侍の少女
「うわぁ、凄い妖気だよ!」
しかし、お昼中だからとりあえず無視!
この結界なら普通の妖魔には感知できないよね。
と思いながらおにぎりをくわえた時、突然声をかけられた。
「貴様!ここで何をしている?」
「ほえ?」
おにぎりをくわえながら涼音が声の主に振り返ると、長い黒髪をおかっぱにし、侍装束に身をつつんだ少女が今にも腰の刀を抜きそうな状態で立っていた。
その容姿は女性の涼音からみても美しいと思う整った顔立ちをしていた。
「え?何って、お昼ごはんだよ。」涼音は素で答えながら声の主を「識別」した。
声の主は「侍」の少女であった。
「侍」は上位職の中で唯一、「戦士」と「魔術士」の初期レベルがかなり高いもののみが、転職をしなくてもなれる職業種である。
その代償として、レベルアップには他の上位職の約2倍の経験値が必要であった。
涼音は、目の前にいる少女が「保護」をかけていないため、侍レベルは十七だと読み取っていた。
この森のこの階層で単独行動が出来るギリギリのレベルであった。
「保護」をかけていないのは「森」に対する経験不足か、呪詛アイテムなどによる精神汚染が一般的である。
その妖気の源は彼女が腰に帯刀している刀であった。
「妖刀?心を乗っ取られてる?」
涼音の作る結界は妖魔に対しての強度はすさまじい効果がある。
たとえラスボスクラスの妖魔であっても即死レベルのダメージは免れない。
上級妖魔クラスなら、その結界に入った瞬間に自己の存在を維持できない程のダメージを受け、存在が四散する。
妖刀に精神を汚染されているのなら、その結界に一歩足を踏み入れた瞬間に妖刀は木っ端微塵に吹き飛び、彼女の精神呪縛は解放されるだろう。
彼女のためだよね?
涼音は結論を瞬時に下して、「良かったら一緒に食べない?」と答えていた。
「侍」の少女はほんの一瞬何かを考えると「うむ、ご相伴にあずかろう。」と答えた。
「じゃぁこちらにどうぞ。」と涼音が自分の左隣を空ける。
しかし、侍の少女は何の衝撃も受けずに涼音の左隣に正座した。
「あれ?」
涼音が驚愕する。
「なんでなんともないの?」
「?」侍の少女は怪訝な顔をして答えた。
「妖魔用の結界は「人」には無害だと聞いているが?」
「あ、結界はわかるんだ、え~?じゃあアンタ妖魔じゃないの?」
涼音が失礼なことを言う。
「アンタの妖気尋常じゃないけど・・・」
侍の少女は「あぁ」と納得したように答えた。
「この刀は妖刀といわれているものなんだ。」と腰の刀に手を添えた。
「知ってる。」と涼音が答える。
「ほぉ、凄いな。鞘に収まったこいつの妖気に気づくとは。」
「いや、だだ漏れだし。」と声に出さずに涼音が考えると、侍の少女は無謀にも結界の中で刀を抜いた。
うおぉぉぉんと悲鳴にも似た唸りが涼音の耳に飛び込んできた。
「祖父の遺品なんだが、対妖魔相手にはこの方が便利なんでね。」
結界の中でも平気なのは、この少女が刀を完全に手中に納めている証拠であった。
結界が彼女を妖魔と認識していない。
「ふ~ん、じゃあいいや。」涼音はそれ以上関心を持たず言葉を続けた。
「おかかと鮭、どっちがいい?」