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涼音の日常3

「お昼を告げるチャイムが鳴り、教室が再び喧騒に包まれる。

「涼音お昼だよ。」と言う級友の声に反応する。


「ふわぁい。」

隙だらけの顔で欠伸をしながら答える。


級友達は先程の件にはもはや興味を示さず、空腹を満たすことを優先していた。


既に教室ではあちこちに手弁当を広げているものがいる。


弁当の準備などしていない涼音はゆらりと立ち上がった。

チャイムが鳴って既に数分が経過していた。

この時間では学食の人気メニューは既に売り切れているだろう。


寝ぼけてのーっとした状態のまま涼音は購買に向かった。


購買の前は生徒たちが人気のパンを手に入れるため、いつものように戦場になっていた。


「焼きそばパンと牛乳!」

「カツサンドとコーンスープ!」

「おにぎりとコーラ。」

生徒たちが思い思いのメニューを告げながら料金を差し出すと、購買のお姉さんは神業のように握られた硬貨と商品を入れ替えていく。


未だ生徒でごった返している購買の前に涼音が来ると、購買のお姉さんは目ざとくその姿をみつけて叫んだ。

「涼音ちゃん、いつものかい?」


「コクン」と無言で返事をすると紙袋がふわりと飛んできた。

中身は涼音の定番、おにぎり三個とミネラル水。


それを受け取ると定価分の小銭を金庫に投げ入れ、涼音は午後の居場所に行くことにした。


教室にカバンを取りに戻ると案の定。級友たちに囲まれた。・

各々期末試験の対策問題を持ってきている。

涼音はいつものことだよね、と思いながら各々の設問に答えていく、

それは午後の授業が始まるまで続いた。



やっとクラスメイトから解放されたときには、お昼を少し回っていた。


学校には通学している事実さえあればいいので、涼音は午前中だけは教室に「いる」ことを約束していた。

ただし特別な行事がない場合は、午後からは自由時間にしている。

普通の日の午後は涼音が姉さんと呼ぶ女性ひとがやっている喫茶店「道楽亭(愚者の頂)」に行くことに決めていた。


その店「道楽亭(愚者の頂)」は涼音の通う学校から徒歩5分ほどの場所にあり、人通りの多い通りに面してはいたが、少し奥まった入り口と、およそ喫茶店とは思えない造りの門構えから、まず一見の客は入ってこれない店であった。


「カランカラン」と言うドアベルの音とともに涼音は店内に入り、身構えた。


「・・・・?」


「あれ?」


「いつもの攻撃が来ない?」


「普段なら涼音の来店を知ると飛びついてくるバイト娘がいる時間なのに?」と涼音は思った



店の中にはカウンターに先客が一人だけいた。


その姿を見て「お早う、しー姉。」と涼音が挨拶をすると、「んぁ。」と挨拶とは思えない返事が返ってきた。

「しー姉」と呼ばれた彼女の名は「詩織」。


涼音が姉と慕う一人。

上級職のひとつ、「錬金術師」を17歳で取得した、この世界で「最上級の五人」と呼ばれる一人である。


しかし、喫茶店のカウンターでごろごろしている普段の姿からは一切そのような立派な人物には見えなかった。


その彼女がちらりと涼音を見てつぶやいた。


「んー・・。忍者レベル2。」(一般の転職は当然レベル1からのスタートになるが、いきなりレベル2になっているのは、涼音に忍者適性もあった証拠である。)


「げっ。何でばれるかな?」と涼音は思った。

涼音はこの店の人間を驚かそうと思い、街中なのに「保護」を自分にかけていた。


「保護」とは、自分に与えられる物理的なダメージや自分の能力値等を言葉通りに保護する上位魔法である。


「最上級」の冠は伊達じゃないね。と涼音は思った。

「今日、転職の許可が出たんだ。」と涼音が言うと、詩織は


「りははひふものとおりはから、ひふんへへきほーにゃ」と意味不明の言葉を発した。


完全に寝ぼけている。


「理沙はいつもの通りだから自分で適当に。」と言っていると涼音は日ごろの経験から読み取った。


涼音が「理沙姉」と呼ぶ女性(ひと)は、この店のオーナーであるにも関わらず店をほったらかしにして、奥で何かの薬の精製をしていた。


まったく。

いつも思うんだけど喫茶店で儲ける気はあるのだろうか?

「ないんだろうな。」


涼音は心で突っ込みを入れると、手馴れた手つきでコーヒー豆をミルに入れてガリガリと挽きはじめた。


この店では、常連客が自分好みの飲み物や軽食を自分で勝手に作り、材料費(しかもほぼ原価)のみをレジに入れるシステムが確立していた。

(いや、常連以外の客が来ることは稀であり、たとえ来たとしても直ぐに常連化してしまうのだが。)


この店のオリジナルブレンド豆をドリップで濃い目に入れるのが涼音の好みであった。


いつものように2杯のコーヒーを入れると1杯は詩織の前に置き、レジを開けてコーヒー代を収めた。


「てんきゅ。」

と言いながら詩織はカウンターに突っ伏したまま器用にコーヒーをすする。


涼音は詩織の横に座り、遅い昼食をとろうと購買で買ったおにぎりをかばんから出そうとしたが、そのとき。


「まいったぁ!」

絶妙なタイミングでこの店の主人、「理沙」が店に現れた。


詩織はまったく関心を示さない。


「どうしたの?理沙姉。」いやな予感はしたが涼音は疑問を投げかけた。


「実験の材料が足りなかったんだよ。しかも熟成が進んじゃってるからこのままほっとくとめちゃまずいことになりそうでさ。」と理沙が答える


「まずいこと?」涼音が問う。


「この店ごと吹っ飛ぶ。」と理沙は冗談のように答える。


こんな街中でなんてものを作ってるんだこの人は!

と涼音は思ったが、いつものことかと思い直した。


「何を捕ってくればいいの?」ため息混じりに涼音が聞く。


「「流森」にいる「窮鼠」と「逢森」にいる「振え狐」を数匹づつ。」

と理沙姉はにこにこと答える。

「転職したての腕試しってことで。」


うわぁ、このひとにも見抜かれてるよ?

「はぁ、私の術って効果薄い?」と思いながら涼音は理沙姉に問いかける。

「バイト代ははずんでくるよね。」


理沙姉は更ににっこりと微笑んだ。


涼音は煎れたコーヒーを一気に飲み干し準備を始めた。


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