4 武器を探す
仲間外れのハルキの姿は、自分の子供時代をまざまざと思い起こさせた。
見下され一方的に踏みにじられ、空気の抜けたシワだらけの風船みたいに音もなく心がしぼんでいく。
もう野球などやめさせよう、こんな想いをしてまで無理に続ける必要などない。
しかし、自分が置かれた状況がわかっているのかいないのか、当のハルキはこのままでいいと言う。
「別に、楽しいし」
能面のような表情で答えるハルキ。
が、それが彼の本心だとは、どうしても思えなかった。
わたしは夫と相談し、半ば強引に野球をやめさせることにした。
親のエゴかもしれない。
しかし、わが子がないがしろにされる姿も、前向きな言葉とは裏腹の生気のない目も、それ以上見ていられなかった。
「ハルキ、人にはそれぞれ才能があるんだよ。
たとえば辻くんは野球の才能があるだろうから、それを伸ばしていったらいいと思う。
でもね、はっきり言ってハルキには、スポーツの才能はあまりないと思うんだ。
だから、そこにエネルギーを注ぐよりも、ハルキはハルキの得意なことを身につけて、武器にしたらいいんじゃないかな」
「……俺の得意なこと?」
夫の言葉に、ハルキの瞳がかすかに揺れる。
ピアノ、書道、英会話、体操。
いわゆる一般的な習い事に、これまでハルキは全く興味を示さなかった。唯一通ったスイミングも長続きせず、好きだった読書もいつのまにかゲームに取って代わられ、自分から本を手に取ることなどなくなっていた。
そんなハルキだが、ひとつだけ得意なものがあった。
勉強だ。
塾に行くわけでも親が教えるわけでもなかったが、学校の成績は常に上位だった。
ハルキはきっと、運動や音楽や絵よりも、勉強が得意な子なのだ。
知的好奇心をうまく刺激してあげれば、学ぶことが楽しくなっていくに違いない。
そんな希望的観測にすがりつき、わたしたちはハルキに塾に通うことを勧めた。
4年生からは学童保育もなくなる。毎日ひとりで留守番しているよりも、行く場所があったほうがいいよ。勉強はわかると面白くなるし、自信がつくから。
畳みかけるようなわたしたちの言葉に、最後はハルキも渋々首を縦に振った。