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涼音の日常2

教室の喧騒がドアの開く音で静かになった。


屈強な体つきをした教師が「えへん」と咳払いをしながら教室に入ってきた。

太い首と鍛え上げられた身体から体育会系の教師であることが推測できる。


教壇の前にずかずかと進むと「じろり」と教室を一瞥し委員長とおぼしき生徒に顎先で挨拶を要求する。

「起立!」

指名された生徒が発声した。

「礼!」

教室中の生徒が頭をたれた。

「うむ。」

と挨拶ともとれる声を発して教師はいすに座る。

「着席!」

の声と同時に教室中に椅子と床がずれる音がし、すぐに静かになった。

「では、出席を取る」

「秋月」「はい」

「飯山」「へい」

・・・

「鳥谷」「はいな。」

・・・

教師に名を呼ばれたものがそれぞれ返事をする。




出席も終盤になり、教師がその名を呼んだ。

「結衣」

・・・

「結衣涼音!」

・・・

「ふむ」

と言いながら教師が出席簿に何かを記入しようとしたとき教室後部のドアが開かれ、一人の少女が入ってきた。

「すみませーん、遅くなりましたぁ」


涼音である。


教師は一瞥したが、何事も無かったように出席簿にペンを走らせた。


「出席」


涼音は自分の席に座りながら周りの級友に小声で朝の挨拶をし、机の中から愛用の枕を取り出すと堂々と寝始めた。

それが日常なのか、ほかの生徒もほとんど気にも留めていない。


あろうことか、その行為を止めるべき教師も当たり前のように何も言わなかった。


100年に一人の天才と言われる彼女は、僧侶のスキルとは別に一般の学生が大学院で習う内容までを数年前に履修している。


彼女は勉学をするために学校になど来る必要はまったくないのであるが、この学校の理事長から学校の格を上げるためにと懇願されて通学しているのが事の真相であった。


当然、並みの教師レベルの知識では彼女の足元にも及ばない。

そのため、授業中は「教師のために」寝ているのが彼女のやさしさでもあった。

ホームルームが終わり、教師が教室を出ようとしたとき、ふと気づいたように涼音に声をかけた。

「あー結衣?」

「ほえ?」

既に寝かかっていた彼女は呆けたように返事をした。


「転職の件、許可が下りたと連絡があったから、後で事務までいって所定の手続きをするようにな。」


「ふあぃ。」


興味がなさそうに返事をする彼女に、肩をすくめながら教師が教室を出た。

その瞬間、教室がどよめいた。


「転職?」

「そういったよな?」

「ざわ、ざわ。」



「す、涼音?」

彼女ととりわけ仲の良い女生徒が涼音に声をかけた。


「んー?」

やはり気のない返事。

そんなことは気にせず女生徒は続けた。


「え、と?いま転職って聞こえたけど?」

「んー。するよぉ。」


どよめきが喚声にかわる。


「まじか?」

「何に転職するんだ?」

「っていうか、16歳で転職ってありえなくね?」


転職とは今まで積んだ経験値をすべて使用して行ない、下級職への転職でも必要な経験値は普通の人間なら取得に30年ほどかかる経験値量が必要である。


「何になるつもり?」

先程の女生徒が質問する。


欠伸をしながら涼音が答える。



「忍者。」



「うぉぉぉぉぉ!」

もはや教室内の生徒はほぼ全員が叫び声を上げている。



「忍者」

人間が転職可能な最上級職のひとつ。

普通の人間がその職業へ転職するには気の遠くなるほどの年月か、涼音のような才能が必要であり、その職業の存在そのものがもはや伝説となっている。


涼音には天性の特性があり、僧侶レベル50への到達年齢が13歳と、ここ数十年でもトップクラスであった。

でもその程度の力を過信して「森」に挑んだ結果、姉と慕う人を「森」に置いてきてしまった。


涼音は僧侶系のスキルをいくら取得しても、もう「そこ」には行けない事を知り、「そこ」に行くための能力スキルを取得する最短の方法を模索した結果が「忍者」であった。


現在の涼音の僧侶レベルは「司祭レベル四十八」であり、

僧侶のレベル四百八十に相当する。

僧侶系の更なる上位職であり、最終職の「法王」にも無条件で転職可能な経験値である。

転職をしても経験値こそなくなるが、取得したスキルは引き継げるので可能であれば転職をしたほうが有利である。

ただし、最終職に転職を行なった場合は、そのスキルレベルのいわゆる奥義を取得し、以降他の職には転職できなくなる。

それゆえ一般人の転職には人生を掛ける必要があった。


教室の喧騒は一時限目を告げるチャイムが鳴るまで続いた。


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