけど、それでもだ。
君が、気づいてくれる日を待ってるよ。
*
わたしは本が好きだ。物語を愛している。とまで言えば大げさかもしれないけれど、とにかく、自他ともに認める本の虫なのだ。
高校に入学した時、図書館が広いことを何よりうれしがる女子高生なんて、それこそ本の中でしか見たことがない。
人並みに友達もいる。成績だって悪くない。人と違うところと言えば、読書に多くの時間を割くせいで、若干マイペースなところくらいだ。
いつからだろう。毎日通う図書館で、視線を感じた。それはけして不快なものではなくて、暖かく見守られているかのようなものだった。というのはお人好し過ぎる解釈だろうか。
図書館に来る時、本を探してみつけて思わず笑顔になってしまう時。ふうわりとした、誰かの気持ちが視えた。
そうだ。人と全然違うところもあるんだった。わたしの目は、愛を映す。
音楽や本など、誰かが愛を込めて創ったものには、それがよく視える。だからわたしは物語が好きなのだ。
ふんわりした、花にも似た何か。他と比べようがないから、曖昧な表現しかできない。
いつもは、誰に向けられた想いかも、誰の想いかもわからないことが多いけど。これだけは、わたしに向けられているとはっきりわかる。
ねえ、あなたは誰ですか。いつか、声だけでも聞こえないかと待ってます。