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へたれ魔王の余直し方法?(仮)  作者: ひろ(仮)
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第1話 転生

えらく緊張しますね…プルプルします。

夢を見た。

懐かしい田舎道で幼い子供たちが田んぼのあぜ道を走り回っている。ああ知ってる、これ実家の近所のじいちゃんちの田んぼだなぁ。

そんな懐かしむように目を細めていると女の子が盛大に田んぼにダイブしてしまった。あんななんでもないところで盛大に飛べるとは一種の才能ではないだろうか?


自らの意思ではないだろうが、大きな水しぶきを挙げて落ちた女の子に対して、どうしよう?助けないと!でも……と心の声がダダ漏れなくらい狼狽している男の子を見て思う。


うん、知ってる。大丈夫だよ少年。

だって女の子はずぶ濡れではあるけど元気よく立ち上がって、笑顔でこういうんだ。




『あービックリしたけど楽しい!にいちゃんも入っちゃいなよ意外と気持ちいいよ!』




顔に泥を付けたまま、その身に幾度となく『不幸』が見舞われようと笑顔を忘れない女の子。


これは紛れもなく俺『長谷川慎太郎』の幼いころの記憶。その断片が見せるまぶしいほど残酷で淡い夢だった。







「……っ!?……夢?そうだよな、糞ッ、なんで今更こんな夢!」



いきなり幼い頃の記憶を思い起こされ、悪態をつきながら起きた。夢の内容は至ってハートフルでなんてことはない、『妹』の思い出って奴であったが……思い出したくもないものなのだ。俺にとっては。



「あー、きっと慣れない事して、死んじまったから頭がおかしくなったんだな?HAHAHA、そりゃそうだろうだって俺さっきトラックに轢かれて人生スリーアウト!ゲームセッツ!!って……」



あれ?なんで 俺生きてるんだ?いや、もしかしてこれが件の死後の世界って奴だろうか??なんだか頭がスッキリしないというか靄がかかっているみたいだし、なんといっても体の感覚がまるで無い。所謂『魂』って奴?



回りなんて黒一色の世界。一点の光さえ見えないが不思議と不安感や焦燥感といったものは感じなかった。不思議だ、生きていた頃の俺だったら発狂していたかもしれない。寝る時も豆電球さんにはお世話にならないと寝れないのだ。暗闇さん怖い。そこ、29歳で……とか言わない!暗闇さんを敵に回してはいけないのだ。俺の精神崩壊絶頂!……そんなこと思い出してたら怖くなってきちゃったじゃないか。


「というか、本当にどこなんだろうここ。自分の体すら見えないし……。いえいえすみません本当にやばいです勘弁してください私何か至らぬ点がございましたでしょうか、至らぬ点だらけでしたかそうですか?光を!!!光をください!?ちょっとでいいから!!29歳男子の本気泣き見せてやろうか!!!許してください!!ほんとなんでもしますから!!」




ここに誰も居なくてよかった、いや居て欲しかったけど今のこの状態を見られたらまず間違いなく『へたれ』という烙印を押されるところであった。マジセーフ(社会的には)マジアウト(俺の心中)。





「んぅ……くく、ふぇっ……!」



そんな他のお人には決してお見せできない自主規制状態で錯乱を続ける俺の耳に、かすかにくぐもった様な、いや、必死で何かを堪えているような?そんな声が聞こえてきたような……?



「だ、誰かいるんですか!?すみません何か光る物でもなんでもいいですから助けてください!もしくはせめて一緒にいてくださいませんかね?!切実に!」



聞こえた声の方向に向かってつい咄嗟に叫んでいたが、ここに他に人が居たのか。社会的にアウトが決定した瞬間であった。いやもう社会とか関係ないとは思うが……こうね?羞恥心はばっちりあるわけで。




「いやいや、ごめんなさいね?あまりにもぶつぶつ独り言言いながら勝手に盛り上がって錯乱していったからおもしr……コホン、心配だったんだけど声かけていい物か迷っちゃって」



・・・全部キカレテミラレテルーヤ。今この空間にはこの人?と俺しかいない訳でそれはつまり俺のあられもない姿を晒してしまった訳だ。何たる失態か。これでも世間様には紳士で通っていたと自負していたのに!


てかこっちは姿見えないのにこの人からは俺が見えてるのか……何たる不条理だ、その能力俺にもくれないかなぁ。



「ふふっ……、ご、ごめんなさい、くく、こんなに笑ったのは何百年ぶりかしら、あはははははははっ!」



遂に笑いが堪えきれなくなったのであろう、彼女?はひーひー腹を抱えながら笑い転げている。

いや暗くて見えないので本当にそうなのかわからないが、見えなくてよかった……。



というか女性だったのか!!余計に情けない上に恥ずかしい!!逃げ出したいけど一人でこんなとこ居たら速攻で発狂してしまう!!


こんな上下左右の間隔すらわからない闇の空間で孤立するなんて考えたくもないものだ。もしかしたら宇宙空間とかこんな感覚なのだろうか?ならば俺は宇宙旅行など断固反対だ、徹底抗戦の構えを取らせて頂こう。



「しかし驚いたわ、ぶつかってきた幸薄そうなおっさんがまさか私を庇ってトラックに轢かれていったんだものね?それがまさかこんな……ブフッ!情けないっていうかヘタレ?だなんてっ!」


「はは……、は?」


それはそうだろう、見事だったかはわからないがあの土壇場での美少女救出劇を演じたナイス・ガイな男が実は、真っ暗闇にで発狂寸前、自主規制待ったなしヘタレだったのだから。俺のアイデンティティ絶賛崩壊中である。元から崩壊する物もないが。


ん?というかこの女性は今なんて言った?そういえばさっきの言葉にもなにかおかしな言葉が混じっていたような……。


「あの、すみません。今なんて?私が庇った少女が貴女なのですか?それに『何百年振り』ってのは……?」


この女性は何を言っているんだろうと思った。そりゃそうだ、何故ならあの時の美少女は何とかあの事故から救えたと思うし、その結果が俺のトラック&コンクリートのサンドイッチである。

それにあんな綺麗で可愛い美少女が百年単位で生きられるほど現代の医学が発達しているはずがないのだ。




「まあ、君の言いたい事はわかるわ?まずなんで死んだ自分と同じ場所に私がいるのか?ってことだけど。これは見せたほうが手っ取り早いわね、こう言う事よ」



と彼女がそう言うと俺の視界は先ほどの事故現場に戻ってきていた。ただやはり実体は無いようで、霊視体験ってやつだろうか。


先ほどまで自分に迫っていた暴力の権化の様なトラックもスクラップ同然のように至る所が拉げ、真っ赤なナニかをぐちゃぐちゃにして黒煙を上げながら止まっていた。

まさか自分の死体を見る羽目になるとは思わ無かったが、やはりというか『ああ、俺は本当に死んだんだ』と、少し物悲しい気持ちになる。



すると耳元、いや頭の中に直接といったほうがいいだろうか?さっきの彼女の声が聞こえてくる。彼女はこう言ったのだ。




『君の体のすぐ横を見てごらん?これが答えよ』




そこには綺麗な銀色の髪を真っ赤に染めて、隣にいる俺と重なるようにして『何か』がいる。

体の大部分が複雑に混ざり合うようどちらがどちらなのか判別できないぐらいだ。

そう、どこか綺麗な色相に見える内臓をぶちまけられ、見るも無残な『物』に成り果ててている『彼女』がそこにいたのだ。



薄らと微笑みを浮かべながら。




「っう、うわあぁああああああああああ!?」





ウソだ、嘘だうそだ、うそだ嘘だ!!!そんな、こんなのってないじゃないか!!

だってそうだろう、今日は人生で最高についてない日で、それでも今までの人生で初めて勇気を出して身を挺したってのに現実はいつだって非常だっていうのか?こんなのあんまりに報われない、何より彼女を助けられなかったのが悔しかった。






心の中であまりにもひどい理不尽に対して絶叫し、それと同時に湧き上がる無念で押しつぶされそうになり、声に出して叫んでいた。救いがない、こんなのはあまりにも救いがないじゃないか。




しばらくすると視界がまた暗闇に戻っていた。




俺はもう悲しみと悔しさ、そしてあまりにも無力だった自分にと疲れ切っていた。

先ほどまではきっと助けられたであろう少女の事を思いながら、最後に一花咲かせられた!なんてちょっといい気になっていたのだから。



「……落ち着いた?結果はあんまりだけど、でも逆に私は君に感謝してるくらいなのよ?」



「……?何言ってるんだ?こんなヘタレと一緒に死んじまったんだぞ?君なら待っている人だって沢山いただろうに」



あれだけ弩級の美少女だったんだ、家族や友人、さすがに彼氏だっていただろうし。大勢の人に囲まれていたのではないだろうか?ぼっちの俺とは違って。

しかし彼女はさも他人事のように。



「ああ、そんなの邪魔になるから最低限しか付き合いないわよ」



と至極どうでもいいと言い切ったのだ。続けざまに彼女は語る。




「だって私はこの世界に縛られていたんだから!ぶっちゃけ何度目だったかな?たしか15度目くらい?だいたい400年くらいかな、私はこの世界で転生させられているんだから」



「……はぁ?」



いきなり何素っ頓狂な事言ってるんだ?この娘は。転生?15度目??400年???

いやいやいや、そんないくらなんでも盛りすぎだよおなか一杯です。まさかちょっと痛い娘だったとは。俺にもそんな時期があったから少しは分かるけど現在進行形でしたか。



「何よ、信じてないの?これでも私はこっちの世界でいう異世界で最強の魔王だったのよ?まぁ、勇者にやられてまさか異世界……あ、こっちの世界ね?で、転生するなんて思わなかったけどねー」



カラカラと笑いながら話している彼女の話を聞くに、つまりはこう言う事らしい。



元の世界では最強の魔王だった彼女は討伐しに来た勇者に敗れ、この世界に転生をしてしまったらしい。まぁ、別の世界に転生することはよくあることらしい。魔王の復活が予測できない原因の一つなのだと彼女は続けた。

なのでこの世界で楽しく生を謳歌していたそうなのだが、何度この世界で死んでも元の世界は愚か他の異世界にも行けずこの世界でループしていたらしい。



「でもやっと元の世界に帰れそうなのよ。多分だけど君がなにかキーになりそうな素質でも持っていたのかもね?あんなに濃厚に混ざり合ったのなんて……、初めてだったんダカラネー?」


「……そこはもっと恥じらいをもって言って欲しかったというか、最後だけ棒読み過ぎて逆にすがすがしいわ!」



実にサバサバしてるというか外見は超絶美少女だったのに中身は親しみやすそうなお姉さんみたいで、俺もさっきまでの緊張が解けてきているようだ。それに自他共に認めるヘタレな俺がこんなにやすやすと女性と会話できているんだ。凄いと思う。まぁ、今は姿が見えないからなのかもしれないが。



「というか、そもそも魔王とか普通に信じられないからな?ただの痛い子だな?って感想しなかないわ!本当に魔王だってんなら証拠見せてからにするんだな」


「あー、そう言う事言う?いいよいいよ。じゃあ特別に君の願いを叶えてあげようかな?でもどうせ死んじゃってるしねー、君の本来の体にまた生き返るとか転生してイケメン金持ちにしろとか?第二の人生斡旋しちゃおうかしら?なぜか今回死ぬ直前は『魔法』が使えなかったけど……今は世界からも解放されているもの!」



フハハハー、と高らかに笑う彼女を胡散臭い物を見るように顔を顰める俺。顔無いけど。というかトラックに轢かれる前ボソボソやってたのって魔法を使おうとしていたのか。使えなかったみたいだがな?

……しっかしそうかそうか、ある程度願い叶えられるのかー。そうだなぁ、転生ねぇ…いや、そんなこと……ならじゃあ……。


と俺はニヤニヤしながら自称魔王にこう告げたのである。





「じゃあ、もし本当に転生したらお前は俺の嫁な?」




「へ??」



どうせ使えるわけないんだろ?とふっかけた上に嫁になれと上から目線な命令に目を丸くしている(ような)彼女。だってひとつだけなんて言ってないし。嫁欲しいし。


その瞬間、突如として視界が一気に虹色の光で包まれて暗闇の空間がパリンッっとガラスが割れるような小気味よい音とともに崩壊していった。



「え!?嘘!!何これ!?私まだ何もしてないのに?!」




そんな彼女の声がずいぶん遠くから聞こえた気がする。ああ、そうかあんな馬鹿話していたからさっきまでの無念とかそういうのが浄化されて俺は成仏するんだな……。とちょっと清々しい気持ちで目を閉じていく。願わくば彼女も早く成仏できますように。といつもの俺らしくないことを考えてしまった。






……しかし妙だ、さっきからやけに寒くないか?体感だと2月頃の長野にスノボーしに行ったときみたいだ。ぼっちスノボ楽しいんだぜ?……ってか痛い!!手足が痛いよ!!

成仏って言うくらいだからどちらかというとぽかぽかと暖かいイメージがあったのだが俺のイメージ違いなんだろうか。他の霊の方にも聞けないのでわからんが。


「なんだ?なんでこんな寒……」


あまりの寒さに思わず目を見開いてみた、ってかあれ?眼?体がある?嘘だろ?生き返ったってのか!?


そしてそんな俺の視界に飛び込んできたのは……。



数歩先には底が見えない奈落が広がる素敵な円形の浮島の一等地、もとい絶海の孤島?いや絶空の孤島?ともかく行きつけの立ち飲み屋や会社のオフィスなんてかけらも見当たらない代わりに瓦礫が至る所に散在する島の上に俺は居た。なんだ?どうしてこうなった?


「すみません。素直に成仏させていただけないでしょうか」



虚しく響く俺の声が奈落から吹き上げる風の音に惨たらしくかき消されるのであった。

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