表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/90

森には7個の階層と呼ばれるレベルがあり、「人」の世界から「始森」「浅森」「流森」「逢森」「深森」「震森」「黒森」と続き「境森」と呼ばれるところで妖魔の国側の森と完全に分離されていた。

人間界に近い森にも妖魔は存在するが、森には自然の結界があり、レベルの低い「下級妖魔」と呼ばれるものほどその影響を受けないため、浅い森には「下級妖魔」が生息している。


「逢森」ぐらいまでであれば、ある程度武器か魔法を使いこなせれば無傷で帰ってこれる可能性は三割ほどある。(しかし七割は帰ってこれないこともあるってことだ。)

逆にそれ以上進むには高レベルの「集団」でも難しいことであった。


まぁ、涼音のレベルと経験なら単独で「黒森」からも生還出来るだろう。


だから、涼音は今回の「逢森」での原料調達を心安く引き受けた。


しかし、急なことで、本来の「忍者装束」は間に合わない。

涼音はかばんからジャージを取り出すとそれを着た。

胸には涼音の名前がマジックで書かれた布が安全ピンで止まっている。


詩織は相変わらず眠そうにしていたが、理沙から割り箸とスプーンを数本づつ受け取るとカウンターにコップの水で陣を描きその中に受け取ったものを置いて両手をかざした。


まばゆい光と同時に、一瞬詩織の髪の毛が風を受けてなびく。


次の瞬間、カウンターには「忍者刀」が「存在」していた。

質量保存の法則とか、等価交換とか、いろいろ無視したスキルだよね。。

真面目にこの人のスキルってチートじゃないのかと涼音は思ったが、まったく意に介さないように詩織は忍者刀を手に取ると涼音に差し出した。


「ほい、私たちからの転職祝いね!」と言いながら詩織が「忍者刀」を涼音に渡す。


涼音はその刀を受け取ると、鞘から抜いてみた。

するとまるで何年も使い込んでいるように手になじんだ。


忍者刀の特徴であるまっすぐな刀身は素人目に見ても業物であることがわかる。


「ありがとう、しー姉、理沙姉!」と言いながら涼音は腰にその刀を帯びて店を後にした。

もちろんおにぎりも風呂敷に包んでたすきがけで持って店を出た。


「遠足?」とつぶやきながら詩織は再びカウンターに突っ伏す。


理沙はそんな詩織にでこピンを食らわし、ニコニコ顔で答える。


「このままなら店が吹っ飛ぶのは後10分ぐらいだけど?」

「なんだぁ、マジだったのぉ?」

それでも詩織はだるそうに欠伸をしながら涼音が入れたコーヒーを持って店の奥に向かった。


「よしなに~」

なんら悪びれる様子も無く、理沙は自分用に紅茶を煎れはじめた。



-----------------------

森に入ってから一時間ほどが経過していた。

理沙姉に依頼された「窮鼠」は三十匹ぐらいを確保していた。

しかし、「振え狐」がまったく見当たらない。

「おかしいなぁ。」と涼音は思った。

「普段なら30分位で終わるはずなのに。」


確かに森の様子が違っていた。

下級妖魔の気配が希薄になっている。

「!」

何かの気配を感じ、涼音はほぼ無意識に手を伸ばす。

がっしと捕まえたものは妖魔ではなく、「薬」などの材料にはまったくならない野生動物の一種「長耳ウサギ」だった。


「うわ。」またお前か?と思いながら涼音はリリースする。

「ほら、逃がしてあげるよ。」草むらに放り投げると長耳ウサギは一瞬で身を隠す。


釣りで言うところの「外道」の大群に遭遇した状態であった。

妖魔の中でも「振え狐」は極端に臆病な性質で、他の生命体の気配を感じると巣穴からは出てこない。

だが、涼音ほどの高レベルの者が穏行を心がけているのに、その気配すら感じないのは異常なことであった。


「今日はだめかな?」涼音がふっと気を緩めたとき

「ぐぎゅるるる。」

涼音のお腹が鳴った。


そういえばお昼を食べ損ねていたことに涼音は気づいた。

「しゃーない、お昼にするかぁ。」

誰に言うでもなく涼音はつぶやくと、風呂敷包みから学校の購買で買ったミネラル水のペットボトルを取り出して、もごもごと呪文を唱えながらふたを開け、中の水で自分の周りにくるりと2mほどの円を描いた。

更に右の人差し指と中指を眉間に当てて呪文を唱え、最後に力強く「封!」と唱えた。

光り輝く円が涼音の周りに浮かび上がる。

対妖魔用の結界であった。


涼音はその中心に風呂敷を敷き、ぴょこりと座るとお昼に食べ損ねたおにぎりを取り出した。

鮭、おかか、梅の三種類が彼女の最近のお気に入りであった。


彼女用に特に大きく作ってあるおにぎりをひとつ無造作にほおばる。

「ん~~。梅!」

幸せそうにつぶやく。


その時、草むらの影から先程逃がした長耳ウサギが顔を出した。

涼音が食べているおにぎりの匂いに反応しているようだ。

「んふふ、君でもこの結界は越えられないよ。」涼音はつぶやく。

「まぁ匂いは漏れちゃうけどね。」と涼音が思ったとき。

長耳ウサギが何かに反応する。

すぐに森の奥から凄まじい妖気が流れてきた。


「振え狐」がいない理由がこれかぁ?


涼音は左手親指と人差し指で円を作ると妖気が来る方向をその円越しに見た。

上級妖魔クラスの妖気が見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ