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33 呼び出し

 ハルキの学校から呼び出しを受けたのは、冬休み明けのことだった。

 今後の方針を話し合うのだという。


 今ハルキは、特進クラスのそれも特待生。

 もちろんこの状態で来年も授業料免除など受けられるはずがない。


 だから1番の問題は、4月からのクラスをどうするかだった。


 多くの中高一貫校では、中高6年間の学習内容を5年間で終わらせて、最後の1年間を丸ごと大学受験の準備に充てる。当然授業のペースは速く、さらに特進クラスともなると内容もかなり高度で課題も多い。


 今のハルキはほとんどそれについていけず、ついていこうともしていない。


 しかし、今ならまだ挽回の可能性がまったくないわけではない。

 何より、クラス落ちすることで完全にやる気を失い、それをきっかけとして本格的な不登校になることを学校側は心配しているようだった。


 それで、冬休みにハルキが最も苦手とする英語の課題を出し、面談時にその結果を見てこれからの方針を考えるということになっていた。


 不登校になっても仕方がないと、腹をくくったつもりでいた。が、こうして少しずつ崩れていく現実を目の当たりにすると、いつの間にか以前と同じ葛藤に引き戻されてしまう。


 どうしてこんなことになってしまったの?

 せっかく入った学校なのに、どうしてこの子はみんなのようにがんばれないの?


 心のどこかで『おまえは母親失格だ』という声がする。

 ハルキがこうなったのはおまえの責任だ、と。

 その声が無数の針となって心臓を突き刺し、息が止まりそうになる。


 だがおそらく今回の面談は、わたしたち親子にとっての正念場。

 ハルキはきっと確かめようとするはずだ。


 ――家では「いいよ」って言ってくれるけど、他人の前でも同じことが言えるの? 先生に何か言われたら結局手のひらを返すんじゃないの?


 ハルキが小学生のとき、何か問題を起こすたびにわたしは教師にペコペコ謝り、「どうして先生に言われたとおりにしないの」と彼を責めた。


 今思うと、間違ったことが許せなかったわけでなく、きちんとしたいい母親だと思われたかったのだ。きっとハルキはそのことを感じていたに違いない。


 いつだって気がつくと、いい子、いい母親、いい妻、いい部下でいようとしてしまう。

 それはきっと、見捨てられるのが怖いから。

 いい子でなければ愛されない、無意識のうちにそう感じている。

 だから今も、ダメな母親だと思われるのが怖くて、気がつくと先生におもねり受け入れてもらおうとしてしまうのだ。


 しかし、どんなハルキも受け入れるということは、「正しさ」や「常識」よりもハルキの気持ちを優先するということだ。


 たとえ先生に非常識だと呆れられたとしても、本人に任せると言い切る。


 そうでなければハルキは瞬時に固く心を閉ざし、もう二度と関係を修復することはできなくなる、そんな気がしてならなかった。


 もういちど、腹をくくろう。

 先生にどう思われようとも、何を言われようとも構わない。

 どんな結果になったとしても、ハルキを信じて任せよう。



 冬休み最後の日、夜通しゲームをやっていたハルキは、台所で朝食の用意をしていたわたしの背中に、「にゃ~」と甘えながらくっついてきた。

 そして朝ごはんを食べると、ごそごそとわたしのベッドにもぐりこみ、そのまま眠ってしまった。


 わかっている、ハルキがこういう行動をとるのは弱っているときだ。

 何でもないような顔をしているけれど、きっとわたし以上に不安でいっぱいなのだ。


 ごめん、お母さんは自分の気持ちで手一杯だった。

 こんな情けない母親だけど、それでも絶対に、君の味方でいるから。

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