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13 過去の想い

 わたしに足りなかったのは、ありのままのハルキを認め、許すこと。

 指示や評価ではなくて、想いを丸ごと受け止めてあげること。


 だが理屈ではそう思っていても、実際にやるのは想像以上に難しかった。


 ハルキの話に耳を傾けようとしたときの、身震いするほどの抵抗感。

 他愛のないおしゃべりさえもひとつひとつ正しさの枠に当てはめて、些細な悪戯や過ちも許せず叱りつけてしまう。

 頭ではわかっているのに、心が自動的に拒絶する。

 子どもらしい愚かさをおおらかな気持ちで見守ることが、なぜできない?


 >あるお母さんにとって簡単にできることが、別のお母さんにはとてもできません。あるいは大変な労力を払わないとできません。このちがいは、自分が幼い頃に、それをしてもらったかどうかによって生じます。(「お母さんはしつけをしないで」P171)


 ああ、そうか。


 物心ついたころから、わたしが何かいうたびに決まって顔を歪ませきつい口調で否定した母。


 わかる

 認める

 受けとめる

 許す

 包み込む


 何もかもが、してもらったことのないことばかりなのだ。


 あの家が、そして母が求めていたのは、わたしという子どもではなく大人の言うことを素直に聞くいい子。

 ありのままのわたしは愛されない。

 いい子でなければ受けいれてもらえない。

 心の奥深くに刷り込まれた信念はそのままわたしの一部となって、常にわたしを追い立ててきた。


 いつもどこかで声がする。

 もっとがんばれ、努力しろ、そうしなければ見捨てられる、と。

 そうやって自分を追い込み苦しみながら生きてきたわたしが、ハルキの子どもらしい弱さやずるさや未熟さをそのまま許せるわけがない。


 >お母さんたちが闘うべき相手は、しつけようとする子どもなのではなく、自分の中にある信念です。(同書P57)……子どもの問題に取り組むということは、じつは自分自身の中に置き去りにされた過去とのあいだで折りあいをつけようとすることなのです。(同書P148)


 ありのままの自分を受けとめてもらえなかった子どものわたしの、淋しさやつらさや憤り。

 わたしはそれらの感情を、頑丈な箱に詰めて心の奥に追いやった。

 だがそれは、決してなくなったわけではないのだ。


 ゆっくりと変質し固いしこりとなった過去の想いが、わが子へと豊かに流れるはずの水路をせき止めている。

 わたしたち親子を隔てているものは、凝って歪んだわたしの心。

 それと向き合い、ありのままのハルキを受けとめられるようになることが、この苦しみから抜け出す唯一の道なのだ。

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