第3話 早くもサブタイで詰まったのでお前を使う事にする
先程まで浮かれていた頭を思いっきりハンマーで横殴りするかの様な衝撃を与える言葉を耳にした俺は頭がが真っ白になるとはこの事かーと再び現実逃避する前に耳が拾った言葉で無理やり現実に引きずり出された。
『おい、小僧?聴こえてんだろうが、さっさと此処を開けろって言ってんだよ。
この魔王オルタ様の肉体として有効活用されんだから文句なんかないよな?
あ、間違っても逃げようとすんなよ?逃げた所で外に待機している俺の部下がお前を捕らえるだけだろうがな?』
「…に、逃げませんよ。そもそもここから出られない状態で何処に逃げるって……?」
…ん?今この魔王なんて言ったの?さらっと名前がオルタって言うらしいがそんな事はどうでも良くって、今外に部下が待機してるって言った…よな?
ここに来るまでに廃墟は見かけたけどこの人の言う部下だの何だのは見かけなかったが、この地下にはまだ誰か居るんだろうか?
それなら暗いのは怖いが魔王オルタも居る事だしさっきよりマシだな、ちょっと探索してみるか。
会話、それは人の心を解きほぐす心の清涼剤なのだ。
「えっと…魔王オルタ…様?ちなみにお聞きしたいんですが部下の方はどちらに…、急に私の身体で部下の前に現れては警戒させてしまうかも知れませんので事前に面会させていただきたいのですが…」
取り敢えず出口か何か知っているならそれに越したことはないと思いオルタに話を聞く事にしたのだが返しの言葉に自分の目から光が消えていくのが分かった。
『ん?おお、殊勝な心がけだな。だが部下ならこの城の至る所に居ただろう?貴様も俺の復活の為に尽力していた木っ端魔族なんだろう?封解鍵を見つけ出してきたんだしな。貴様の親族なら好待遇で魔王軍に士官出来るようにしてやるぞ?』
…城?いやいや廃墟でしたが?そもそも人っ子一人居なかったし、この世界で俺に親族なんて居ないぞ。居ないよね?………なんかおかしくないか?もうちょっと探ってみるか。
「あの、魔王様。ここって城の地下ですよね?私は先程上の謁見の間っぽい所から崩落に巻き込まれてここに来てしまったのですが、地上では部下の方にお会い出来なかったのです」
一先ずここに来るまでの経緯を簡単に述べた俺に対してオルタがどう反応するのか見てみるか、封印されているうちは何もできないみたいだし、ちょっと怖いが手が出せないと言うだけで安全ではあるしね。
それよりも明かりが欲しい、切実に。
『…』
だが俺の言葉を聞いたオルタは会話のキャッチボールを返してくれなかった。顔が見えないから何とも言えないがどこか様子が変と言うか内心焦って居る様な感じがする。
おい、なんか言ってくれ暗闇さんが見てる。
「あの…」
『…おい、ここは魔王城の最上階の筈だぞ?地下な訳がないだろう…。そもそもだ、部下が1人も居ないなんてある訳ないだろう?奴らは俺に全てを捧げてきた信頼のおける部下達だ。たかだか数千年封印されて居る間に消えるような奴らじゃ…え、マジ?』
…いや流石に数千年は当時の魔族の人たちもいないんじゃないかなぁ、魔族の寿命がどんなものなのか分からないけど外の荒れ果てぶりや元が最上階だった封印場所が地下にある時点で何かあったのは目に見えてるし…というかこの会話で分かった、大変重要なことが分かったぞ。
こいつもポンコツ残念魔王だ!!
「なんなんだよ!魔王って残念魔王しかいないの!?かなりビビってた俺が恥ずかしいよ!!」
『おい誰が残念魔王だ!!取り消せ!!そして封印解鍵してさっさと身体寄越せ!!』
「うっさい!黙ってろポンコツ!」
両手で顔を覆いながら崩れ落ちた俺に強気に出たオルタを一蹴し、悔しいのか別の何かなのか目から汗が滲んできた。決して泣いてなんか居ない、これは心の汗なのだ。いいね。
取り敢えず出口はこいつも分からないって事が分かっただけ良しとしよう、浮島だった事を考えるとここの地面を掘り進めて行っても奈落の底へフライアウェイだろうし、そもそも掘る道具も何も無い。
その前に体力が尽きてジ・エンドってとこだ。…あやしい英語が頭の中に出てきたからいよいよ危ないな。
そんな事をぼんやり考えて居た俺に先程まで『ぽ、ポンコツ…、この俺がポンコツ』とブツブツ言っていたオルタが声を掛けて来た。
『…なあ小僧、貴様の話から察するに俺の国はもう存在しないって事になるよな…魔族は…人族に負けたって事だよな…?』
「魔族が負けたとかの話は分からないけど少なくとも此処はぼろぼろの廃墟だったよ」
『そうか…。なら、もういいか…。俺がここまで封印に抗って来たのは俺の国が…民が居たからだ。
それがとうの昔に滅ぼされているとわかった今、もう俺に抗う気力は無くなっちまったよ…』
「オルタさん…」
そうか、この人は国の為に今まで…。
魔族と人族。その間にどんな軋轢があったのかこの世界に来たばかりの俺には分からないが崩壊させるとまで言っていたのだ、きっと何か大事があったのだろう。
表情は窺い知れないが哀愁を感じる声音を聞いて言葉がでなかった。
『まあ、これが天罰ってやつなのかね?神なんざ糞食らえって考えてたがいざ食らってみると応えんなこれ…。
…んー、おい小僧』
力なく笑っていたオルタが急に俺を呼びつけて来た。
「…なんです?」
『貴様此処から出たいっていってたよな?俺は周りの状況が分からんから何とも言えんが、崩落して来た瓦礫吹っ飛ばせば上に上がれんだろ?』
「まあ、そうですね。それプラス飛行魔法とか浮遊魔法なんかあればベストですけど…。
…封印解鍵して身体明け渡すのは無しですよ?世界崩壊なんて俺は願っても無いですもん。復讐とかもノーセンキューです!」
『バカ言え、今更んな事考えっかよ!てか飛行魔法も使えないのかよ…今の魔族弱体化しすぎだろう…』
そもそも俺魔族じゃ無いと思うんだけどこれは言うと話拗れそうだな、人族に思うところあるだろうし。
『まあいいか…。おい小僧、封印解鍵はして貰うぞ?貴様が助かるにはそれが一番だ。ただ安心しろ、今更身体寄越せなんて言わねぇよ。貴様に必要な「力」って奴をくれてやる』
「力…ですか?」
おお!?これって所謂チート能力譲渡イベントって奴!?コレだよこれ!折角小説みたいな異世界ファンタジーだってのに全く何もなくて糞ゲー!!って思ってたがここまでの布石って奴だったんですね!?
良かった!ファンタジーさん仕事しないのかと思ったぞ!
「ど、どうすれば!?何すればいいですかね!?魔王様!!」
『お、おう、なんか急に元気になりやがったなこいつ…。まあいい、先ずは封解鍵を頭に翳してこの部屋にある封印の要石を探せ。鍵が本物なら位置が分かる筈だ』
「えっと…、こんな感じかな?」
小さな鍵を頭に翳し、ゆっくり周りを見渡してみる。この暗い中で要石ってのを探すのは中々骨が折れそうだなと考えたところで思考にぼんやりと霧がかかったような感覚を覚えた。
「な、なんだ今の…」
その霧を振り払う様に頭を振り、意識をしっかり取り戻したところで先程まで感じなかった違和感を感じる様になった。
これが位置が分かる様になったって感覚なのかな?暗闇の中でぼんやりと光を放つ岩を見つけることが出来た。
おお、どんどん非現実っぽい事が起きてる!え、でもこの岩怖っ、なんか文字がびっしり彫ってあるんですけど!?
『要石は見つけたようだな。ってことは本物だったって事か…。運がいいのか悪いのか…。まあいいか、要石さえ見つけて仕舞えば後は簡単だ。その岩に触れれば鍵穴が現れる、後は言わなくてもわかんだろ?』
「は、はい!」
要石に近ずくにつれ、刻んである文字が輝きを増すかの様に発光を始めた。生唾を飲み込みながら歩を進め手を要石に置く。すると刻み込まれた文字が輝きを失い、代わりに岩の丁度中心部に小さな鍵穴が現れた。
「オルタさんいきますよ?」
『ああ、頼む。……………………こいつの事、頼んだぜ小僧』
「え?」
鍵を差し込み、捻った所でオルタが何かを言った様だが聞き取れなかった。
封印解鍵が成功したせいか、要石は役目を終えた様に内側から光を放ちながらボロボロと崩れていく。
光の中で見たことの無い男性が此方を見ているのに気がついた。月の光の様に輝く外ハネロングの銀髪に見て居ると吸い込まれそうなしっかりとした決意を感じさせる切れ長の碧眼、がっしりとした長身の体躯の男はつい最近見た誰かに似ている気がした。
その鋭い視線と俺の不安そうなヘタれた視線が交わると、男は『フッ』と笑い、声は聞こえ無いが何事かをつぶやく様に口を動かしまるで光の中に溶けていく様に消えていった。
次第に光は収まり後に残ったのはボロボロな布切れに突き刺さった一本の錆びて使い物になりそうもない剣だけであった。
「…あれ?オルタさん?封印解鍵したんですけど何も起こりませんよ?オルタさーん?」
数分様子を見ていたのだが何かが起こる様子は一向に感じられず段々不安になって来た。いやいや、まさかオルタさん居なくなってるなんて事ないですよね?さっきの男の人じゃ無いよね?まだ超最強なチート能力とか貰ってませんよ!なんも説明もないまま放置されても困るんですが!?こんな錆びた剣で瓦礫掘れとでも言う気か?無理無理ムリむりごめんこうむりですよ!
「と、取り敢えずこの剣とか回収しろって事なのかな…。ってかこの状況また一人ぼっちオンラインじゃないの?幸いこのボロボロの剣が光ってるから良いもののそろそろ俺の涙腺と膀胱が決壊するぞ?…………んん??」
今俺なんて言った?剣が光ってる!?うえ、何この剣所謂伝説の剣みたいなとんでもないものだったりするのか?なんてRPGのお約束みたいな展開!いいぞもっとやれ!
余りの急展開に大変混乱しながらもご都合お約束展開に胸を膨らませていると、手に持っていた錆びた剣からガラスにヒビが入った様な音と同時にノイズ混じりの機械音声の様なものが脳内に響いて来た。
『……前マスター…オル……フィー…の反応…スト、前マスターの設定により…新たな…スター登録を開始…ます。魔力測定開…、……完了、同…開始………シンクロ率上昇、最適…開始、アクティベート。最適化に伴い形状変化を開始します。…エラー…新たなマスターに魔力回路が存在しないため形状変化を開始出来ません。回路形成の為形状変化に並行しマスターの魔力を解放します。』
「はぁ!?え、ちょっと待って意味が………ぎいィ!?!?」
音声がはっきり聞こえる様になって来たと同時に激痛と共に俺の体の中からまるで血が流れ出る様にどす黒い魔力の奔流が渦巻き、噴き出していく。それは次第に大きくなっていく様に際限なく広がっていき、部屋中を満たしても止まるどころか寧ろ勢いを増していった。間欠泉の様に大穴を塞ぐ瓦礫を押し上げ、地上に出てもなお止まらず、巨大な黒曜の柱の様に天を貫いて行く。
その魔力の柱は世界中で確認できた程だと後の世に語られる事になる。なったらしい。
「あ、あ、ぁあああがが………っ!!」
そして俺はあの世に旅立った。
♢
「って嫌だよまだ死んでたまるか!!」
勢いよく起き上がった俺の目に飛び込んで来たのは大穴から見える夕焼け色に染まった空だった。
崩落前に見た空はどんより雲で覆われていた為正確には分からないが恐らく数時間ほど気絶してしまっていたらしい。
ああ、外の光が見れて安心したけどこれすぐ夜になっちゃうじゃん!!暗闇さんが這い寄ってくるのぉ!!
「やっばいぞ、とりあえずここから脱出しないと…あ、そうだあの剣は!?あれだけ痛い思いしたんだ、きっと凄い力を秘めた剣に違いないでしょ!」
慌てて周りを見渡して剣を探す。
このまま夜になってしまったら最悪凍死してしまう、出来れば空を飛んで人里を探すかそれができなければ火を起こして暖をとるなり食料を確保しなければ!あの変な声の言うことを信じるなら今の俺は魔法が使えるはず!これから俺の異世界ライフが始まるんだ、ありがとうオルタさん!何も説明ないままま激痛の伴うチート付与してくれて!消える前に一発ぶん殴らせて頂きたかったよこんちくしょう!!
「まさか魔力の流れと一緒に外に飛んで行ったんじゃないよな…。勘弁してくれよ?魔法どうやって使えばいいのか知らないんだぞ!?………ん?」
涙を堪えながら探していた俺の視界に古ぼけたボロボロの布が飛び込んで来た。なぜかこんもりと膨らんでいるそれはよく見ると微かに上下しているのがわかる。
「え…、何怖…、まさか生体剣みたいな感じなの?てか剣だよね?生き物じゃ無いよね?出来ればカッコイイのがいいんですけど…。グロいのはだめよ。あれは俺に効く。……ソイっ!」
端的に言ってビクビクしながら布を捲り俺こんなに運動できたっけかと思う様な華麗なバックステップで距離を取った俺の目に入ったのはカッコイイ伝説の剣ではなく、ましてや生体兵器じみた脈打つ禍々しい剣でも無かった。
そこにあったのはまるで太陽の様に光る少し赤味がかった金色の長い髪、まるで宝石をそのままはめ込んだかの様な右眼の赤と左眼の青が映える幼い顔、そして今の俺と同じ位の年齢と思われる幼い身体…極め付けに…その…その歳にしてこの物量か!と思わず突っ込みたくなる胸、ああジャスティス。
そんな小さな少女が寝惚け眼でこちらを見ると、開口一番頭の痛くなる言葉を投げつけて来た。
「おはよーぱぱ…!ゔぇるくらんて、ぱぱおこさないようにひとりでおひるねできたの!」
文章力が欲しいorz