5 塾通い
見学に行った中からハルキが選んだのは、とある大手塾だった。
体験授業の理科の実験に、いたく興味をそそられたようだった。
さっそく手続きを済ませて入塾テストを受けると、ハルキは上位のクラスに振り分けられた。
「これまで塾に通ったことがないのにこれだけできるのはなかなかです、どうぞ息子さんを褒めてあげてください!」
塾長の言葉にこちらもすっかり有頂天になる。
「小日向君、塾行ってるんだって?」
「一番上のクラスなんでしょ? 頭いいよねえ」
噂を聞きつけたママ友たちの耳触りの良い賞賛に、野球チームでズタズタにされた自尊心がようやく息を吹き返す。
ハルキはダメな子だったわけじゃない、野球が合わなかっただけなのだ、敗北感を抱く必要などない。
いや、これなら逆に、わたしたち親子をぞんざいに扱った奴らを見返してやれるではないか。
わたしは胸の中で、こっそりほくそ笑んだ。
4年生からは学童保育がなくなるため、ハルキは毎日ひとりで誰もいない家に帰り、週に2回電車で塾に通うことになった。
忘れ物をしないだろうか。
カギをかけるのを忘れたりしないだろうか。
遅刻せずに行けるだろうか。
宿題をちゃんと終わらせられるだろうか。
心配で仕方なかったわたしは玄関のドアに目立つ色で注意事項を貼り付け、1週間のスケジュール表を作り、どの宿題をいつやれば間に合うかまで書き込んだ。
しかしハルキはそんなものまったく無視で、家を出る直前に慌てて宿題をやっつけ、ギリギリで塾に滑り込む。
ハルキのそういうやり方は、わたしをますます不安にさせた。
そもそも普段からハルキの部屋は、足の踏み場もないほど散らかっている。
何度か片付け方を教えようとしたが、そのたびにわたしの手元をただ眺めているだけで、決して自分から動こうとはしないのだ。
「ほら、ハルキもちゃんとやって!」
「うん、やってるやってる」
明らかに面倒臭そうなハルキの態度に腹を立てながらも、そのままにしておくことができずについつい手を出し、結局わたしがほとんど片付けてしまうという繰り返し。
「やればできるはずなのに、どうしてもっとがんばらないの?」
ヒステリックに詰め寄ってもなおのらりくらりとかわすハルキをどう扱っていいかわからずに、苛立ちばかりが募っていく。