守の王
守の王」は事の成り行きを見守っていたが、涼音の言葉を聞き不満そうに言い放った。
「低レベルの忍者ふぜいが何をしようと言う?」
「その言葉、その行為。守の和を統べるものとは思えないねぇ。」
涼音がゆっくりと振り向きながら懸念を問う。
「あんた、本当に守の王なの?」
「ぐおおおおおおおおお。」
その問いかけに「守の王」が咆哮する。
「貴様!貴様!貴様~!」
「そこまで我を愚弄するかぁ!!!!」
「守の王」と呼ばれた獣人はその鋭い爪を怒りに任せて涼音に振り下ろした。
涼音はまるで枯葉が舞うようにその爪をすり抜けると、親指で石を弾いた。
その石はゆっくりと弧を描きながら獣人の目に吸い込まれる。
「うがああああああぁぁ」
獣人が痛みに叫ぶ。
「き、貴様なにをした?」
涼音の顔はいたずらっ子のそれになっていた。
「やだなぁ、石っころが眼に当っただけじゃない。」
「それとも、レベル2のカスが投げた石も避けられないのかなぁ?」
カス呼ばわりを相当音に持っているようだ。
「貴様ぁ!!」
獣人が涼音に向かって必殺の爪を飛ばす!
涼音に後20cmのところでその爪が何かに阻まれる。
「?」
獣人は続けて2撃、3撃を繰り出すが同じように涼音には届かない。
「くっ、結界か?」獣人が呟く。
「はぁ?」
涼音は困った顔をして答える。
「結界じゃないよぉ。これなんだか判る?」
手のひらに石を載せて獣人に見せる。
「封魔石だと?」
獣人はその石を見て叫ぶ。
「そんな物が我に効くと思うか!」
最後まで答える前に激痛が獣人を襲う。
「ぐがあああああああああ!!!!」
獣人の周りに結晶が現れ始める。
「な、何故発動する?」
「何故レベルの低いお前がぁ!」
獣人が抗いながら叫び続ける。
「封魔石はレベル差が3倍以上のものにしか効果が無いはずだ!」
「まさか!」
「貴様!」
涼音に向かって手を伸ばそうとするが、身の回りを覆う結晶に阻まれる。
ベキ、ガキョ、メキメキ。いやな音が聞こえる。
「ぐわああぁ!」結晶が縮み始め、身体が強制的に収縮される苦痛が全身を襲う。
涼音はポツリと呟く。
「本当に見えないんだ?」
収縮していく獣人の前で涼音が「保護」を解く。
「ほら、保護を消したよ、見える?」
獣人は薄れいく意識の中で「涼音」を「識別」する。
「司祭レベル四十八?」獣人が呟く。
それは愛華も識別できた。
「何その常人離れしたレベルは?」愛華が思う。
「そう、そしてあんたはレベル八十二のワーウルフ。」
涼音がぼそりと呟く。
「レベル差は5倍位かな?」
既に30センチに縮まった結晶の中からかろうじて声が届く。
「そうか、聞いたことがある。若干15歳で僧侶レベルを極めたものがいると。」
「お前だったのか。」
ガキョ!
その声と同時に封魔石が完成した。
涼音はふたたび「保護」をかけると5㎝大に収縮した封魔石を拾い、愛華に向かってブイサインをした。
「守の王ゲットだよ!」
愛華はそのやり取りをかろうじて認識していた。
「涼音・・・凄いな。」
頭はまだふらふらするがかろうじて立つことは出来た。
守るつもりが守られていたことを痛感する。
「涼音。」
「?」
「おかげで助かったよ。」と愛華が言った時、涼音が何かを感じとった。
涼音は森の奥を凝視した。
愛華も同じ方向を見るが何も感じられなかった。
「もう一組お客さんが来るね。」涼音が呟く。