表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へたれ魔王の余直し方法?(仮)  作者: ひろ(仮)
3/17

第2話 出会い

これは夢だ、またなにか変な夢をみているに決まっている。

寒空の下、死んだ後に目が覚めたら隆起した鋭い岩山に囲まれた奈落に浮かぶ浮島の上にいたのである。

辺りにはどこかの神殿?城?みたいな大きな建物の残骸というか瓦礫が点々と散在しているのみで、人の気配どころか動植物すらない様だ。


「いやいやいやいや、おかしいって。何ここ?どこの廃墟?俺に廃墟観光するような趣味無いって!」


俺にはたまにいらっしゃる廃墟大好きな趣味なんてないんだ、やけに時代を感じるような割れたステンドグラスの破片とか崩れ落ちそうな元は豪華だったであろう椅子とか錆びだらけな重厚な鉄の扉とか見ても興奮しないんだからね?本当だからね?


「というか、廃墟もだけどこれどうやって向こう岸行くの?百歩譲って本当に転生できたんだとして移動もできないんじゃここでバッドエンド確定なんだけど……」


何たるクソゲーか!と元の世界でのゲームとかでこんな展開だったらコントローラーを窓の外に放り投げるレベルである。てか涙目である。


「って、そうだよ!自称魔王!!あいつどこ行ったんだよ!?こういう時こそ颯爽と説明に入るんじゃないの?!」



そうだった、転生したわけなんだから『俺の嫁』であるあの魔王がいるはずなんだ。なんだったらこんな辺鄙なところも奴の魔法で飛行するなり橋作るなりでどうにかなるんじゃないだろうか?むしろどうにかしていただかないとここで第二の人生が早々に終了してしまう。

しかし悲しいかなここにいるのは俺一人だけのようだ。


「落ち着け、OKおれはCOOL、至って冷静だ。こんな訳のわからないような辺鄙なところで一人おたおたしてられない、そうだろ?」


そう俺は冷静沈着なナイス・ガイ、サバイバル術なんて一切知らないがきっとなんとかなるはずだ。

そもそもここは何処なんだ?ざっと辺りを見渡しても人っ子一人いないしなんだかやけに視界が低いような……?心細くなって見える風景まで縮んだのか?いやいや。


「と、とりあえず回りを探索してみよう。何か脱出の手がかりがあるかも知れないs……っひ!?」



突如ガラガラと大きな音を立てて廃墟を形成している瓦礫が崩れた。ちょっと待ってマジでギリギリだったぞ!?足元まで破片が飛び散ってきやがった。

焦るよ、今裸足だもの。ガラスやら鉄くずなんて踏んだら足がズタズタになってしまう。

自慢じゃないが29歳の割にはとても綺麗なおみ足を持っているのが俺なのだ、数少ない長所をこんなところで潰してなるものかい!


「……?なんだあれ」


なんてそんな豆『俺』知識を脳内で披露してしまったのだが、どうやら瓦礫が崩れた拍子に元謁見の間とでも言うのだろうかやけに尊大な玉座のある開けた場所に通じる道ができたようだ。


しかしながらこんないかにもファンタジーな世界に来てしまったのにまったく楽しめてない、安全が確保できていない状態で能天気に浮かれるほど伊達に歳は食っていないぞ?


一先ず平和な日本のサラリーマンの有って無いような気配感知能力をフルで活用しながら注意深くその広く何処か威厳の感じる部屋にはいってみる。

所々崩れていて、もはや雨風を凌ぐのは難しそうだが最低限冷たい風だけは防げそうなのでここ以上にまともな部屋か建物が見つからなかったら此処を拠点にせざるを得ないな… 。

いや、そもそもこんなとこで生活したくないので誰かヘルプミー!な他力本願状態なんですがね?


「……うわぁ」


部屋の中ほどまで進んでみるとちょうど雲に切れ間でもできたのか、天井に空いた穴から丁度玉座らしき物の辺りにカーテンが掛かったように光が差し込んできた。

先程崩れた時の埃によるものなのか他になにか特別な要素があるのかは分からないが、キラキラと幻想的な光の粒子が舞っている様子はそれだけでここは今までいた日常では無いのだと感じさせるような光景であった。


「なんか…これだけでもファンタジーって感じするなぁ…っん!?」


そんな幻想的な光景に魅入っていた俺の目に玉座の後ろの方で此方を見ている人影が飛び込んできているではないか。第一村人発見である!


「あ、あの!?すみません此処一体どこだか教えてもらっても…いや!ちょっと人の住んでいる所まで案内してもらっていいですか?!というか助けてくださいなんでもしますから!…出来ることだけ」


言葉が通じないことも考えて必死にボディランゲージを交えつつ会話を試みる慌て果てたおっさんの姿を自分で思い浮かべてしまってちょっとへこんだがそれどころでは無い、正に必ず死ぬと書いて必死なのだ。今更出来る男アピールなんかしてどうするのか、こちとらさっき転生したばかりでまだ死にたくないの!


しかし此方の必死の会話も虚しく返事は返ってこない…。いや、相手も此方に必死にボディランゲージで会話しようとしている…?


「えーっと…、これって言葉が通じない感じなのかなぁ…」


取り敢えず逃げられるような様子では無いので恐る恐る第一村人の方に近寄って見ることにした。


先程まで玉座を照らし出していた光で丁度逆光になっていて良く見えなかったが近ずくにつれようやく相手の全体像が見えてきた。

ちょっと跳ねた癖っ毛を短く切った白髪、白く透き通る様な何処か人間離れした肌のまだ10にも満たない様な幼い体、どこか神秘的な感じのする中性的な顔立ち、そして全体的に白のイメージから存在感をフルに主張をしている爛々と輝く紅い眼が此方を覗き込む様に見ていた。


「…っ!あ、あの、君は…………?」


髪型から恐らく少年だろう彼に少し魅入ってしまったが、我に帰り怯えさせない様に声を掛けて見たのだがどこか様子がおかしい。………というかさっきからこの子、俺の動きマネしてないか?

今も俺みたいにオロオロしながら相手の顔チラチラ見て確認しつつ両手右往左往してるし、傍目から見ても冷や汗すっごいな。俺みたいに。任せろ、俺は今手汗もハンパないぞ?




ってか………これ俺じゃね?




「……えぇー……?」


おい、第一村人かと思ったら俺かい!と言うかなんでこんな所に鏡あるの!?余りにも前世からかけ離れた姿だったから、無駄に緊張してただ慌てている自分を自分で見て冷や汗止まらなかったって何これスッゴイ恥ずかしいんだけど!?良かったよ此処に誰もいなくて……いや、良くないです誰か居て!?!?


と羞恥で真っ赤になり鏡の前で転げ回っている美少年俺(中身29歳モブ)。

残念ながら美形に生まれ変わっても中身が残念では意味がない様な気がする。

でも有難う残念魔王、美形に生まれ変わったのは素直に嬉しいぞ!!…あれ?俺も残念で嫁も残念ってだめじゃね?いや、そもそも嫁魔王いい加減出てきて助けてよ!そんなとこも残念だよ!!


「…んへぇ!?」


と鏡の前で残念逃避してどうにか心の平穏を保っていると何か亀裂の入った様な音が部屋中に鳴り響いた。

余りの音の大きさに変な声が出てしまったが、え?なんの音?もしかしなくても逃げないとやばいのでは?生き埋めなんて冗談じゃないぞ!


まるで連鎖するかの様に大きくなって行く音に顔を青くしながら踵を返し、外に向かって駆け出そうとした足がまるで踏み出すのを待って居たかの様に崩れた床に吸い込まれて行く。


「…あ?」


ふとヒビ割れた鏡を見るとそこには茫然と見つめ返す紅い瞳、そしてその瞳はまるで崩壊を始めた世界を体現するかの様に崩れ始めた玉座を目で追っていった。

視線の先は崩れゆく玉座からこぼれ落ちた小さな鍵の様なものを目に入れていた。…何故だろう、あれは無くしてはいけない物の様な気がする。

無意識だろうが倒れこむ様にその小さな手で小さな鍵に手を伸ばす。後10センチ…後5センチ…後…


「と…どけぇ!!」


踏ん張りの効かない足元で体全体をバネにし飛び込む。

きっとこの後は部屋の崩落に巻き込まれるであろう。だがその手は鍵に………………届いた。


「…っし!…っ!?」


ホッとしたのも束の間、降り注ぐ瓦礫の中崩れゆく床と一緒に落ちて行く体を必死に丸め手に掴んだ鍵を握り締める。


どこまで落ちるのか分からないけどこのまま落ちたら本気でやばくない!?怪我だけじゃ済まなくない!?

俺の人生此処でおわりなの!?まだリスタートして1日も経ってないのにそりゃ無いって!!



「う…うぁああああああああああああ!!!」



ようやく脳が現状を理解したのか悲鳴をあげながら目をきつく閉じる。

これから楽しい…かどうかは分からなかったけど異世界での生活が始まるかも知れなかったのに、こんな最初のスタート地点で終わりだなんで人生ハードモード過ぎるだろう!?

せっかく美少年に生まれ変わったんだ!やりたい事だっていっぱいあった!体格的にまだ10にも満たないんだ!もしかしたら温泉で女湯行けるかもしれない!!道行く綺麗なお姉さんに飛びついても怒られないかもしれない!気になるあの子にちょっとエッチなイタズラしても許されるかもしれない………!


…………


「こんな状況でそんなことばっかりなのか俺!?流石に童貞こじらせすぎだろう!?」


余りの出来事に混乱しているのか、それとも前世も今世も叶わなかった願望なのか現状より自分の中身に絶望してしまった。いや…もう…ほんと…もう…。


「もういやぁああああああぁぁああぁあああああああ!?」


現実にも下世話な自分にも絶望しながら暗い穴の底に落ちて行くのだった。






「うぅ…ん…?」


頬に当たった水滴を感じぼんやりと目が覚めた俺が見たのは自力ではとてもじゃないが上がれそうにない大穴、そして塞がれた天井だった。


「知らない天井だ………、知っててたまるか!!んなこと言ってる場合じゃないわ!!っいってぇ…」


勢いよく起き上がった体に走った痛みに顔をしかめつつ怪我の具合を確かめる。

うん、なんとか奇跡的にちょっと額を切ったのと打ち身程度で済んだみたいだ。これで骨折やら片腕ないとか背中の傷とかスネに傷なんてなくて良かった。

いや、駄目だまだ頭は怪我してるな?元からだけど。


「とりあえずくだらない事言って考えられる位には余裕あれば大丈夫………、なわけないじゃん暗い暗いくらい位くらいkuraiクライ………………っ!!!」


待って待ってマッテ舞って!!こ、こんな暗い所で精神保ってられるわけないじゃないですか!前話での下り見て出直してこいよ現実!!!こちとら今は子供じゃ!!肉体に引っ張られて年相応の事するぞ!?いいのか!?元の身体でも遠慮なく出来るぞ!?許して、まだ綺麗なままでいたいの!!


一応少しだけ漏れ出ている光が見えるのでかろうじて真っ暗闇では無いが、生き埋めという閉塞的な空間の中。パニックにならない訳がないのだ、特に俺はな!!

…普通さ?ネット小説とかでこういう状況になった主人公とかってやけに冷静に『ふむ、閉じ込められたか』とか呟いたり『転生した時に精神力もタフになった様だな』とかやけに説明的なことするじゃん!!

なんで俺には無いのよ!!よくこんな状況で周り探索したり出来ますね!?小刻みに震えることしか出来んわ!!


『…なんか変な奴が居るな、なんだ貴様』


と恐怖のあまり理不尽な怒りを見当違いなところにぶつけつつ現実逃避していたのだが突然聞こえて声にブォン!と擬音が付きそうな勢いで振り向くが声の主の姿を確認することが出来なかった。ちょっと待ってこんな下り前にもやったよね?


「…え、あの、だ、誰かいらっしゃるのでしょうか?出来れば助けて欲しいんですが…、ってかお前魔王だろう!?2度もこんな状況作りやがっていい加減にしろ!出して下さい!」


理不尽過ぎて若干怒りがこみ上げて来たのだが恐怖さんがインターセプトしてきた俺のメンタルはもう戦えないですわ!?


『…魔王…か…、そう呼ばれんのも久しいな。だが2度目ってのは意味が分からん、俺は貴様と会った事なんてねーよ。もう数えるのも面倒な年月此処に居るんだからな』


え、この人(?)魔王だけど俺の知ってる残念な方の魔王じゃないの?と言うことは奴がいた世界に転生した訳じゃないってとこか?…俺の人生詰みましたかこれ。あ、あのアマぁ!!


「そ、そんな…じゃあ俺どうしたら…」


『んーまあ、強く生きろよ小僧。なるようになるさ、俺は此処に縛り付けられて出たくても出られんからな。この厄介な封印を解く封解鍵が無きゃどうにも出来んよ』



絶望と残念魔王に対する怒りで茫然自失していた処にちょっと聞き捨てならない言葉が聴こえてきた。

…え?封…解鍵?いやいや、そんな御都合主義な展開あるわけ…ないよね?そんなもんフィクションの中だけだろう!?


『…おい小僧、なんかお前から封印に対して対抗魔力が流れてきてるんだが…その手に持ってる物はなんだ?』


はいこれーーー、はいこれ封解鍵!!良かった!!これでこんな所からオサラバ出来るって訳ですよ!!御都合主義万歳!!転生して運が上昇してんじゃないですのん!?

とそんな内心小躍りしていた俺に対して次に投げかけられた言葉で一気に現実に引き戻される事になる。


『…小僧それを使って俺を解放しろ。そしてこの世界を再び崩壊へ向かわせねばならん。貴様には栄誉な事に俺の今代での依り代としてその身体を使ってやろう、素直に明渡せ』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ